書店に行けば、お金に関する本が星の数ほど並んでいます。投資、貯蓄、節約、家計簿、相続税対策。あまたあるマネー本の中でも、本書(『そこ、ハッキリ答えてください! 「お金」の考え方 このままでいいのか心配です。』)は極めてユニークな内容といえるでしょう。

著者は、数々のマネー本を送り出し、論理的な思考と豊富な知識から繰り出される辛口の評論で知られる経済評論家の山崎元氏と、独立系ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏。2人がタッグを組んでお金の問題を語り合った本書は、立場も年齢も違うさまざまな人から寄せられた相談を題材にしながら、お金にふりまわされずに人生を有意義に過ごすための具体的な考え方や方法を紹介しています。

■「人生設計の基本公式」がお金の問題を解決する!?

お金の問題とは人生の問題である。

これが本書を貫くテーマです。このテーマに沿って、山崎氏と岩城氏はお金の問題を合理的に解く方法を提案していきます。

中でも目を引くのが「人生設計の基本公式」。「必要貯蓄額が確保できるなら、あとは面倒くさいことを考えなくていい」という岩城氏の言葉を受けて山崎氏が考案した計算式です。現役年数や老後年数、手取り年収や年金額、現在の資産額などの数字を入れれば、当面の可処分所得のうち、どのくらいを貯蓄しなければならないのかを示した必要貯蓄率が導き出される公式は一見難しそうに思えますが、数字を入れるだけなので、簡単楽々。山崎氏は言います。

「『人生設計の基本公式』は、1回だけ計算してみて終わりではなくて、これを使って、あれこれ調整してみるところにこそ使用上の醍醐味(?)があります」

「数式をあれこれ入れ替えて、現在の生活と老後の生活のバランスを検討してみてください」

将来への不安の多くは、現状を把握せず、「変えられない」と思うところから始まります。本書の提言はシンプルかつ合理的です。

■辛口の2人がすすめる保険は……

病気に備えてどれぐらいの保険に入っておけばいいのか、投資はした方がいいのか、金融商品を勧められたら等など、おそらく誰もが一度は悩んだことがあるリアルで切実な相談に対する2人の回答も明快です。

保険料の支払いが年間52万円、女児を出産して育休中の女性の「保障の必要額はどのくらいなのか」という相談に山崎氏はこう答えます。

「(夫が)ばったりと逝ってしまったときのために、10年くらいの掛け捨ての死亡保障の生命保険は必要かもしれない」

この山崎氏の提案に対する岩城氏の答えは次の通り。

「1,000万円くらいは入ったほうがいいと考えれば、ネット生保なら、掛け金は月7,000円くらいです」

山崎氏が何か発言すれば、間髪をおかず、岩城氏からポンポンと具体的数字が飛び出すのはファイナンシャルプランナーならでは。医療保険についても、岩城氏は相談者に寄り添いながらプロとしてこう延べます。

「先進医療って全ての人に万能ではないし、受けられる病院も限られています。先進医療を受けたいから保険に入るというのは違うかなと思います」

相談に対する回答ページの最後に登場する格言も含蓄があり、記憶に残ります。

「生命保険が必要なのは貧乏な夫婦に子どもが生まれたときだけ。必要最小限の保障額を、ネット生保の掛け捨ての保険で用意するべし」

「『高額医療費制度』があるので、がん保険を含む民間の医療保険は不要です。医療保険に払う保険料分を貯蓄にまわすほうが、よほど気が利いている」

ものごとの本質に迫るテンポのいい格言を拾うだけでも、お金に対する思考がすっきりと整理されそうです。

■恋愛や結婚もお金の観点から切っていく

本書には、マネー本らしからぬ恋愛や結婚といった話題も満載です。岩城氏が挙げた「女性側から計算する『恋の確率』といい男の条件10か条」に対抗して、山崎氏が発案する「男性側から計算する『恋の確率』といい女の条件10か条」。恋が生まれる確率を数字で明らかにするという試みに驚きつつ、自らの経験から確率を計算してみる読者も多いのではないでしょうか。

婚活を始めたものの、なかなかこの人と思える人に出会えないという女性の悩みに対しては、山崎氏はこうアドバイスします。

「経済学的にはサンクコストといいますが、この『ここまで我慢したのだから』という思いは、将来への意思決定には混ぜないほうがいい」

どういう男性を選ぶべきかに関する山崎氏のアドバイスもユニークで独創的です。

「就活の採用条件が参考になります。まず誠実であること、ウソを言わないこと、そしてできればアタマがいい、能力がある、加えて周囲を元気にするようなエネルギーがある、さらには大人として振る舞えること、といった属性が条件になると思います。実はこれらは、ジャック・ウェルチが挙げている採用したい人物の条件なのです」

経済学や実業家ジャック・ウェルチを踏まえての指摘は山崎氏の真骨頂でしょう。はっとするような発見が本書には随所に散りばめられています。

■人生の岐路に立ったら開きたい1冊

本書はリタイアを間近に控えた人、すでにリタイアし老後に向けて投資を検討しているシニア向けの参考書としても役立ちそうです。

早期退職に踏み切り、2,000万円の退職金をどう活用すべきかという相談には、外国株式の個人型確定拠出年金やTOPIX連動型ETFのNISA、外国株のノーロードインデックスファンドなど実際の金融商品名を挙げて、その根拠と予想される成果を紹介する一方で、効果がない、意味がないという金融商品も明らかにされています。

山崎氏が掲げる「360で考えましょう」という提案にも説得力がありました。

「360というのは、65歳から、少々余裕を見て95歳まで生きると考えた時の30年間の月数です。例えば、老後に360万円持っていると、年金などの収入に加えて、金融資産から月に1万円取り崩すことができます」

つまり、3,600万円あれば、30年間、毎月10万円余分に使えるということ。老後にいくらあればいいのかという闇雲な不安を一掃するのは、シンプルな意思決定を可能とする理にかなった情報なのです。

仕事、結婚、住宅、教育、投資、介護。人生にはいくつも帰路があります。分岐点にさしかかり、お金に関する悩みが頭をもたげてきたときにページを開きたくなるマネー本です。

『そこ、ハッキリ答えてください! 「お金」の考え方 このままでいいのか心配です。』 山崎元・岩城みずほ著(日本経済新聞出版社)

<クレジット>
文/三田村蕗子