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シングルマザーのための情報ウェブサイト「母子家庭共和国」や、子どもの健全育成と家庭問題に悩んでいる女性の自立支援のためのNPO法人Winkを設立するなど、シングルマザーの就労や家庭への支援活動を精力的に繰り広げている新川てるえさん。いま、シングルマザーが直面している問題や課題、仕事の選び方から働き方、将来への不安を解消するために必要な保険の内容や情報提供のあり方まで、シングルマザーの実態や悩みをよく知る新川さんならではの率直な意見をうかがいました。

■シングルマザーの半数以上は非正規雇用

──まずシングルマザーの働き方の現状について教えてください。

新川:シングルマザーのうち9割は就労しています。決して働いていないわけじゃない。ただ、正規雇用率が低いんですね。現在、5割を切っています。保育園が子どもを預かってくれる時間は限定されますし、小さい子どもがいると残業はできない。働く場所も近所でないと難しい。シングルマザーは、時間的にも場所的にもいろいろな制約があるなかで働かざるを得ないのが現状ですね。

──ダブルワーク、トリプルワークも多いと聞きます。

新川:そのとおりです。昼間はコンビニで働いて、夜は居酒屋でバイトをして、その他に内職もしているというシングルマザーは珍しくありません。でも、どれも非正規雇用ですし、正社員のような保障がないので、多くが先行きに不安を抱えています。

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■人のネットワークと情報はシングルマザーに不可欠

──先行きの不安なシングルマザーに役に立つような制度があっても、知らない人が多いそうですね。

新川:極端な例では、児童扶養手当を知らないお母さんもいます。周りも教えてあげないのかもしれません。児童扶養手当は申請しないと失効するんですよ。たとえ、収入制限によって受けられないとしても、申請だけはしておいた方がいい。年金を払えない場合は免除申請もできるし、子どもの医療が無料になる自治体や、乳幼児医療費の助成制度もあります。いったん病院で払った後に申請すれば医療費が戻ってくるんですよ。情報に接することでカバーできる範囲は広がります。そのためには、ご近所やPTAなど、人とのつながりをなるべくもっておくことです。

──人とのネットワークがあるかないかの差は大きいですね。

新川:生活保護の申請もそうです。いまはちょっとわかりませんが、以前は、役所に申請に行っても、たらい回しにされて申請自体を受け付けてくれないというケースが多かったんですが、そうしたときには、NPO法人など誰か知識のある人が同行すると、窓口の対応が明らかに違いました。

以前、マミーハウスというシングルマザー向けのシェアハウスを運営していたときには私もよく同行していました。生活保護が降りる前までのつなぎとしては、社会福祉協議会に行けばすぐにその場でお金を貸してくれる貸付制度も利用できます。こうしたこともあらかじめ情報として持っておけばいざというときに慌てなくてすむ。人のネットワークと情報は、シングルマザーに欠かせません。

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■危機管理を考えている姿勢をアピールしよう

──企業に対して、新川さんが望むことは?

新川:子どもが熱を出したりして、フルに働けない時期が一時期あったとしても、シングルマザーはその分、仕事をがんばる人が本当に多い。私も、子どもが小さいときには10時〜16時の時短で働いていましたが、会社でこなせない分は家に持ち帰ってやっていました。もし真摯に働く人材がほしいなら、社長さんは先入観を取り払って頭を切り替え、短時間でも効率よく必死に働くシングルマザーもぜひ視野に入れてほしいです。

──小さい子どもがいるからといって落としてしまうのはもったいないですね。

新川:ええ。ただ、私も経営者だったことがあるので、社長さんの気持ちもわからないではないです(笑)。子どもが水疱瘡やおたふくかぜになると1週間〜10日休まないといけなくなりますからね。だから、就労の面接に行くシングルマザーには「子どもが急に病気になったときにはどうしますか」と質問されたら、「親がサポートしてくれます」とか、「友だちが近所にいていざというときに助けてくれます」とか、「ベビーシッターの会社2社と契約しています」と答えるようにと伝えています。危機管理をちゃんと考えている姿勢をアピールするのが大切ですから。

■自分が何が好きで何が得意かを掘り下げる

──シングルマザーの就労に関してアドバイスはありますか?

新川:よく、「子育てに理解のある会社に就職したい」という声を聞きますが、理解を作るのは自分です。会社に必要とされる人材でなければ、応援してくれる人も出てこない。本人次第の面はありますね。それから、就労のカウンセリングで「どんな仕事をしたいの」と尋ねると、「自分は何もできないから一般事務がいい」という答えが非常に目立つんですが、実はそれが一番難しい(笑)。スキルがいりますからね。「何もできない」のではなく、「自分に何ができるのか」を見つけることが必要です。

──「自分にできること」をどうやって見つければいいんでしょう?

新川:過去の自分を一度捨てて、自分が何が好きで何が得意かを徹底的に掘り下げていくことです。PTAで広報をやっていたら、それが仕事に役に立つかもしれない。趣味が生きるかもしれない。でも、昔、自分が活躍していたような職場でまた仕事をしたいというのは無理だと知ってほしいです。昔のスキルはそのままでは使えない。当時のプライドを捨てきれなくて、いつまでもそこにこだわっていると仕事にはたどりつけません。

営業の仕事を嫌がる人も多いんですが、やってみたら意外に向いていたというケースも少なくないので、食わず嫌いをするのではなく、説明会だけでも行ってみてもいいのでは。その上で判断すればいいんですよ。それから、ステップアップを意識して仕事を選ぶのも大事ですね。

■働くシングルマザーが、万一長期間働けなくなった場合への対処

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──シングルマザーのみなさんは将来を考えて、保険にどう向き合っていますか?

新川:毎日の暮らしに精一杯で、保険に向き合う余裕がないというのが正直なところですね(笑)。保険に入っていない方も珍しくないです。でも、非正規雇用で働いていて、将来に不安を抱えているお母さん方は多いので、もし自分が長期間働けなくなった場合の生活費をサポートしてくれる「就業不能保険」はいい商品で、シングルマザーにとっても必要な商品だと思います。ただ、就業不能の状態になってから最初の180日間が支払いの対象外というのはちょっとつらいかな。

──長過ぎますか。

新川:シングルマザーは180日も待てないですね。蓄えがそんなにない人が多いので、1~2か月ぐらいだったらなんとか乗り越えられるかもしれませんが、180日はかなり長い。正社員など会社で社会保険に加入している人なら、長期間働けない場合には最大1年6か月まで平均給与の2/3が支給される「傷病手当金」を受給できますが、シングルマザーの多くはその制度を受けられません。

就労時間が短く、社会保険に加入できない非正規雇用が多数を占めているからです。この支払対象外期間がもっと短くなるとうれしいです*1。自分が病気やケガをしたら子どもや生活はどうなるんだろうという不安はいつも抱えていますし。ただ、そもそもこの「就業不能保険」の存在自体が、シングルマザーの間ではまだ知られていないかもしれません。

■保険に関する必要な情報をわかりやすい形で伝えてほしい

──就業不能保険が知られていない?

新川:この保険だけでなく、保険についての情報がシングルマザーには十分に届いていません。自分がいま加入している保険がどういうものなのか、わからないまま入っているという方も多いです。例えば、前に私がライフネット生命の方より「保険は掛け捨てでいい」と聞いたときには、目から鱗が落ちる思いでしたが、そういう情報がうまくシングルマザーに伝わっていない気がします。かといって、シングルマザーにはわざわざ保険会社に出向いて、どんな保険がいいのか、営業職員の方と直接会って相談する時間を取ることは難しい。

──違う形での情報提供が必要ですね。

新川:そう思います。電話やネットで相談できる形があるといいんじゃないかな。子育てや仕事で忙しいシングルマザーにも理解しやすいように、できるだけわかりやすい形で情報発信をしてほしいですね。

*1 このようなお声を受けて、ライフネット生命の新しい就業不能保険「働く人への保険2」では、支払対象外期間を180日だけでなく、短期の「60日」を新設しました。貯蓄が少なく、病気やケガで働けなくなった際の生活が不安というひとり親の方におすすめです。詳しくはウェブサイトをご覧ください。

<プロフィール>
新川てるえ(しんかわ・てるえ)
1964年東京都葛飾区生まれ。10代でアイドルグループの一員として芸能界にデビュー。その後、2度の結婚・離婚経験を生かし、97年にシングルマザーのための情報サイト「母子家庭共和国」を開設。2002年、子どもの健全育成と家庭問題に悩む女性の自立支援のためのNPO法人Winkを設立。理事長を10年間努めた後、2011年4月にひとり親家庭と子連れ恋愛と再婚(子連れ再婚家族・ステップファミリー)を応援するNPO法人M-STEPを設立。ツレ婚家庭が抱える問題を社会が理解し、必要な支援のある暮らしやすい社会の実現を目指して、作家、講師、TV司会など多方面の活動を繰り広げている。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン編集部
文/三田村蕗子
撮影/下屋敷和文