ファミリービジネス研究会の様子

ファミリービジネス研究会の様子。会場は、有楽町にある、食×農のコワーキングスペース、ファーマーズラボ

「こういう会に出てくるには、家族の理解も必要です。ただ東京に来て飲み歩いているんじゃない、これは農家のこせがれネットワークがやっている農家のファミリービジネス研究会で、今後親父から事業承継するにあたっての準備をしているんだ、販路も紹介してくれるんだよ、と説得できるような場にしたいんです。

まだあまり研究が進んでいないファミリービジネスには、ちょっとイノベーションが起こればぐんと成長できるだけの伸びしろがあります」

ビジネス面だけでなく、ほかにもファミリービジネスとして農業を行うことの魅力は大きいといいます。

「ぼくは、ファミリービジネスの農業の一番の魅力は、理想のライフスタイルを実現できるということだと思うんです。バリバリ働いて年収1,000万稼いでもいいし、都会から離れて年収200万くらいで豊かな暮らしができる生き方を選んでもいい。株主のために右肩上がりの成長をすることに追われて無理に拡大する必要もない。

何より、家族全員が、同じ夢や目標に向かってがんばれるのは素晴らしいことだと実感しています。大変なことはあっても、ファミリービジネスは長所の方がまさっている形態だと思っています。

だから、もっとファミリービジネスのいいところを伝えて、自信と確信をもって家業を継ぐ農家のこせがれが増えて欲しいんです」

■「ファミリービジネス研究会」をのぞいてみると

実際に、東京・有楽町で開催された、第2回ファミリービジネス研究会をのぞいてみました。

会の前半は「事業承継はいますぐ取り組め」をテーマに、宮治さんが自らの体験をふまえてファミリービジネスの概論とポイントをレクチャー。後半は、実際にこれから会社勤めをやめて実家の農園を継ぐ予定の参加者が、家業を継ぐ意思を親に伝えたときのことを発表しました。そのときの親・兄弟・配偶者たちの複雑な反応を話すと、場内からは、似たような経験をした人たちからの質問や共感のコメントが相次ぎました。

さらには、就農時に使える助成金制度の情報や、「元の職場は良い取引先になるから、仕事を辞めるときは円満に」といった先達のアドバイスなどもあり、帰農に向けた具体的でリアリティのある話が共有できる場がつくられていました。
実際に長崎県から参加した農家の方が、東京で新規取引先を2件広げた例も生まれているそうです。

参加者の方からは、「いざ実家の農家を継ぐと決めても、いまの仕事を辞めるのが惜しくなったり、収入のこと、家族のことなどを考えると、本当にそれでいいのかな、と不安になることもあります。でもここにくると、実際に家業を継いで活躍している人や、同じようにがんばろうとしている人から刺激をもらって、勇気が出るんです」といった声もきかれました。

■「ファミリービジネス研究会」が、農業を育てるエコシステムに

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これから帰農する人だけでなく、帰農したこせがれもサポート。ネット販売やマルシェを活用して自信をつける こせがれや、セミナーやワークショップに参加して、新たな発見をするこせがれも

この研究会を立ち上げたのには、もうひとつ別の意図もあります。

「これまで、『実家に帰って農業をやるのはすばらしいことだよ』ということを伝えて帰農を“そそのかす”ことはやってきました。でもいざ実家に帰って農業を継いだ後の経営をサポートするようなフォローはできていませんでした。ファミリービジネス研究会を始めたのは、そのフォローになるように、という意味もあるんです」

都会で働く農家のこせがれたちだけでなく、家業を継いで農業従事者となった人たちも含め、トータルにサポートする段階に、組織のフェーズが進化したということなのでしょう。7年目の新たな挑戦、「農家のファミリービジネス研究会」を通して、宮治さんたちは、農業の未来に向けてさらに大きな絵を描き始めています。

「農家のファミリービジネス研究会を通して、人の流れを大きく循環させたいんです。研究会に農業者と農家のこせがれが参加している→農業者が経営課題を話す→それをこせがれが見聞きする→それを見聞きしたこせがれが触発されて実家に帰る→農業者として研究会に戻ってきて、今度は別の農家のこせがれに火をつけると同時に、いま感じている経営上の課題をもってきて、みんなで一緒に考える。そういう場にしたいなと考えています」

設立から7年目にたどり着いた「農家のこせがれネットワーク」の新たな事業「ファミリービジネス研究会」は、日本の農業を「かっこよくて・感動があって・稼げる3K産業に」するためのエコシステムとなっていくのかもしれません。

<プロフィール>
宮治勇輔(みやじ・ゆうすけ)
株式会社みやじ豚代表取締役社長。1978年生まれ、2001年慶應義塾大学総合政策学部卒。株式会社パソナにて営業・企画・新規プロジェクトの立ち上げなどを経て2005年に退職。実家の養豚業を継ぎ、2006年に株式会社みやじ豚を設立。生産は弟、自身はプロデュースを担当し、兄弟の二人三脚と独自のバーベキューマーケティングにより2年で神奈川県のトップブランドに押し上げ、「みやじ豚」は2008年農林水産大臣賞受賞。日本の農業の現状に強い危機意識を持ち、最短最速で日本の農業変革を目指す「NPO法人農家のこせがれネットワーク」を設立。一次産業をかっこよくて・感動があって・稼げる3K産業にするため、農業プロデューサーとして、数々の事業を企画・プロデュース、講演や研修も多数行う。著書に『湘南の風に吹かれて豚を売る』(かんき出版、2009年)。2010年、地域づくり総務大臣表彰個人表彰を受賞。
●農家のこせがれネットワーク

<クレジット>
取材・文・撮影/ライフネットジャーナルオンライン編集部