日本クラフトビール株式会社代表取締役・山田司朗さん

日本クラフトビール株式会社代表取締役・山田司朗さん

英国ケンブリッジ大学でのMBA留学中にヨーロッパの多様なビール文化に触れ、日本でクラフトビール会社を立ち上げることを決意した、日本クラフトビール株式会社代表取締役の山田司朗さん。和の食卓に映えるビール「馨和 KAGUA」、東京の魅力を世界に発信できるビール「Far Yeast」というブランドは、今では国内で最も注目を集めるクラフトビールのひとつに成長していますが、そこに至るまでにはさまざまな試行錯誤がありました。
(前編はこちら)

■「国際言語」であるビールで勝負したい

──起業を決意しての帰国後、どんな準備を始めたのですか?

山田:当時は、日本のクラフトビール事情をまったく知らなかったので、ビアフェスやクラフトビールを扱っているバーに足を運ぶことから始めました。そこで、実は日本にも美味しいビールがたくさんあることを知りました。アメリカで流行っている新しいスタイルを取り入れるなどして、国際的な品評会で入賞しているメーカーもいくつかありました。一般には馴染みが薄かったのですが、実はクラフトビールの作り手たちは年々レベルアップしていたんです。だから最近、クラフトビールがこれだけ盛り上がっているのも、ぽっと出たブームではなく、まだマイナーな時代から作り手たちが一生懸命努力してきたことがようやく実った結果だと思っています。

──いずれ日本でもクラフトビールブームが来ると予想できたから、起業に踏み出したのでしょうか。

山田:日本のクラフトビールがそこまで盛り上がらなくても、別にいいかなと思っていました。というのも、国内だけの事業としてではなく、海外展開を当初から考えていたので、国内のビール市場はそこまで気にしていませんでした。

──すでに自国のビールがたくさんあるアメリカやヨーロッパに出て行くのは、とても難しいことだと思います。日本酒や焼酎のような日本独自のお酒の方が、ライバルがいない分、海外進出しやすいのではという気もしますが。

山田:日本酒や焼酎で世界に打って出るというのは、とても意味があることだと思っていますし、チャレンジされている酒造さんには成功して欲しいと思います。でも、そもそも日本酒は新規に参入しようと思っても、酒類製造免許が下りません。また海外の人にとっては、和食レストランで飲むことはあっても、日常的に日本酒を飲むという習慣がない。例えば、日本人が紹興酒やマッコリを家ではなかなか飲まないのと一緒ですね。エスニックな世界なので、ビジネスとして難しいところはあると思います。

一方でビールというのは「国際言語」。ビールは英語と同じように世界中どこでも飲まれているし、どこでも通じる言葉です。だから僕は、「和の世界観を持ったビール」というコンセプトを持って、世界でやっていきたいと思いました。

■「1番いい状態でビールを飲むという体験」=ブランドの醸成

ワイングラスで飲むことで、特徴的な香りをより楽しむことができる「馨和 KAGUA」

ワイングラスで飲むことで、特徴的な香りをより楽しむことができる「馨和 KAGUA」

──「和の食卓に映えるビール」をコンセプトにした「馨和 KAGUA」を完成させ、2012年3月に販売開始させた当初は、飲食店での提供からスタートされていますよね? 小売から始めなかったことに理由はあるのですか?

山田:「馨和 KAGUA」には「Blanc」と「Rouge」の2種類があり、白ワインと赤ワインのように料理との相性によって楽しんでほしいというこだわりがあります。そのため、まずはブランディングが大切だと思い、レストラン提供から始めました。レストランであれば、プロの方にビールを1番いい状態で提供してもらうことができるので、お客様の体験のコントロールができると考えました。

──すでに大手メーカーのビールを提供している飲食店に、新しいビールをおいてもらうのは営業面での苦労もあったのではないでしょうか。

山田:初めは知り合いのお店からスタートしました。うちのビールは賞味期限も長いので、とりあえずメニューに入れてみて、ダメだったら下げるという約束で置いていただけることが多かったんです。だからスタート当初は結構、お店で取り扱っていただける確率が高くて、8割以上は採用していただけました。でも、知り合いのネットワークが同心円状に広がっていくと、どんどん僕と飲食店との関係性が薄くなっていくんですよ。30件を超えたあたりからガクッと取り扱っていただける確率が下がっていって、大変でしたね。

(次ページ)小売販売をスタートした結果は?