日本乳癌学会が制定した医療関係者向けの「乳癌診療ガイドライン」をもとに作成された「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」について、わたしはここ1年半ほど手もとに置いて、ことあるごとに読みかえしています。昨年2月に妻が乳がんの告知を受けた際、女性外科医である主治医から基本的にはこのガイドラインにしたがって治療をすすめる旨の説明があったからです。

乳がん告知の際の主治医の説明に対して「抗がん剤治療で髪の毛が抜けるのであれば、抗がん剤治療はしません」と妻が主張すると、主治医はひとこと「死にますよ」といわれました。乳がんの治療は外見的なものも含めて女性にとっては精神的につらいものだと思います。妻がほかにより良い治療の選択肢はないものかと思い悩んでも不思議ではありません。わたし自身もガイドラインのとおりに治療をすすめれば万全なのかという不安がありました。

いずれにしても外科的手術を行うことについての選択の余地はありません。問題は、その後の治療をどのように行うかによって転移や再発のリスクを減少させて、かつ、身体的な副作用を最小限に抑えた治療ができるかだろうと思います。ガイドラインに沿って治療をすすめることがベストなのか。妻もわたしも確信を持つことはできませんでした。手術についてはとどこおりなく完了し、抗がん剤治療が開始されるまでの1か月半くらいの間に、セカンドオピニオンを求めることとしました。

セカンドオピニオンをお願いした医師は乳癌学会では著名な腫瘍内科の女性の先生であり、お話を聞くことができるのか不安はあったのですが応じてくださいました。主治医の通常の診察では事務的なことも含めてせいぜい20分程度の診察ですが、今後の治療方針について1時間しっかりと説明を受けることができました。最後に先生は妻をじっと見つめながら、「あなたはもう決めているんだよね」といいました。そのことばは、一抹の逡巡した気持ちをしっかりととらえ逆に妻の背を押してくれたものと思います。

また、「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」を作成された委員、乳がんにかかり治療を経験してきた方ですが、たまたま知人を介してその人を知ることとなり3時間にわたりガイドラインの重要性について詳細にお話をうかがうことができました。乳がんの治療においてはこのような診療のためのガイドラインが確立されており、このことは過去の患者さんたちによる献身的な協力があったからこそだということでした。

こうしたことを経て、ガイドラインは単に標準的な治療ではなくベストの治療であり、これ以外の選択肢はないと確信しました。しかし、この治療を全うすることも容易なことではありません。現に副作用で治療を続けられない人もまれではありません。妻も1年2か月にわたり分子標的薬を含む抗がん剤治療を毎週にわたり続けてきましたが、途中1か月程度中断しました。もともと体の強くない妻にとっては副作用のため、循環器科、消化器科、皮膚科ほか6科の診療を必要としました。

ネットでもさまざまな情報が氾濫しています。そこには必ずしも適切とはいいがたい情報もあるのではないかと疑問に思うことも少なくありません。そのようなときに、わたしはこのガイドラインを手にして疑問点について確認しています。 ようやくこの8月に抗がん剤治療は終了となりますが、来月から1か月強にわたり毎日放射線照射を行い、その後はホルモン療法を5年間継続しなければなりません。

妻は昨年4月中旬から仕事を休職していますが、放射線治療終了後は段階的な復職を予定しています。まだ、ひと山もふた山も越えなければならず、当人である妻が不安に思う気持ちがないわけではありませんが、この治療を完遂することが転移や再発のリスクを0とするゴールだとわたしは信じています。

(付記) このブログは妻の了承を得て作成しました。

保険金部のNでした。

※2017年8月22日「ライフネット生命保険 社員ブログ」より