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インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)の代表理事・小林りんさんと、ライフネット生命保険社長の岩瀬大輔による特別対談。子育て世代に向けた2人のトークは、英語教育、ネット社会、金融教育まで話が広がります。(前編はこちら)

■ネット時代の教育は「覚える」よりも「大局をつかむ」

岩瀬:りんさんは高校生の時に初めて海外に行ったということですが、帰国子女の僕よりも英語の発音がきれいなくらいです。小学生の頃から、英語の勉強をされていたのですか?

小林:一切していません。英語の成績は中学1年の時に2でした。自分でも「2?」ってびっくりしましたけど(笑)。

岩瀬:今日来られている子育て世代の方の中には、小さなお子さんに「今のうちから英語の勉強を」と焦っている方もいるかもしれませんが、ご安心ください。りんさんのように、高校生になってからでも遅くはありませんし、僕の周りには大学生になってから海外に行って英語を覚えたという人もたくさんいます。

ISAKでは英語で全授業が行われているということですが、日本人の高校生やサマースクールに参加する中学生を見ていて、英語教育のあり方についてどのようなことを感じていますか? 

小林:「英語はツールでしかない」とよく言われますが、生徒たちを見ているとますますそのように感じます。ISAKの生徒は、学年の3割ほどが日本人で、さらにその中の3分の1から半分くらいが普通の公立中学校の出身です。彼らは最初、私の高校時代と同じように、相当苦労をします。

でも、なぜ勉強しているのか、なぜ自分はここにいるのか、といったことを考え抜くと、その後は解き放たれたかのように勉強をするようになります。その結果、英語力も一緒に付いてくる。ISAKは全寮制で、四六時中、英語から逃げられる場所がないので、習熟のスピードは早いと思います。

小林りんさん(インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)代表理事)

小林りんさん(インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)代表理事)

岩瀬:すべての子どもが、それこそ小学生の時から英語教育を受けることについてはどう思いますか? 個人的には、それが目的化してしまって優先順位がおかしくなっているのではとも思うのですが。

小林:英語力は本当に20年後、30年後に必要なのかな、とも思います。人工知能が発達して自動翻訳機がますます性能を上げていき、日本語でしゃべったことが、ニュアンスも含めて英語に自動翻訳されるようになると、英語は本当にツールになってしまいます。

テクノロジーの観点からその可能性があるというのと、教育面でいえば、英語でも理科でも算数でも同じだと思うんですけど、「なんで学ぶのか」と考えることがすごく大事になると思います。さっき親の背中を見て子が育つという話をしましたが、子どもは親がいろんな人たちと英語で話しているのを見て、「いいなあ、こんな人たちとも友達になれるんだ」とか、「レストランでこんなにいっぱい美味しいものが注文できるんだ」と感動します。

勉強したことによって世界が開けていく様子を、親が子どもに見せられれば一番いいんじゃないでしょうか。

岩瀬:ネット社会と教育についてもお聞きしたいと思いますが、みんながスマートフォンを持つようになって、僕たちが学生だった頃とは情報の入り方や人との接し方が変化する中で、教育はどう変わっていくと思いますか?

小林:分からないことはインターネットで調べれば何でも出てくるので、暗記する能力よりも、氾濫する情報の中から「何が本当に正しいんだろう」、「何が自分に必要なんだろう」と考えながらきちんと取捨選択する能力のほうが重要になると思います。

岩瀬:知識は全く大事ではなくなると思いますか? いくらネット化が進んでも、ベーシックな知識は大切なのではと思いますが。

小林:歴史でいえば、出来事をピンポイントで覚えるよりも、全体の大まかな流れを理解することのほうが大事になるでしょうね。例えば「いい国(1192)作ろう」で鎌倉幕府の成立を覚えることはできますが、ではその時代に海外では何が起こっていたか、となると、大局を理解していないと答えるのは難しい。体系的に大局をつかんだ上で、それが現代に及ぼす意味を理解する必要があると思います。

■マネーリテラシーはどう教える?

岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

岩瀬大輔(ライフネット生命保険 社長)

岩瀬:ISAKのカリキュラムにあるかどうか分かりませんが、金融教育についてもお聞きしたいと思います。社会で生きていくうえで、お金の知識はとても大切だと思うのすが、学校や会社や家庭で今、お金のことを教わる場が著しく減っています。その結果、日本の国民全体のマネーリテラシーがすごく下がっているように思いますが、そのあたりはどう思われますか?

小林:お金のことを学ぶのは大事なことです。先ほども話したISAKのプロジェクト・ウィークではチームごとに予算を与えていて、それをどう使うかも生徒たちに考えてもらっています。たとえば、大地震のあったネパールの復興プロジェクトをやっているチームに年間10万円の予算が与えられたとします。この予算では全員がネパールに行くことはできないので、費用を考えながら、「今年は何人行って、来年は何人行く」という計画を立てていくことになります。

岩瀬:予算を渡してお金をやりくりしてもらうこと自体が、お金の教育になっているんですね。りんさんのご家庭内ではどのような金融教育をしていますか?

小林:我が家では息子に物を買い与えるのをやめて、お小遣い制にしたんです。すると息子は、すごくがんばってお金を貯めて、最初に数千円の小さな時計を買いました。ただ、その翌日に好きな女の子から、「その時計ちっちゃいね」って言われて、彼はガーンってショックを受けた(笑)。すごく後悔して、「お母さん、返品したい」って。でも、使ったものだから返品できない。こんなに一生懸命貯めて買ったのに! ってがっかりする息子に、「これが人生だよ」って言っていました。

岩瀬:それはよい教育ですね(笑)。

小林:そうなればいいと思います。釣り好きの彼は、今度は魚を獲るための銛(もり)を買いたいって張り切っているんですけど(笑)。

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<プロフィール>
小林りん(こばやし・りん)
1998年東大経済学部卒、2005年スタンフォード大教育学部修士課程修了。大学で開発経済を学び、国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在、ストリートチルドレンの非公式教育に携わる。2008年に帰国、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)代表理事。ダボス会議の40歳以下のメンバーである世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダー2012」に選出される。2012年日本政策投資銀行主催「第1回女性新ビジネスコンペ」にて日経新聞特別賞を、日経ビジネス チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー2013、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2014大賞。

<クレジット>
文/香川誠
撮影/村上悦子