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お金に関して私たちを不安にさせる話題が世の中にあふれています。できることなら将来を心配せず、ケチケチせずに人生を楽しみたいもの。そこで、生活や人生にまつわるお金について解説し、現在も老後もずっと楽しめる暮らしを提案するのが、『普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』(佐藤治彦著)です。

■過度な我慢をせず人生を乗り切る力

この本は、年収300万円から700万円という「そこそこ収入のある現役世代」に向けて、お金に振り回されずに人生を送ることについて語っています。

まず掲げられるのは、種々の本などが提示する「老後資金の3,000万円」という数字。この数字が信頼できるのかを検証し、老後資金を貯める為に現在の生活をケチケチすることに疑問が投げかけられます。

「老後を迎えたときに、3,000万円の老後資金があるとしても、家族、夫婦がそれまでの人生で価値観を共有し、仲良く幸せに迎えたケースと、そうでないケースでは、そのお金の価値が全く違います」

3,000万という金額が重要なのではなく、夫婦あるいは家族の仲が良く、お金の価値について理解していることが、老後を生き抜く力につながるというわけです。ある程度のお金は必要だとしても、そのとき使える金額に合わせて生活を工夫する「対処力」について考えてほしいと著者は語ります。

■人生を楽しむためのお金の使い方

次に、これも最近よく聞く「資産運用」です。市場の状況を上手に見極めて投資する方法も具体的に語られます。薦めているのはあくまでも「大勝ちも大負けもしない。中勝ちを狙い、中負けにとどめる」という、のんびりした投資法です。例えば3,000万円の資金があるのなら、運用は銀行の定期預金で十分だという考え方もあるのです。

ここまでは、一般の人が投資を行う際のポイントとして聞いたことがあるかもしれませんが、お金に関する本にしてはとてもユニークなのが、さまざまな舞台芸術やスポーツ、文学、旅行などを若いうちに楽しもう、というアドバイスです。

「形にならないことの意味合いを、経済を扱う人がほとんど取り上げないので、どうしても少しお話ししたい……日々の生活には直ちに必要のないところを節約だと削ってしまう人が少なくないからです」

体力のある若いうちに、おいしいもの、あるいは外国の街とか、劇場など日常生活を離れた場所で見聞きできる何かを味わうことによって、人生は豊かになるのですね。美しいものの記憶、感動した思い出こそが、年をとったときその人の財産になるのかもしれません。

■「お金を牢獄に入れない」。保険は安い方がいい

ケチケチせずに、適度に人生を楽しみながら生きていくにしても、住宅や保険、子どもの教育などには大きなお金がかかります。本書はそれらについて多くのページを割いて具体的な数字をあげて解説しています。

その中で繰り返し説いているのが、「お金を牢獄に入れない」こと。つまり、手元のお金と将来の収入まで自由に使えないものにしてしまうローンや保険を持ちすぎないように、ということです。

そのうち保険については、まずある程度充実した日本の社会保障制度を正しく知ることで、その公的な年金、保険で足りない分だけを補うのが民間の保険であるといいます。この考え方は、シンプルで分かりやすい保険を商品としてそろえ、ネットを利用することでコストを省いて保険料を安くするライフネット生命保険が、マニフェストで宣言していることと一致します。

掛け金が月々の生活費を圧迫しない程度の保険を選ぶことで、手元に自由なお金が残り、その分を貯蓄に回して将来の備えにすることも、旅行することもできるわけです。

例えば年金制度には、一定の年齢になると支給される「老齢年金」のほか、本人の死亡時に遺族がもらえる遺族年金、年齢に関係なく対象者に支給される障害年金があります。また、年金の保険料が払えない人には、届け出れば免除される場合もあります。健康保険のおかげで、例えば「高額療養費」制度により、医療費の負担は、所得によって個人差はあるとしても

「毎月の上限が8万100円と少し、1年に3カ月以上になれば4カ月目からは4万4000円」

であることが多いと書かれています。この数字を把握すれば、民間の医療保険で無駄に保障を大きくしないで済みます。

本書では、ほかに教育や住宅のお金についても、具体的アドバイスが書かれていますので、ご自身の家族構成や住まいの状況に照らし合わせてさまざまなヒントが得られるでしょう。

 「お金の自由とは、何に使うのかの選択ができる(自由に使えるお金)ということです」

今の日本で生活していくために、老後も見据えて必要なお金についてまず正しい知識を得ることは不可欠です。そのうえで、さまざまな世間の風潮にとらわれず自分なりの生活を楽しむ、つまりは、お金にまつわる多くの“しばり”から、なるべく解放された生き方を考えるとき、佐藤氏の言葉はひとつの提言になるでしょう。

『普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 佐藤治彦(著)、扶桑社新書

『普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』 佐藤治彦(著)、扶桑社新書

<クレジット>
文/長谷川圭子