留学生写真:公益財団法人AFS日本協会提供(上段左からアメリカ、マレーシア、コスタリカ、下段左からインドネシア、アルゼンチン、フランス)

留学生写真:公益財団法人AFS日本協会提供(上段左からアメリカ、マレーシア、コスタリカ、下段左からインドネシア、アルゼンチン、フランス)

高校生の交換留学を中心に異文化交流や異文化学習プログラム実施している教育団体、AFS。前身団体の活動開始から100年の歴史を持つ国際組織AFSの日本における活動を担っているのが公益財団法人AFS日本協会です。その理事長である熊平美香さんとライフネット生命会長兼CEOの出口治明が、高校生での海外留学の意義や「地球市民」の役割について語り合いました。

■多様性に直に触れる体験をしてほしい

出口:熊平さんも留学経験があるとお聞きしましたが、高校生のときですか?

熊平:ええ。残念ながらAFSではなかったんですが、高校生のときにニューヨーク州の郊外にあるイサカという町に留学しました。

出口:若い時期に海外で過ごすのは良い経験ですよね。

熊平:人生の中で貴重な時間だと思います。私の息子は高校ではなく、大学生のときに留学しました。多様性に直に触れた経験は、人間形成に大きなインパクトを与えますね。ただ、どうしても頭で考えて行動してしまう大学生よりも、心で感じる高校生の方がインパクトは大きい。うちの息子も高校で留学した方が良かったかもしれません(笑)。

AFSネットワークには18才以上のプログラムもありますが、留学時の最適な年齢は高校生だと考えています。小学生だとあまり記憶に残らずに帰国してしまうことになります。やはり15才前後が一番吸収がいいんですよ。自己が確立しつつあって、異質ものに触れたときに違いを感じ、そもそもなぜ自分はこう考えるのだろうかと自己内省もできる。

出口:15才頃になると母国語で思考力が育ってきますからね。この年齢なら自分で自分のこともできる。これが小学生だと親がいないと何もできない。逆に、大学生はいやだと思えば自分で逃げられる。というか、そこまで入り込まない(笑)。でも、高校生だと入り込まないわけにはいかないですよ。ひとりで生きていけるけれど、誰かに頼らないと生きていけない。その絶妙のタイミングを考えると、やはり15才ぐらいが留学には一番いいかもしれませんね。

■世界40か国に広がる留学先

出口:留学するのに、性格的な向き不向きというのはあるんでしょうか?

熊平:留学をしたいと考えた時点ですでに適性があると思います。私自身がそうでした。好奇心があって、人と関わることへの恐れがあまりない人が向いていますね。

出口:AFSで留学される方は、何がきっかけになっているんですか?

熊平:先輩の体験談を聞いたり、留学生を学校で受け入れていたり、自治体などが留学生を呼んで開催する交流活動がきっかけで、留学を考え始める方が多いようです。グローバル人材を育成しようと、いま国をあげて奨励をしていますから、そこから留学を思い立つというケースも増えてきました。

出口:留学先はずいぶんと多岐にわたっているとお聞きしました。

写真左:熊平美香さん(公益財団法人AFS日本協会 理事長)、右:出口治明(ライフネット生命会長兼CEO)

写真左:熊平美香さん(公益財団法人AFS日本協会 理事長)、右:出口治明(ライフネット生命会長兼CEO)

熊平:現在、約40か国です。アメリカが一番数が多いですが、AFSでは「派遣強化国」としてアジアや中南米などの地域もお勧めしています。アジアで人気が高いのはマレーシア。英語も通じますし、多民族国家であることが若者にも浸透していて、留学先として注目されています。中南米のコスタリカも人気ですね。軍隊がない平和憲法をもつ国であることを学校の授業で知って、留学を希望したという方が多いようです。自然が豊かで、火の鳥のモチーフになった鳥がいる国ですね。

出口:そういう国が人気を得ているのは面白いですね。ところで、留学して帰ってきたら、また同じ学年をやり直すことになるんでしょうか? 例えば、高校生で1年間留学をしたら通算で4年間通わなければならないのかな。

熊平:以前はそうでしたが、学校教育法で36単位を上限に留学体験そのものが単位として認められるようになったので、学校長の承認がおりれば3年で卒業できます。ただ、これは本人の希望次第というケースも多く、同じ学年をやり直す人もいれば、上に上がる人もいます。割合はだいだい半々ですね。

■外の世界に目を向けることのできる地球市民を育成したい

出口:留学生活に適応できなくて、途中で帰国するというケースはありますか?

熊平:そんなに多くはありません。ただ、途中帰国イコール失敗だとはとらえていません。留学に行く時期が適切じゃなかったのかもしれない、心構えや準備が足りなかったのかもしれない、日本でもっと大事なことがあったのかもしれない……理由や背景はさまざまですが、たとえ1年の留学期間をまっとうできなくても、少しでも得るものがあれば、それは学びや成長の機会だと思うんですよ。

出口:そうですね。外の水を知るのは良い経験です。そもそも日本の人口は世界の1.7パーセントに過ぎませんし、早い段階で海外を見ると選択肢が広がりますよ。タイの和僑会(わきょうかい)というところで講演をしたときに改めてそう感じました。

熊平:和僑会ですか?

出口:ええ。華僑の向こうをはって和僑会(笑)。その会の方からは、いろいろと面白いお話をお聞きしました。バンコクに住む日本人の人口は5万〜6万人。在留届を出していない人の数も入れると10万人ほどいるらしいんですが、日本と違ってお年寄りはいないので、バンコクの日本人社会は日本の平均的な町に匹敵する消費活動が生み出しているんですね。極端なことをいえば日本語だけでも生きていける社会ができている。

熊平:10万人というのはすごいですね。

出口:でしょう? 和僑会の方によれば、高卒の人や日本で良い大学に入って大企業に就職するというコースをたどれなかった人、日本社会に適応できなかった人もたくさんいて、元気に仕事をしているそうです。これは本当に良い話だと思いました。世界には多様な生き方があります。仮に日本の一括採用型の就職活動でうまくいかなくても気にする必要は全然ない。
世界に目を向ければ、選択肢はぐっと広がる。だから僕は、海外で元気に生きている若い人をメディアなどがもっと取り上げて、黒いリクルートスーツを着て企業回りをしなくてもいい生き方が世界にはたくさんあることを知らせてほしいと思うんですよ。ロールモデルを上手に見せてあげたら、若い人はもっと生きやすくなるんじゃないかな。

熊平:本当ですね。私たちが目指しているのも、まさにそうした外の世界に目を向けることのできる地球市民です。平和を実現するためには地球市民の育成は欠かせません。AFSは100年前からそうでしたが、いまこそ地球市民の視点が必要です。

(後編につづく)

<プロフィール>
熊平美香(くまひら・みか)
1985年に青山学院大学法学部卒業。1989年にハーバード大学経営大学院でMBAを取得。金融機関金庫設備の熊平製作所・取締役経営企画室長などを務めたのち、日本マクドナルド創業者・藤田田に弟子入りし、新規事業立ち上げや人材教育の事業に携わる。AFS日本協会理事長のほか、エイテッククマヒラ代表取締役、クマヒラセキュリティ財団 代表理事、Teach For Japan 理事などもつとめ、社会的起業家育成、学校教育の格差是正、女性の起業とキャリアアップの支援など教育の幅広い分野でイノベーション活動に取り組んでいる。 2013年に『学習する組織』を形成するリーダー育成、および組織開発支援を展開するAMBITIONERS LABを設立。

<クレジット>
取材・撮影/ライフネットジャーナル オンライン編集部
文/三田村蕗子