■ビジネスも「練習と試合」を分けるべきだ

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──中竹さんが実際に指導者としての経験を積んでいくなかで、「これはビジネスにも応用できるな」と思ったことはありますか?

中竹:練習と試合がはっきり分かれていることです。選手もコーチも、これは練習、これは試合と意識しながら活動している。当たり前に思いますよね? でも、ビジネスの世界には「練習」がない。僕は本当なら、ビジネスにも練習の時間が絶対に必要だと思うんです。

多くの人は言い訳するんですよ。「スポーツと違ってビジネスには本番しかないから」と。普通に考えたらそんなはずはないのに。スポーツでもビジネスでも、スキルアップするためにはトレーニングの時間が必要です。

今でこそ世界中で「コーチング」が注目されていますが、コーチングで必要なのは対話力です。しかし「対話力を鍛えよう」と言っても、誰でも対話はできると思って、鍛えようとしない。普段の仕事でやっていることを応用していけばなんとかなると思っている。

実際はそんなことはなくて、質問の仕方から対話を切り出すタイミングまで、対話にもコツというのがあるんです。それを知り、身に付けるためにはトレーニングを積むしかない。ラグビー選手がキックの練習をするのと一緒ですよ。「ビジネスには本番しかない」と言う人だって、大きなプレゼンの前には練習しますよね? 同じことを日々の業務に組み込めば、誰だってスキルアップできます。

──周りの30代を見ていても、部下ができてからビジネス書を読みだしたりするんですよ。それはやっぱり自分がそれまでの経験の中で、「練習」を学んでこなかったから、部下ができた途端に、どんな風に指導してけばいいのかわからなくなってしまうんでしょうね。でも結局やらせることは、ぶっつけ本番で失敗させて、それを怒りながら修正していくしかないという。

中竹:それってスポーツに置き換えると、練習をしないで試合に出すようなものだから、失敗する確率のほうが圧倒的に高いわけです。でもビジネスでは当たり前になってしまっている。効率の面から言っても、練習と試合を分けて実践したほうが成長は速いのに。

練習と試合を分けるということは、自分が無意識に日々こなしていることを自覚し、より改善していくためのプロセスでもあるからです。なんとなく試合に出て、なんとなくボールを蹴っていたら、絶対にうまくならないですよ。

「練習と試合」という言い方がピンと来なければ、ちゃんと準備をして戦略を立て、本番では微修正しながら戦略を実行していく。そして、後から戦略通りにできたのか、それとも戦略がまずかったのか検証し、次の準備に生かす。そのサイクルを回すことが重要なのだと理解してください。

■五郎丸選手も営業マンも、一流の人は振り返る

──つまりスポーツもビジネスも、やったことを検証する時間が欠かせないということでしょうか?

中竹:そうです。練習というのは闇雲にするのではなく、本番でまずかったところを振り返り、同じ失敗を二度としないために行うものです。ラグビーでもそうですが、失敗したところを検証してみると、明らかに準備不足だったということがほとんどです。

ビジネスでもスポーツでも、一流の人ほど検証する時間が圧倒的に長い。しかも振り返るプロセスが適切です。良い営業マンも良いラガーマンも、自分が成果を出したプロセスを客観的に把握しているから再現性があるわけです。

──確かに、よくビジネス雑誌で「トップ営業マンの仕事術」みたいな特集がありますが、みなさん自分がやっていることを言語化できていますよね。

中竹:ええ。よく僕も選手たちに良かったプレーの振り返りをさせるんですが、一流の選手は振り返りのスタート地点から違います。普通は試合開始の地点、長めに振り返る選手ならウォームアップから振り返ります。しかし一流の選手は、前の日から考えるんです。前日は何時に練習が終わり、どんな食事をして、どんなコンディションで眠りについたか。そこから振り返る。そのぐらいのスパンで考えないと、意外と再現性ってないんです。

──それは、例えば五郎丸選手も「ルーティーン」が流行語大賞の候補になりましたが、メディアで取り上げられるのはキック直前のあのポーズばかりですよね。でも本当は、前の日からの生活のすべてが「ルーティーン」になっているといえるのでしょうか?

中竹:それはすごく考えていますね。彼はイギリスのジョニー・ウィルキンソンというコーチから指導を受けたことがあって、そこで「一流の選手はルーティーンを大切にしている」ということを知ったんです。ポーズはあくまでルーティーンの一環、ということですね。

──ある意味、五郎丸選手とトップ営業マンには共通点があるというか。

中竹:まったく同じです。何でもトップに立てる人にはそれなりの理由があるんですよ。僕は五郎丸を早稲田大学で2年間教えましたが、彼が僕から学んだことで良かったのは、「できないことはやらない」という教えだったそうです。

五郎丸って何でもできそうに見えますが、実はフルバックとしては足が遅い。キックも右でしか蹴れない。正直、アスリートとしてのポテンシャルは高くないんです。彼が学生時代からすごかったのは、それを自分でちゃんとわかっていて、背伸びをしようとしない。反対に、伸ばすことができるところは集中して鍛えていく。

僕も疑問に思って、「なんでそんなことができるの?」と聞いたことがあるんです。すると、「僕は誰よりも自分を見つめた時間が長いので、そこは自信があるんです」と答えました。やっぱり自己認識力を高めるには振り返りしかなくて、そこに時間を費やした人が壁を突破していけるんだということですね。

■ラグビー選手に必要な“支え”とは?

──ライフネット生命は多様なライフスタイルを応援する企業を目指しています。これからのラグビー界に、「こんな“支え”があればいい」と考えてらっしゃることはありますか?

中竹:セカンドキャリアの問題はとても重要ですよね。サッカーや野球ほどお金がもらえないですし、しかもラグビー選手は特に引退が早い。30歳を超えると肩を叩かれる傾向があります。社会人チームに所属している選手が多く、チームも裕福ではないので、実力が同じくらいで年齢差があったら、若い選手をチームに残すんです。だから才能のある選手が安定して長く競技を続けるためには、セカンドキャリアの問題というのは避けて通れない。

──こういう制度ができてほしいというものはありますか?

中竹:僕の立場からすると、本当に日本ラグビーの競技力を高めるなら、高校を卒業したら大学に行くよりも、いきなりトップリーグにプロとして所属したほうがいいんですよ。でもセカンドキャリアを考えると大学に行くメリットも確かにある。

だからできれば、大学を休学するかたちでプロとして活動して、引退したら、すぐに大学に戻れるという制度や仕組みがあると素晴らしいと思います。これはラグビーに限らず、すべての競技に言えることですけどね。選手個人が頑張るだけでなく、そこに企業や大学も協力してもらえるとありがたいなと思います。

──ここまで中竹さんがお話ししてくれたように、プロスポーツの知恵や経験がビジネスに応用できることもたくさんあるわけですからね。それを客観的に学び直す機会があれば、企業にとっても大切な人材になると思います。

中竹:特に若い頃からリーダーを経験した人間というのは貴重じゃないですか。しかもプロとして。彼らは組織として戦略を立て、準備して実践して検証するという経験をいっぱい積んでいます。これはマネジメントの基礎ですが、日本では会社員の多くができていない。プロスポーツの世界にはそれを若いうちから自分のものにしてきた選手がたくさんいるわけです。そういう才能を使えるような場が、企業の中にもあるといいですよね。

<プロフィール>
中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、U20ラグビー日本代表ヘッドコーチ。1973年福岡県生まれ。93年に早稲田大学に入学、同大ラグビー蹴球部に入部。4年生では主将を務める。サラリーマンとしてキャリアを送っていたが、2006年には指導者経験ゼロのまま清宮克幸氏の後任として早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。07年。08年と全国大学選手権2連覇に導く。

<クレジット>
取材・文/小山田裕哉
撮影/村上悦子