写真左から佐々木紀彦さん(株式会社ニューズピックス取締役)、岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)、窪田泰彦さん(ほけんの窓口グループ株式会社代表取締役会長兼社長)

写真左から佐々木紀彦さん(株式会社ニューズピックス取締役)、岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)、窪田泰彦さん(ほけんの窓口グループ株式会社代表取締役会長兼社長)

急速な高齢化が進み、内閣府の発表では、2035年には人口のほぼ3人に1人が高齢者(65歳以上)になると言われています。平均寿命も伸び続けているいま、介護や医療の問題は今まで以上に重い課題となっています。
そうした社会の変化とともに、お客さまの保険に対するニーズも変わりつつあります。

先日行われたSPEEDAとアカデミーヒルズのコラボレーションによるセミナー「保険業界の5年後」に、ほけんの窓口グループ代表取締役会長兼社長の窪田泰彦さんと、ライフネット生命社長の岩瀬大輔が登壇しました。進行はニューズピックス取締役の佐々木紀彦さんです。

ほけんの窓口は、複数の保険会社の商品を比較検討したいという消費者のニーズに対応する対面型の「乗合代理店」という形で、古くからスタンダードであった、一社専属(一つの保険会社の保険商品のみしか代理店は販売できないという仕組み)とは全く違った販売手法で成長を続けています。

ライフネット生命は、ネットを活用した生命保険販売を開始し、2014年12月からは、ほけんの窓口においてネット販売の対極と見られていた対面での保険商品の販売を開始しています。

今、大きな転換期を迎えている保険ビジネス。今後の変化について、窪田社長と岩瀬が考えます。

■まだまだ生命保険の需要は喚起できる

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佐々木:情報化が進み、社会が大きく変化する中で、さまざまな分野で商品の売り方も変わってきています。作る側中心から、より消費者中心へと動いていて、流通が力を持ち始めていますね。保険業界にもその流れが訪れているかと思います。ほけんの窓口のような乗合代理店から見て、そうした変化をどのようにとらえていらっしゃいますか。

窪田:インターネットの普及によって、今、お客さまは多くの情報をお持ちです。その中で、売り手として対応していかなければなりません。

お客さまの満足度を中心に据え、競争していく中で、これまでのように、流通、代理店を通してしかマーケットを見ない、ということが今の保険会社が抱える問題点です。

供給サイドの論理を一旦忘れれば、需要がまだまだ掘り起こせますし、我々も、流通を担うものとして、マーケットと一体になって、保険会社に需要を訴えかける、これもひとつの使命ではないか思っています。

佐々木:ライフネット生命さんの場合、自社で保険商品を作ってネットで販売しています。つまり、作るところと流通とが一体化していますよね。消費者とネットで直接関わっているという部分で、何か感じていることはありますか。

岩瀬:ネットでは顔が見えないので、対面販売に比べてお客さまとの距離が遠いように思われるかも知れませんが、意外にも、同業他社から当社に転職してきた者が、「以前よりもお客さまを近く感じる」と言っていたことがあります。

その社員がいた保険会社では、査定事務を行う人間は営業担当と連携していたようですが、当社ではお客さまと直にやり取りしています。システム部門も、我々経営陣も、ウェブサイトを介してお客さまと直接つながっています。そこからお客さまの声や、フィードバックのループを生かせるというのが我々の特長だと思っています。

また、ネットアクセスのデバイスがPCからスマートフォンになって、お客さまとの距離感もより身近になったと感じています。将来的に、例えばスマートフォンの中に保険証券が入っていて、それで保険会社とつながることができたら、ご契約者にとっての保険というものが変わるかもしれません。

今後は、ネットだけではなくテクノロジーが普及することで、保険と我々生活者との距離や関係性が変わっていくのではないか、と思っています。

■店舗の数より人材の質が重要

佐々木:最近話題の、大きな生命保険会社として、かんぽ生命があるのですが、郵便局はこれから日本の社会でどういう役割を果たしていくと思われますか。

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窪田:いまの時代、お客さまはご自分で調べて、情報武装してご来店されますし、ニーズも細分化しています。それに応えられるかどうか、プランナーの対応能力が大事で、単に店舗網があれば応えられるということではないと思います。

佐々木:それに関連して、ほけんの窓口では、人材育成研修にヒト・モノ・カネ・時間のすべての経営資源を最大限・最優先に投入し、年間30億円もの費用をかけているとのことですから、大変手厚いですよね。さらに、中途採用者の9割が保険業界未経験者ということにも驚きました。

窪田:はい。我々は、即戦力は求めていません。我が社で時間をかけて教育します。研修では、いかに売るかということではなく、聴く力を鍛えます。

商品別にお客さまのご希望がどこにあって、保険料負担の余力がどのくらいある、ということを話し合いでやっていきながら、プランナーが客観的にLDS(Life Design Soft)という「安心の輪」コンサルティング支援システムで設計をする。そういう訓練を徹底的にやります。

岩瀬:私も以前、ほけんの窓口店舗をいくつも回って、色々な店長さんとお話させていただいたのですが、自分が持っていた「保険代理店の店長」イメージとかなり違っていました。例えて言うなら、人気のある塾の先生のような、分かりやすく教えてくれる人、という印象です。お客さまが自発的に相談にのってほしいと考える、お客さまからの意向を最優先とするというやり方が、圧倒的な強みだと思いました。

■生命保険業界の5年後は……

佐々木:保険の5年後、10年後の変化を見据える際に、これは絶対に考えておくべきだというファクターは何でしょうか。

窪田:高齢化による、生存リスクです。いま、みなさんが年金制度などへの社会制度不安をお持ちです。我々が求められているものを、官から民に移す時、いまの流通は健全な流通なのかを考える。それを準備しなくてはならないと思います。いかに売るかというところではなく、健全な流通をきちんと構築できたところが勝ち残ると思います。

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岩瀬:少し視点を変えた話ですが、いろいろなものがここ数年大きく変わってきていると感じています。特に、社会の価値観という点です。

例えば、今年「日本人とは何か」についてみんなの意識がすごく変わったなと思ったのは、ラグビー日本代表です。チームの中に外国人もいますが、日本人選手と分け隔てなく皆で「日本代表の一員」として応援しています。海外だと当たり前ですが、多様性を認めるという点で、急速に日本の社会の価値観が変わっているような気がします。

保険のビジネスとどう関連するのかというのはさておき、後から振り返ると、あの頃の5年、10年ですごく変わったよね、という時代に生きているのかもしれない、と思います。

佐々木:5年後で考えた時に、業界地図、業界構造というのはどう変わってくると思われますか。

窪田:今後もユーザー優位が進むということと、流通が構造的に変化を起こすということ。高齢化に対しての商品も求められます。その中で、一番大事なのはスピードです。行政にも言いたいのは、自主責任経営をもっと進めるべきだと思います。

金融商品というのは、自己責任の世界です。スピードを上げて、商品の認可もしていく。 そうした取り組みの中で保険業界も変わっていくんだろうという気がします。

岩瀬:金融業界は行政がとても強いですが、そのなかでこれだけ堂々と行政に注文をつけられる経営者もなかなかいらっしゃらないです(笑)。窪田さんのおっしゃる通りだと思います。

生命保険は、基本的にストック商売なので、過去のものである程度食べていけるんですね。そのために変化のスピードが遅い。そういった意味で、量的な変化は、やはりゆっくり進むと思うのですが、質的には、我々が開業した2008年に比べると、すごく変わったと思っています。

流通でのマーケットの変化というのもありますが、各社の競争によって保険料は安くなっていますし、明らかに(ライフネット生命開業時の)7年前と比べてお客さまはいいサービスを受けられるようになりつつあると思います。

今後も、質的な面でのサービスが良くなっていくという事は進んでいくと思いますし、私共もそういった変化のきっかけを作っていけたらと考えています。

<プロフィール>
佐々木紀彦 (ささき・のりひこ) 
株式会社ニューズピックス取締役。1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社に入社。07年9月に休職しスタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。09年7月より復職。12年11月から「東洋経済オンライン」編集長に就任。同サイトをビジネス誌系サイトでNo.1に導く。14年7月からユーザベース社に移籍し、経済ニュース専門アプリ「ニューズピックス」の編集長を務めている

窪田泰彦 (くぼた・やすひこ)
ほけんの窓口グループ株式会社代表取締役会長兼社長。1947年鳥取県生まれ。1971年大東京火災海上保険(現あいおいニッセイ同和損害保険)入社、2001年あいおい損害保険(同)代表取締役副社長。2007年あいおい生命保険(現三井住友海上あいおい生命保険)代表取締役社長を経て、2011年ライフプラザホールディングス(現ほけんの窓口グループ)取締役会長に就任。2013年4月より現職。

<クレジット>
文/田中歩