三浦力也さん(株式会社キャロットカンパニー営業部部長、東京支店長)

「anello(アネロ)」の口金型リュックが幅広い世代で大流行していますが、「よく見かけるけれど、どのメーカーが作っているのだろう?」と思う方も多いのではないでしょうか。製造元のキャロットカンパニーは、「anello」やレディースバッグブランド「Legato Largo(レガートラルゴ)」のヒットで急成長。しかし、オリジナルブランド立ち上げまでには意外にも長い期間があったといいます。創業から急成長に至るまでの道筋について、東京支店長の三浦力也さんにお話をうかがいました。 

(前編「大ヒット「anello」の口金型リュックはどのように生まれたか──キャロットカンパニー」はこちら)

■創業当初から、「ゆっくりと、着実に成長していきたい」と考えていた

──創業からブランドの立ち上げまでに至る経緯を教えていただけますか。

三浦:創業者である当社の役員3人が、卸売業からスタートしました。
3人とも、バッグの製造とは全く関係のない業種についていました。当然、最初から商品を作ることはできませんし、人数が少ないから自分たちの足で営業をかけることもできず、はじめは海外から商品を仕入れて、問屋に卸していたんです。

──当時から、今の青写真はあったのでしょうか。

三浦:正直、ここまでの青写真はなかったのではないでしょうか。ただ、役員たちは「ゆくゆくは会社を大きくしたい」と思っていたそうです。では、どうすれば実現するだろうと考えた時、やはり重要なのは「人材」です。いい人材が会社に入り、事業にどんどん参加すれば、その力は想像以上に大きなものになっていくだろうと。

当社の社名「キャロットカンパニー」は、漢字で書くと「人参」。つまり、「人が参加する」ですよね。人が参加をして、その中でさまざまな取り組みをしていきたいという気持ちから、この名前が生まれたんです。

もうひとつ、私たちは急激な成長を望んでおりません。例えば、口金型リュックで広く認知されたブランド「anello」は、「輪っか」を意味する言葉です。「年輪」からイメージしてできた名前ですが、少しずつでも確実に成長して欲しいという思いが込められています。

「Legato Largo」というブランドも同様です。これは音楽の速度記号で、「切れ間なくなめらかに」という意味。ゆっくりでも確実に、という気持ちから生まれました。

■anelloヒットの背景は、口コミとSNS

──御社の急成長の理由のひとつに、「anello」のヒットがあると思いますが、ヒットの要因は何だと思いますか。

三浦:ひとつは、もともと幅広い販売網を持っていたこと。もうひとつは、口コミやSNSでの拡散が早かったことが要因ではないかと思います。

日本だけではなく、東南アジアを中心とした海外のSNSやブログでの拡散も凄まじいものがありました。例えば、2015年にインバウンドブームが到来した頃、anelloのバッグをお土産にする外国人観光客の方がたくさんいらっしゃいました。中には、ひとりが何十個も買って帰国する話もありました。

──すごいですね! もうひとつ、震災以降、ファッショトレンドがシンプルになってきたことで、ファストファッションを含めベーシックな商品が支持される流れがあったとも感じます。

三浦:それは確かにあるでしょうね。あと、日本のファッション業界では、大きなヒットになるようなトレンドがなかなか出てきていなかったことも一因だと思います。

大きなヒットがないと、トレンドはめまぐるしく変わります。その結果、アパレル各社はトレンドを追いかけるのではなく、リスク回避という名目で、「多品種で少量ずつ」という売り出し方をします。すると、商品の種類は増える一方で、何がよくて何が流行っているのか掴みにくくなるんです。消費者は賢いので、そうであったら、機能的で使い回しがしやすく、ベーシックな商品を好むようになります。

──先ほど、海外の話が出ましたが、海外展開もされていますか?

三浦:はい。もともと、台湾や香港で当社の商品を販売されている会社が各国数社ずつありました。最近では、anelloが日本だけではなく東南アジアを中心とした国々でも人気になり、タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、韓国、中国などでも販売されています。

その一方で、模倣品の被害という大きな問題も出てきました。日本でもありますが、海外ではそれ以上に大きい。私たちは商品やブランドを守っていかなければなりません。それは自社の利益を守るのではなく、あくまでもanelloの商品を欲しいというお客様に対して、正規のものをお届けしなければならないという使命があるからです。

単純に販売網を広げるのではなく、各国に独占販売契約を結べる会社とパートナーを組み、その国に置いてしっかりした商品の販売網を広げ、ブランドを守り、商品管理をやっていこうと考えています。すでに、タイやフィリピンで実践していています。

■「将来性」を考え、思い切った新卒採用を行った

──会社の話に戻りますが、キャロットカンパニーは、全体の社員数に対して企画部の人数が占める割合が2割と非常に高いんですよね。


三浦:そうなんです。創業当時から、物作りをする企業として商品の企画は肝心要の部署ですから、積極的に投資をしていかなければならないという認識がありました。どれくらいの人員を集めればいいかと探っていった結果、経験則的に全体の2割は必要だとなりました。

また、企画という仕事は、メンバーの成長にも時間がかかりますから、他の部署より多めの人数になっているのです。

──中途採用の方が多いのですか?

三浦:一昨年までは、すべて中途入社でした。小さい会社で社員数が少なかったので、即戦力が必要だったからです。ただ、中途採用にはデメリットも少々あることに気付きました。

例えば、前職で同業の企画をしていた方が入社すると、前職までにやってきたやり方や考え方が染みついてしまっているケースが多いのです。すると、当社のやり方や考え方を理解してもらうまで、どうしても時間がかかってしまいます。結局のところ、未経験の人と比べても、成長スピードはあまり変わりません。

そこで2017年4月入社から、思い切って新卒採用に踏み切りました。来年も継続させていこうと考えています。

──4月入社の方は何名いらっしゃるんですか?

三浦:東京と大阪を含めて10名です。ちなみに、全社員数は約70名になります。

──社員の1割以上が新卒なのですね!

三浦:初めて新卒採用をやってみたところ、選考の段階で、応募してくれた学生さんたちは、私たちが期待する以上の将来性を感じさせてくれたんです。これまでは即戦力重視で中途採用をしてきましたが、正直なところ、そこでの成長の伸びしろよりも、新卒の伸びしろの方にすごく期待が持てました。

もうひとつの理由としては、今、当社は成長段階に入っていることもあって、人が足りずに兼務している人が多いです。事業の効率化や生産性の向上は、緊急の課題です。ちょうど部署の再編成や人員の補充を考えている時期でしたので、数年先を見据えて思い切って新卒採用を増やしました。中期計画の中では、十分に戦力になるだろうと考えています。

──新卒のメンバーが増えて、社内の空気も変わったのではないでしょうか。

三浦:変わりましたね。明るくなりました。目をキラキラさせながら仕事をする新卒社員を見ると、私たちも初心を思い出します。

それから、教育係になった先輩社員たちのモチベーションも上がりました。「育てる立場の人間が今のままでいいのか」という自己啓発にも繋がっています。

──会社が成長していく中で、一番気をつけている点は何でしょうか。

三浦:当社のスタッフたちに常に言っていることは、「とにかく仕事は丁寧に」ということです。絶対に手を抜かないようにと。私たちの仕事は、どれだけ売れたとか、どれだけおしゃれかというような、とにかく目立つところに目がいきやすいんです。

しかし、当社の方針である「少しずつ着実に成長していく」ことよりも、そういった部分に目移りして舵を切ってしまうと、必ずバランスが崩れて足元が揺らぎます。それが自分たちに跳ね返ってくることは、経験上、よく分かっています。今でこそ当社は急成長していますが、かつては業績がアップダウンしていた時期もありました。

さまざまな経験の中で学んだことは、とてもシンプルなことでした。当社は特別なことをやっている意識はありません。本当にやらなきゃいけないことを丁寧に、諦めずにやりきることを続けているだけです。私たちは結果的に急成長しましたが、それに囚われず、今後も着実な成長をしていきたいと思っています。

リュック以外にもさまざまな型が出されている(写真提供:キャロットカンパニー)

<プロフィール>
三浦力也(みうら・りきや)
1969年生まれ。福岡の雑貨問屋でキャロットカンパニー商品の仕入れ・販売を経てキャロットカンパニーへ入社。趣味は釣り・ドライブ。

●キャロットカンパニー

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/森脇早絵
撮影/横田達也