遠藤敏文さん(株式会社アデランス 医療事業推進部マネージャー)

ライフネット生命は2017年8月のがん保険の発売に伴い、働きながらがんを治療することをサポートする「がん生活サポートサービス」の提供を開始しました。2018年1月には、アデランスと提携し、「がん生活サポートサービス」に「医療用ウィッグ(かつら)」を拡充しました。
(がん生活サポートサービスについてはこちら)

アデランスでは、がんになり、抗がん剤治療の影響で髪の毛が抜けてしまった……。つらい副作用に苦しみながらも笑顔でいたい、元気だった頃と同じような生活を送りたいという女性に向けて、医療用ウィッグを開発し、病院内に理美容サロンを展開。支援活動を熱心に行っています。

世界屈指の技術を誇り、いくつもの革新的なウィッグを世に送り出してきたアデランスが医療事業分野に積極的に取り組むのはなぜなのでしょうか。医療事業推進部マネージャーの遠藤敏文さんが社会貢献活動に力を注ぐ経緯や将来を語ります。

■病院内の理美容サロンの役割が変わった

アデランスは1968年に創業したウィッグメーカーの老舗。ずっとウィッグを作り続け、1990年には女性専用サロンの展開もスタート。女性の心情に寄り添った商品とサービスを提供してきました。2005年より医療用ウィッグに着手し、医療用ウィッグ「ラフラ」シリーズを発売しました。

病院内へのヘアサロンの開設も着々と進めています。店舗数は現在30店。サロンでは、脱毛に関する相談対応を始め、医療用ウィッグの提供からアフターケア、理美容技術のサービスまでを広く提供しています。

医療用ウィッグの普及に力を入れるきっかけは、患者さまの入院形態が変化したことにありました。

「昔は1か月、2か月と長期入院する方が多かったので、病院内の理美容サロンの役割は入院している間に伸びてしまった患者さまの髪を整えることでした。しかし、10年ほど前から入院日数が少なくなり、退院してそこから抗がん剤治療に通う方が増えてきました。

また抗がん剤が進化して薬が良くなったこともあり、悪寒や吐き気、だるさといった肉体的な副作用によるつらさは減っていますが、その分、脱毛による精神的苦痛に悩む女性が多くなっています。抗がん剤で髪が抜ける人の受け皿として、病院内の理美容サロンを利用したいというニーズが高まってきたんです」

以前は身体的なつらさが先に立ち、脱毛の悩みどころではなかったのでしょう。髪の毛が抜けるつらさがあったとしても病院に長く入院できれば、ひと目に触れる機会も少なくて済みます。医学の進歩、入院日数の減少といった変化が、「脱毛の悩み」を大きく浮上させました。

副作用で髪の毛が抜けてしまった自分を直視するのがつらい。髪のない自分を見て驚かれるのがいやだ。そんな切実な悩みを患者さまから直に耳にした看護師たちからやがて、「ウィッグを病院に置いてほしい。パンフレットも患者さまが自由に持ち帰れるようにしてほしい」という要望がアデランスに寄せられるようになりました。

ウィッグがもっと身近になれば、ウィッグをつけてみようと手を伸ばしやすくなるかもしれない。看護師さんたちの声に応えて、30年ほど前にアデランスは病院にウィッグのパンフレットを設置しました。現在は、大型病院に20〜30社ものウィッグの会社のパンフレットが置かれ、患者さんたちの選択肢は広がっていますが、その口火を切ったメーカーのひとつがアデランスだったのです。

■女性の社会進出がウィッグのニーズを後押し

パンフレットを置き始めると、患者さまたちは自由に手に取り、自らメーカーに問い合わせをするようになりました。また、病院側も積極的にサポートします。

「抗がん剤治療は髪の毛が抜けてしまうから治療をしたくないと拒否する患者さまもいます。そこで『こういう治療をやるから髪の毛が抜けますよ』という説明を行った上で、看護師さんがパンフレットを患者さまにお見せすると、人に髪の毛が抜けたことを知られずに済む方法があることがわかる。安心して前向きに治療を受けようと思ってくれる効果は大きいですね。命に関わってくるわけですから。」

女性の社会進出も医療用ウィッグのニーズを後押ししました。「治療を受けながら働きたい。」「元気になったらまた以前のように仕事を始めたい。」と考える女性たちにとってウィッグは強力な援軍です。高まるニーズを受けて、2002年からアデランスは病院内への理美容サロンの開設に踏み切りました。

「みなさん、人前でウィッグを外すことには抵抗があります。特に働く世代の悩みは深刻ですね。お子さまが小さい方は特に『お母さんの髪の毛がないと子どもが傷つくのではないか』と思ったり、たとえ家族の前であっても髪の毛が抜けたところを見せたくないと考えたり、常に帽子をかぶって過ごす方が多いのです。

さらにウィッグを使用しながらいつも通っていた美容室に行くのは、難しいことです。そんなとき、病院内の理美容サロンに行けば、カーテンで個室に仕切られているため、ウィッグを安心してはずすことができます。また、ウィッグのことをよく知るサロンならウィッグを短髪に仕上げて使うようにして、自髪がある程度生えてきたところでウィッグをはずせば、誰にも気づかれずにウィッグのない生活にうまくシフトしている方もいます」

2018年1月、ライフネット生命と提携し、「がん生活サポートサービス」に医療用ウィッグを追加したことも、働きながらがんを治療する方を応援したいと考えるからです。

「保険は、“まだがんにはなっていないけれど、がんに備えたい”という方が対象です。医療用のウィッグを普及させるには、抗がん剤治療とあわせてウィッグを使うという方だけではなく、がんに罹患する前から『こういう選択肢もあるんですよ』と多くの人に知っておいてもらうことが欠かせません。

実際にがんになったという方がウィッグ選びで困ることがないように、ウィッグの品質向上を図ることはもちろん、脱毛に関するご相談への対応から適切なウィッグのアドバイス、アフターケアに至るまで、トータルでお客さまの心の負担を軽減していきたいと思います」

(つづく)

<インフォメーション>
●アデランス 医療用ウィッグ

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/横田達也