爆発的にヒットした口金型リュック。ジッパーで口が大きく開き、軽くて便利。サイズや色のバリエーションが多く、世代を問わず愛用者が多い(写真提供:キャロットカンパニー)

「anello(アネロ)」のロゴがついた、色とりどりの口金型リュック。街中や電車内を見渡すと、毎日必ず見かけると言っても過言ではありません。学生からビジネスパーソン、子育て中のママまで、男女問わず幅広い層から絶大な支持を得ています。このバッグを企画・製造・販売しているキャロットカンパニー 東京支店長の三浦力也さんに、どのようにして大ヒット商品ができたのか詳しくお話を伺いました。

■使いやすさ、機能性、コストパフォーマンスへのこだわりが成功の鍵だった

──「anello」の口金型リュックは、いつ発売されたのでしょうか。

三浦:発売したのは2014年の秋冬で、その翌年の2015年に売り上げを大きく伸ばしました。

それまでは、「anello」や「Legato Largo(レガートラルゴ)」といった当社のオリジナルブランドを前面に出した物作りはあまりやっていませんでした。というのも、主な取引先はアパレル関係のショップだったからです。

洋服を売っているお店は、大体、屋号にブランドの名前がついていますから、店内で当社のブランドが前に出てしまうと、お客さまに「違う商品を置いている」というイメージを与えてしまいます。だから、「ブランドよりも、とにかく質のいい商品を開発して欲しい」という要望が多かったんです。

しかし、ビジネスの年数を重ねてきますと、自分たちの商品の魅力をもっと世の中に広めていきたいと思うようになりました。そこで何が足りないのだろう? と社内で議論すると、「ブランディング活動があまりにもなさすぎる」という声が上がりました。そこから、商標の取得やSNS・雑誌での宣伝活動などを含め、ブランドの確立に着手しました。ですから、ブランドとして広まったのはここ3年くらいのことだと思います。

三浦力也さん(株式会社キャロットカンパニー営業部部長、東京支店長)

──ファッションの移り変わりの早さと、ブランド認知にかかる時間とを比較すると大きな差がありますよね。その点、意識されたことはありますか?

三浦:物作りをする上で当社が重要視している点がいくつかあります。おっしゃる通り、トレンド感を入れていかなければなりませんが、トレンドはあくまでも一過性のものですし、好き嫌いも大きく分かれる商品が多いのが実状です。さらにシーズン需要も重なりますと、短い期間で終わってしまう場合があります。

当社の場合は、そういうトレンド要素を若干入れながらも、「使いやすさ」「機能性」「コストパフォーマンス」を重視した商品開発を心がけています。

すると、最終的には比較的ベーシックな商品、使い回しのしやすい商品が多くなってくるんです。元々、お客さまの節約志向も高まってきていますから、「anello」のような使い回しの利く商品を選択されやすいと言えます。これは、幅広い世代に受け入れていただいた理由のひとつでもあるのではないでしょうか。

■口金型リュックブームは、想定外のことだった

──世代のニーズがそれぞれ異なる中、商品開発をする上で意識されていることはありますか?

三浦:コアターゲットである20代の女性・男性に向けた物作りを重要視しています。これは、当社のどのブランドも同じです。「Legato Largo」だけはレディースのみになります。

コアターゲットに向けての商品開発は、先にも触れましたように、若干のトレンド、機能性、コストパフォーマンス、ベーシックという要素を考えます。すると、ターゲット層は20代だけじゃなくて10代、あるいは30代まで広がってきます。

「anello」のほかにも、さまざまなタイプの商品が展開されている

三浦:最近の傾向として、興味深いことがあります。anelloの口金型リュックを例にとりますと、上の世代になるほど、「世の中にたくさん出回っているという安心感」が購買理由になるようなのです。認知度が信用性に繋がっているのかもしれません。だから、40代、50代でお持ちになる方も非常に多いんですよね。一方で、下の世代は、逆に「人とかぶるのは嫌」と考える人たちが多いようです。

また、機能性を重視したことで、若い主婦層の支持も集めました。一般的なマザーズバッグは、色んなものを細かく収納できるような作りになっています。例えば仕切りやポケットがたくさんついているようなデザインですね。しかし、ママさんたちの使い方を見ていると、授乳関係のもの、着替え、おやつなどをそれぞれポーチで小分けして、それらをざっくりバッグの中に入れちゃう人が意外と多いんです。

口金型リュックは、まさにそういった使い方をされているようです。しかも口金なので、大きく開けばどこに何があるか一目瞭然。この「ざっくり入れて、がばっと開けられる」という点が主婦層から広く支持されました。はっきり言って、当社としては想定外のことでしたね。

■企画・営業・MDのバランスによってベーシックな商品が生まれた

──商品企画はどのようにして行われているのでしょうか?

三浦:当社では、商品企画部、営業部、MD部のメンバーたちが話し合いながら商品を考えます。

そこでは、それぞれの立場からの意見が飛び交います。企画部でしたら物作りとしての思い。MD部からは、市場から見た客観的な視点。営業部であれば、取引先やお客さまに売れる商品を売りたいという気持ち。基本的には、ブランドコンセプトに基づいた商品開発をしていきますが、三者からはそれぞれ具体的なメッセージが発せられます。


三浦:例えば、企画部から「シーズントレンドではこういう商品が絶対に流行るから、このブランドでこういう商品を作りたい」という話が出たとします。それがあまりにもトレンドに乗りすぎたものである場合、他の部から「それは一過性ものだし、好き嫌いも極端に分かれてしまうから、会社としては向いていない商品だ」という意見が出たりします。

では、その企画部の思いをどういうふうに形として落とし込むのか。「うちの会社向きのカラーにしてみるのはどうか」「素材をこうしよう」「サイズ感をこの年齢層に合うものにしよう」「この機能を付けた方が幅広く売れる」などの意見を出し合って、最終的に調整していきます。

あるいは、営業部から「お客さまからこういう商品が欲しいという要望がある」という話が出たとしても、その商品が特定のお客さまに偏った商品である場合もあります。そういう時には、MD部や企画部から「会社としてはもう少しターゲット層を広く考えた方がいい」という指摘が出て、さまざまなテイストの変更案を出し合って、最終的な着地点を探ります。

──三者の意見が割れた場合、最終的なジャッジはどうされているのですか?

三浦:この3つは全く異なる視点ですが、根底では、会社としての路線、考え方、ブランドの育て方、商品の販売の仕方などの軸が合致しているところがあります。

スタート地点では意見が重なっていなくても、話し合っていくことで最終的にひとつにまとまることがほとんどです。完璧ではないかもしれませんが、着地としてはうまくいっていると感じます。

──いいバランスですね。

三浦:そうですね。しかし、この仕組みに辿り着くまでには、さまざまな試行錯誤がありました。各部署の失敗や成功がある中で、自分たちのやり方が定まってきたのです。


三浦:会社の立ち上げ当初は、3人の役員が社員に指示をしていました。その後、現場のメンバーたちが育ってきて、こういった仕組みができあがっていきました。その経緯で、営業部の意見が強い時や、企画の意見が強い時など、偏ったこともありましたが、どちらかに偏ってしまうと、あまり売れないんです。

こういう経験を元に、徐々に今の形に落ち着いてきました。この仕組みが今、当社の大きな強みになっていると思います。

(後編につづく)

<プロフィール>
三浦力也(みうら・りきや)
1969年生まれ。福岡の雑貨問屋でキャロットカンパニー商品の仕入れ・販売を経てキャロットカンパニーへ入社。趣味は釣り・ドライブ。

●キャロットカンパニー

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/森脇早絵
撮影/横田達也