老後資金の準備は、まずは家計の赤字状況を知ることからです。『貯金1000万円以下でも老後は暮らせる!』(すばる舎)の著者、ファイナンシャルプランナー(FP)の畠中雅子さんはそう述べますが、それでは「貯めるコツ」はどのようなものがあるのでしょうか。(前編はこちら)

■3か月に1度の記帳で家計が丸わかりになる「貯金簿」とは?

──老後資金の準備に役立つツールとして、畠中さんは独自に開発した「貯金簿」というものを推奨されています。家計簿とはどう違うのですか?

畠中:家計簿は収入と支出を記載しますが、私が命名した「貯金簿」はある時点の貯蓄残高を記録しておくものです。記帳は3カ月ごと、年に4回としています。これとあわせて家計簿も毎月つけてはいるのですが、お金を使いすぎた月はマイナスを見るのがイヤでつけないこともあります(笑)。家計簿は、日々の買い物や口座引き落とし、配当金の入金などすべてをチェックするのは大変で、続けられなくなる人も多いですね。

でも貯蓄残高さえ把握しておけば、家計簿が不完全でも、お金の流れが1円単位まで正確に分かります。ガクンと減った時の理由も余白に書き込んでおけば、「旅行でお金を使いすぎたかな」と反省することができます。
増え方と減り方を把握しやすいので、「このペースだと数年後いくらくらいになるか」「ここは子どもの入学でお金が減ったな」といった大きな流れも分かり、将来が見通しやすくなります。私は30代前半から20年以上ずっと続けています。とても簡単なのでズボラな人でも続きますよ(笑)。

──ストレスなく家計全体のトレンドも把握できるというわけですね。

畠中:家計簿だけでは、貯蓄の減り方のペースがつかめません。年金生活では赤字額を把握しておくことが大切なので、貯蓄残高の変動が分かりやすい貯金簿のほうが有効だと思います。貯金簿を始めるのであれば、パソコンよりも手書きのノートのほうがいいでしょう。後から見やすいし、記憶にも残りやすい。

また、家計簿だと貯蓄型の保険の保険料の支払いは支出として計上するしかありませんが、貯金簿ではそれが貯蓄として積み上がっていることを実感できます。ちなみに私の場合、保険料を上回った分については貯金簿につけないようにしています。「こんなに増えたから買い物しよう」と調子に乗ってしまうので(笑)。

■自分に合った「お金の貯め方」を見つけよう

畠中雅子さん(ファイナンシャルプランナー)

──「自分が今やりたいことをやりながら粛々と老後資金を準備していくのがいい」という話がありました。「お金を貯めるコツ」はありますか?

畠中:実は私、こういう仕事をしていながら貯蓄が苦手なんです。目の前にお金があると「それは使っていいものだ」と思ってしまう(笑)。だから貯めていることを意識しない方法で老後資金の準備を進めてきました。

──「貯めていることを意識しない方法」とは?

畠中:強制的に支払いが生じる金融商品です。具体的には貯蓄型の保険と不動産投資が中心ですが、他の人にはすすめられませんね(苦笑)。私がお金を貯め始めた時と今とでは、条件が大きく異なるからです。今始めても利率が低いので、同じ方法では貯まりにくいと思います。

──となると、資産運用で増やしていくべきでしょうか?

畠中:老後資金の準備として運用を行うこともおすすめしていません。余裕資金を運用するのであれば問題ありませんが、運用は成功もすれば失敗もする。余裕資金ではないお金を運用に回して、失敗した時にかなり減ってしまえば、生活設計が成り立たなくなってしまいます。老後といってもそれまでの生活の延長線上にありますから、50歳を過ぎて500万円しか貯金がない人が、「これを元手に3000万円に増やしたい」といっても無理な話です。
仮に利回りのいい金融商品があったとしても、その分リスクも高まります。短期間で大きく増やそうとせずに、たとえば500万円の貯蓄を800万円まで増やす努力をして、そのうえで年金生活のコストを小さくしていく。「増やしながらセーブしていく」ということがポイントです。

──リスクを抑えてお金を増やすための有効な方法はありますか?


畠中:たとえば54歳までの方は、会社に財形貯蓄制度があればそれを利用する。なければ個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」や投信の積み立て、株の積み立てなどの選択肢もあります。もっと安全に増やしたいのであれば、毎月の貯蓄額を「1割多め」にすれば運用と同じ効果を得られます。毎月2万円を貯蓄している人は、2万2千円にするだけです。

──積み立てタイプのもののデメリットはありますか?

畠中:「簡単には換金できない」ということが挙げられます。解約した時に「元本割れ」のリスクがあるものは、事実上「使えないお金」になります。私はお金があれば使ってしまうので、そうするしか方法がありませんでした。
不動産投資の場合は、ローンが払えなくなったらその物件を持っていかれてしまうので、何としてでも払い続けますよね。とてもリスキーなんですが、それがある意味私の働くモチベーションにもなっていました。それでなんとか払い終えられそうですが、やはり他の人にはおすすめできません。

──おすすめできる方法を教えてください(笑)。

畠中:「老後資金にいくら必要か」という問いに答えがないのと同じで、これという方法はなく、自分の性格に合ったやり方を見つける必要があります。よく、他人の成功談を自分に当てはめようとする人がいますが、背景も能力も性格も違うのだからうまくいかなくて当たり前です。運用で100万円が3億円になったという投資本を読んだからといって、それを真似してうまくいくわけがありません。「人の成功談は自分の成功談にはならない」からです。

──「自分の性格に合った方法」を見つけるには?


畠中:好きかどうかということが意外と重要だと思います。私は以前、株を短期で売買するデイトレーダーのようなことをやっていたことがありますが、いつも株価の上下が気になって仕事が手につかなくなるほどでした。そういう人はデイトレーダーには向かないのでしょう。私は短期売買をやめて、安い時だけ株を買って長期的に運用することにしました。

すると、運用下手だったはずなのに結果的にはプラスになりました。株式相場を見ること自体は嫌いじゃなかったので、失敗してやめずに自分に合った方法を見つけられたんだと思います。

ちなみに不動産投資でも相当痛い目に遭いましたが、これも勉強してうまくいきました。単に「儲けよう」と思っていたらやめていたでしょうね。好きだから勉強を続けられたんだと思います。

──まさに「失敗は成功の母」ですね。

畠中:先ほどリスクのある運用をおすすめしませんでしたが、運用自体を否定しているのではありません。運用に失敗することで、自分に合った方法が見つかることもあります。まずは少額でやってみて、自分に不向きだと思ったらやめる。運用以外にもいろいろやって、自分が好きで成功の可能性が高いものだけを続けていくべきです。

私は苦手な貯蓄を諦めましたが、貯蓄が得意な人はそれでお金を貯めていってもいいでしょう。世の中には「何でもできる人」もまれにいますが、ほとんどの人は、自分にできることはそんなに多くありません。老後資金の準備は長い話なので、自分ができるいくつかのことを組み合わせて、無理をせずに続けていくことが大切だと思います。

(了)

<プロフィール>
畠中雅子(はたなか・まさこ)
1963年、東京都生まれ。学生時代にライター活動を始め、長女を出産した翌年(1992年)にファイナンシャルプランナーになる。1女2男を育てながら、執筆、講演、アドバイザー活動に従事。新聞や雑誌に多数の連載を持つ売れっ子FPとして活躍する一方、「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」を主宰するなど、お金にまつわる社会問題の解決にも尽力。『貯金1000万円以下でも老後は暮らせる!』(すばる舎)、『定年後に泣かないために、今から家計と暮らしを見直すコツってありますか?』(大和書房)など著書多数。節約よりも海外旅行、観光列車旅行に情熱を注ぐ姿には、子どもたちから「仕事を間違えている」とツッコミが入るほど。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/香川誠
撮影/横田達也