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今回ご紹介する物語、『貯金兄弟』は、ある兄弟の数奇な人生を通して、お金との付き合い方が学べる、ユニークな1冊。
小説でありながら、生命保険、住宅ローン、賢い貯金の方法から、老後の資金までの知識が詰まっています。

物語の主人公はふたりの兄弟。兄は、大卒の広告代理店勤務で高給取り。楽天的で浪費家です。弟は、高卒で公務員。貧乏性で、石橋を叩いて渡るタイプ。正反対の価値観を持つふたりは幼少期に、義父から虐待を受けていました。
弟の持つ不思議な能力のおかげで義父の元から逃げ出し、児童保護施設で育ちます。そこでの生活を終え、自立するようになってから、物語が展開します。

ここでは、この小説から人生とお金について考えるヒントを拾っていきたいと思います。

【ヒントその1】「兄さん、それは違うよ。高卒のほうが、確実に大卒より稼げるんだよ」
(第1章 大卒の生涯年収が高卒の生涯年収より、3,000万円も低い理由)

大卒のほうが、給料は高いはずだし、大学時代の4年間分なんて、月収で簡単に取り戻せるのではないか。そんな風に考えてはいませんか。
しかし、本当にそうでしょうか。社会の変容を見通し、徹底的な客観性を持って選択をする弟の言葉に、ドキリとさせられます。

【ヒントその2】「明日、すぐに銀行に行って手続きをして、今月から総合口座を開設して2万円を振り替えてください」
「(略)死にもの狂いでやって、初めて、貯金が出来るんです」

(第2章 給料は人並み、お金を貯める気もあるのに、なぜ貯金残高は0のなのか?)

貯金ができないという上司の悩みを聞いた、弟のアドバイス。これには、耳が痛い方も多いのではないでしょうか。“来月から”ではなく“今月から”。目標の達成には、強い意志と、長期的な努力が必要です。

【ヒントその3】「生命保険は自分の通帳には残らない、見えない貯金と考えるべきなんだ。(中略)勧められたものを、ちゃんと理解もせずに、信用して生命保険に入ってしまうと、損をする確率が高くなるんだよ」
(第3章 生命保険は人生で住宅の次に高い買い物、だからマジメに選びなさい)

保険は難しい、そんな風に考えて、「なんとなく」で加入してしまうと、後悔してしまうかも。最小限の投資で、最大限の保障を受けるにはどうしたら良いのでしょうか。人によって、病気やけがの可能性や必要な保障は千差万別。自分自身の置かれた状況をしっかりと見据えた保険の設計について、考えるヒントが詰まっています。具体的な保険のパターンや加入の仕方も解説されています。

【ヒントその4】「インフレは明日、起こるかもしれないだろ」
(第4章 住宅ローンは固定金利と変動金利、どちらがトクなのか)

利率だけ見れば変動金利のほうが安く、高い固定金利を選ぶと、一見損に思えますが、変動金利は文字通り、「変動」。社会状況に大きく左右されるため、金利が上昇し、金利の支払い負担が大きくなるリスクもあります。大きな買い物をする際には、返済の計画もじっくり考えなければなりません。

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本書の著者は経営コンサルタントの竹内謙礼氏と公認会計士・税理士の青木寿幸氏。多くの人の人生を目の当たりにし、お金のプロである両氏が、人生のターニングポイントで兄弟に語らせる言葉は、具体的で、ついつい引き込まれます。

しかし、『貯金兄弟』が描くのは、「アリとキリギリス」のような、ひたすらコツコツ貯金したものが、幸せになれる、という寓話ではありません。
あなた自身が何を幸福に感じるのか、そのためにはどんなふうにお金を扱うと実現に近づくのか、ということを考えていくことが肝心である、というメッセージが込められています。

また、ミステリーのようなドキドキの展開も見逃せませんが、そちらは読んでからのお楽しみ。兄弟のたどる、物語の意外な結末は必見です!

『貯金兄弟』(PHP文庫)竹内謙礼、青木寿幸(著)

『貯金兄弟』(PHP文庫)竹内謙礼、青木寿幸(著)

<クレジット>
文/田中歩