長谷部健さん(渋谷区長)

長谷部健さん(渋谷区長)

2015年11月5日、東京都渋谷区で同性カップルを結婚に準ずる関係と行政が認める「パートナーシップ証明書」が発行されました。全国でも初めてのことです。

なぜ渋谷区が全国で初めて「パートナーシップ証明書」を発行できたのでしょうか? 渋谷区はこの条例によってどんな街づくりをしようとしているのか? 長谷部健渋谷区長に話を聞きました。

■自治体のイチ議員として友人にできることを考えた

──証明証発行の反響はいかがですか?

長谷部:歓迎する声が多く届いており、うれしいですね。ただそれと同時に、実際のところはスタートラインに立ったばかりなので、まだまだこれからなのだとも思っています。

──ライフネット生命は死亡保険金の受取人指定の範囲を同性カップルまで拡大するにあたり、数年前から検討を進めていたのですが(詳しくはこちら)、多方面からさまざまな意見がありました。おそらく行政の場では強く反対された方もいたと思うのですが、どのように議論をされてきたのでしょうか?

長谷部:これは私の印象ですが、反対する人には決して明快なロジックがあるわけではなく、単純に「慣れていないだけ」というケースが多いように感じます。それは身近にLGBTの方がいないとか、存在に気がついていないということかもしれません。

僕自身も20歳くらいの時に初めてアメリカに旅行した時にLGBTという人々の存在を知って驚いたんです。やたらゲイの人からナンパされたんですよ。それはもうビックリしましたね。でも、当時は「アメリカは日本とは違うな」と思ったくらいでした。でも帰国して意識してみると、私の周りにもLGBTの当事者がいっぱいいることに気がついたのです。

でも私の認識が大きく変わったのは30歳を過ぎてからです。街のゴミ拾いNPO「グリーンバード」で活動を始めて、そこに来た性同一性障害の方と出会ったのが大きいですね。

──どういった方だったんですか?

長谷部:私が初めて出会う「FtM」(Female to Male。身体的には女性だが性自認が男性)の方でした。彼からずっと悩んできた話などを聞いて、単純に「なんか今の世の中はおかしいぞ」と感じたんです。私と変わらないごく普通の人なのに、どうしてそんなツラい思いをしなければならないのかと。

それで私が自治体の議員として、自治体の取り組みで何かできることはないかと考え、行き着いたのがパートナーシップ証明書ということだったんです。

■想定よりも世論の反対の声が小さかった

──なるほど、長谷部区長の個人的な思いも反映された条例でもあるんですね。

長谷部:ただ、当然すぐに形にできたわけでありません。これを最初に議会で提案したときは、同意してくれる人もいれば、絶対に反対だと言っている人もいました。

反対していた人たちも、よく話を聞いてみると実は反対する根拠に欠けていたんですよ。「この法案を認めたら渋谷がオカマの街になってしまう」みたいなことを言うのですが、パートナーシップ証明書を発行しても、渋谷の街は何も変わらないわけじゃないですか。だからそこの誤解を解くように話をしました。

このイシューは、マイノリティの問題ではなく、実はマジョリティの側に意識の変化が求められているということに尽きると思っています。

──条例案可決のニュースのあと、世間の反応はいかがでした?

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