15112001_2

長谷部:非常に好意的でした。もう「こういう制度ができるのは当たり前だよね」といった感触で。むしろ、想定していたより反対の声が小さかった印象です。

──選挙やメディアを通じ条例案が話題になったことで、世間の声が反対派の人たちにも届いたのでしょうか。自分たちが思っているよりも、世の中は賛成ムードだと。

長谷部:そうでしょうね。私も正直、「そうだよね、世の中がこういう方向に変わっていくのは当然のことだよね」と思いました。反対していた人たちも、実は、頭ではこれが世の中の流れだとわかっていたんだと思います。

しかし、国に制度があるわけでもないし、自分がLGBTの人と実際に接したこともないから、感情的になって「絶対反対!」と言ってしまう。そこに世の中の声が届いたことで、考えが変わっていったということはあると思います。

■「ただの紙切れ」が助けになることを増やしたい

──渋谷区内の事業者に対して、証明書が発行された同性パートナーを法的な婚姻関係と同等に扱うことを求めてらっしゃいますね。渋谷区内の事業者からの反応はいかがでしたか?

長谷部:当事者にとって、例えばマンションを借りるとか、病院で家族以外が面会できないといった不安がありますよね。既に渋谷区は、その問題にアプローチしています。

事業者からは、「うちは絶対に無理です」といった声はないですね。むしろ、「これをきっかけに『当社はLGBTフレンドリーです』くらいのことを言っていいんですか?」と逆に聞かれたりすることがあるほどです。

こんな立場で言うのも微妙ですが、私は人前式で結婚をしているんです。それで「みんなの前で誓ったときが結婚記念日だ」とか言っていて、当時は、入籍届はしょせん紙切れくらいに思っていました(笑)。

だけど入籍届を出したときに、なんというか、すごく「結婚した感」があったんです。自分でも意外だなと思って。それでパートナーシップ証明書というものを考えるにあたり、LGBT当事者の方々に、「自分たちにとって意味があるものだと感じますか?」と聞きました。そうしたら、「行政が認めたものであれば、これ自体はただの紙切れかもしれないけど、非常に意味があることです」と喜んでくれたんです。

そうしたなかで、私たちはさらに、少しでも具体的な課題を解決できるものにするために事業者へ「この証明書を持っている人は、夫婦と同等に扱うように」と求めることについても議論したわけです。

■国全体がLGBTフレンドリーになるために必要なこと

──証明書の申請は、今後どれくらい増えていくと想定していますか?

長谷部:以前から言っているのですが、それほど一気に申請が来ることはないと思っています。パートナーがいることが前提ですし、ほぼカミングアウトに近い行為ですからね。それに今はメディアからも「どんな人が証明書を求めるのだろう?」と注目されていますから、気軽に申請がしづらいと思うんです。しばらくは年間で10件くらいかなと思っています。

──自治体だけでなく、国として取り組んでいくべき課題だとお考えですか?

長谷部:個人的なものですが、そういう思いはありますね。同性婚についても私自身は賛成です。しかし、私がこのまま先頭に立って旗を振り続けていくつもりはなくて、今度は渋谷区の他の課題についてもしっかりとやっていこうと思います。

パートナーシップ証明書の実現まで持って来られたから、次は企業や当事者たちの声が盛り上がっていくことを期待したいです。今がファーストウェーブだとすると、国全体として変わっていくとしたら、そういう民間からの声がもっと広がり、セカンドウェーブになったときだろうと思っています。

──当社では全国のお客さまを対象にネットで保険を販売していることもあり、渋谷区や世田谷区といった自治体の証明書に限定せずに、死亡保険金の受取人に同性パートナーを指定できる取り組みを始めました。こちらについてはどう思われましたか?

長谷部:スーパー素晴らしい! と思います。特に良いなと思うのは、不正をされる可能性をちゃんと排除しているところですよね。同居の事実を住民票で確認するとか、独自のチェック方法にすることで信頼性をきちんと担保している。こうした取り組みがLGBTフレンドリーな企業が広がる第一歩と言えると思いますし、これに続く企業がどんどん出てきてほしいですね。

<プロフィール>
長谷部健(はせべ・けん)
渋谷区長。1972年3月、渋谷区神宮前生まれ。専修大学商学部を卒業後、博報堂に入社。同社を退職後、ごみ問題に関するNPO法人グリーンバードを設立。2003年には渋谷区議に初当選。第18回統一地方選で渋谷区長に立候補。当選を果たした

<クレジット>
取材・文・撮影/ライフネットジャーナル オンライン編集部