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「仲介手数料無料」の大胆な戦略を打つ不動産会社、ゼロシステムズ。果たしてそのうたい文句の裏にどんな秘密が隠されているのか。首都圏全域の不動産仲介と建物診断を行う同社の田中勲社長に“どうして仲介手数料を無料にすることができるのか”を教えてもらいました。

■「物件を決めるために来る」という意味とは?

──「仲介手数料無料」というのは何か裏があるんじゃないかと勘ぐってしまいます。どういうカラクリがあるのですか?

田中:仲介手数料無料をうたっている会社の中には、他の名目の中に手数料分を上乗せしているところもあります。お客さまから出ていくお金の総額は手数料を払った場合と同じなので、「広告に騙された」と思う人もいるでしょう。でも当社はそのようなことはしておりません。

たとえば3,000万円の物件を仲介した時に、売り主様から100万円、買い主様から100万円いただけるところを、買い主様からはいただかないというだけのことです。売り主様からはしっかり手数料をいただいているので、当社が損をするということはありません。当社は仲介手数料だけでなく専門家による建物診断まで無料で行っていますので、最初は怪しまれることも多かったのですが、無料になる仕組みを説明して、疑念の払拭に努めています。

田中勲さん(ゼロシステムズ(レジデンシャル不動産法人株式会社)代表取締役)

田中勲さん(ゼロシステムズ(レジデンシャル不動産法人株式会社)代表取締役)

──でもそうすると、単純に手数料が半分になります。どのように穴埋めしているのですか?

田中:当社は広告宣伝費をかけていません。多くのお客さまはネットの口コミや人の紹介で当社に来られます。また最少人数のスタッフで会社を運営し、物件の立ち会いから契約に至るまですべて私を含めた専門スタッフが行っています。ちなみに昨年、営業車の走行距離が5万6千キロを超えていました(笑)。手数料無料だと利益率が低いように思われるかもしれませんが、成約率の高さでそれをカバーしています。一般的に、不動産仲介の成約率は1割程度といわれますが、当社は3割から4割の確率で成約しています。

──成約率の高さの秘密は?

田中:当社は物件を探しません。一般的な不動産屋は、「この物件はどうでしょう?」といった提案をしますが、当社ではお客さまから「この物件を見たいんですけど」と問い合わせがあってから動きます。能動的なお客さまが多いので、内覧の申込み前に「すでに現地に行って外から見てきました」という方ばかりです。そして内覧後、一度冷静に考えてから決めていただくため、すぐにその場では申込書を受け取らないようにしていますが、内覧数時間後には申込書がファックスで送られてくることもあります。当社には、「買いに来る」というより「決めに来る」お客さまが多いのです。

──「決めに来る」お客さまに対して、どのような案内をされていますか?

田中:これも一般的に他社だと20分くらいで内覧が終わることも多いのですが、当社は床下の収納を開けたりバスルームの天井裏を見たりするので時間がかかります。建物のチェックの仕方や契約の流れ、住宅ローンなどの説明をしていると、2時間くらいになります。

■中古住宅の半分は問題あり!?

──建物診断まで無料ということですが、さすがに簡易的なものですよね。

田中:いえ、一般的な診断よりも厳しく行っています。一般的な住宅診断は、目視による診断や水平器などを使った簡単な測定で終わりますが、当社では内覧時、契約前、引き渡し前、引き渡し直前と合計4回に分けてさまざまな建物検査をしています。その内容も、一級建築士による耐震診断、赤外線サーモグラフィーを用いた非破壊検査、放射線量やホルムアルデヒドを測定するシックハウス診断と本格的なものとなっています。

──無料でそこまでするのはなぜですか?

田中:中古物件に関しては、数年以内にホームインスペクション(住宅診断)の確認が義務化される動きが進んでいます。当社は7~8年前から、今後より専門的な診断が求められるであろうと予測していました。手数料無料を謳うだけでは、他にもそういう会社が増えてきた時に埋もれてしまいますので、本格的な建物診断をセットにして独自性を打ち出しているというわけです。

──診断をしていて、欠陥住宅を見つけることもありますか?

田中:厳密に診断をしていると、断熱材や石膏(せっこう)ボードがあるはずの場所にないという事例を見かけます。建築確認検査機関の完了検査に合格して、ひとたび検査済証が発行されてしまえば行政のお墨付きをもらった物件となりますが、精密に診断をすると実は欠陥住宅というケースが多々あるのです。

断熱材がない部分は赤外線サーモグラフィーで一目瞭然(写真=ゼロシステムズ提供)

断熱材がない部分は赤外線サーモグラフィーで一目瞭然(写真=ゼロシステムズ提供)

■お客さまに「物件をすすめない」逆転的発想

──田中さんはいつから不動産業界でお仕事をされているんですか?

田中:当初は、コンピューター業界に就職してすぐに不動産会社に転職しました。しかしそこでは社有物件しか売れない縛りがあって、他社所有で売れそうな物件があっても仲介できませんでした。私は「手数料が半分でも売れるものは売ればいいのに」とずっと思っていましたが、当時はまだインターネットもなくて、業界内外の事情を調べる手段がありませんでした。その後、以前からやりたかった仲介手数料無料の不動産屋をやろうと思ってゼロシステムズを立ち上げました。

──会社の規模を大きくしようという考えは?

田中:私は会社を大きくしようという考えはありません。会社の規模を大きくしようとすると、今よりも多く売上を上げなければなりません。でもそれでは大手パワービルダーと変わらない。当社は時間をかけて細かいところまで、それこそ用語の意味から説明をしています。こういうことに時間を割いているので、そもそも会社を大きくすることは難しいのです。目指しているのは、「ライバルがいないオンリーワンの会社」です。

──たとえ真似をする会社が出てきても、田中さんのようにはできないでしょうね。

田中:実は時々、真似されることがありますが、表面上だけ真似をしていても、すぐに「いい物件なので買いましょう」とお客さまに購入をすすめたがります。でも当社は、お客さまに買わせることはしません。その物件が気に入らなければ買ってもらわなくてもいい。他社なら「まあこの程度なら大丈夫ですよ」と言いそうなところも、「私なら買いません」と言ってしまいますから。どんなに契約の話が進んでいても、途中で何か不利な要素が見つかったら正直に話します。だから当社は、成約率が高いのと同時に、キャンセル率も高いんです。

──目の前の成約よりも、今後に続く信頼を大切にされているんですね。これから物件を買おうとしている方に向けて、何かアドバイスをいただけますでしょうか?

田中:家を購入するということは、住宅ローンを組むということです。ローンを組む下準備としては、現在のクレジットやキャッシングなどの既存借入れをできるだけゼロにしておくことです。それが難しければ、現在の借入状況を把握しておいてください。また、契約にかかる諸費用までローンに含めてしまうと、月々の返済額が上がってしまいます。それがたとえ5千円でもずっと続くことなので家計にとっては大きな出費。物件価格によりますが、せめて100万円から150万円はキャッシュで払える状況でなければ、無理して家を買うべきではありません。

──ローンの相談にも乗ってくれるんですね。

田中:はい。ただし、当社は、提携ローンを無理にすすめることはありません。あくまでお客さまに合ったものをすすめています。民間の住宅ローンには団体信用生命保険(団信)がセットになっているものが多いので、その説明も行っています。団信とは、契約者が亡くなったり高度障害になったりした場合、残金を金融機関が清算してくれるものです。

フラット35の場合はこの団信をローンとセットにせず、生命保険と組み合わせる方法もありますが、基本的には、お客さまにとって最適なものをおすすめしたいという姿勢です。

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<プロフィール>
田中勲(たなか・いさお)
1973年生まれ。レジデンシャル不動産法人株式会社代表取締役。不動産会社勤務を経て、1999年不動産会社を友人と起業。2009年に、手数料無料をうたうゼロシステムズを設立。宅地建物取引士のほか、住宅診断士(ホームインスペクター)、木造住宅耐震診断士、赤外線建物診断アドバイザー、ファイナンシャルプランナーなどの資格を生かし、徹底した顧客目線のアドバイスによる住宅販売を多数行う。
●ゼロシステムズ

<クレジット>
取材・撮影/ライフネットジャーナル編集部
文/香川誠