千歳はるか先生(国立がん研究センター東病院の栄養管理室長)

2018年5月、ライフネット生命の開業10周年イベントの一環として、「がん経験者のための料理教室」が開催されました。がん罹患者に向けて、働きながらがんを治療することをサポートする「がん生活サポートサービス」を紹介しているライフネット生命と、安心・安全に配慮した食品宅配のオイシックスドット大地、国立研究開発法人国立がん研究センター東病院の三者が連携したイベントです。

国立がん研究センター東病院の栄養管理室長である千歳はるか先生の指導のもと、20分で主菜と副菜が作れる使い切りの食材セット「Kit Oisix」を使って、がん罹患時でも簡単においしく食べられる料理を学んだひとときの模様をレポートいたします。

■市販の食品や便利な道具を柔軟に取り入れよう

オイシックスドット大地にある「Osaki Kitchen Studio」で開かれた「がん経験者のための料理教室」の参加者は16名。小さなお子さん連れのご家族あり、友人同士で参加されたグループありと、バラエティに富んだ顔ぶれ、となりました。

講師の千歳はるか先生が勤める国立がん研究センター東病院では、2008年からがん治療に伴う諸症状にお悩みの患者さんやそのご家族を対象とした「柏の葉料理教室」を月2回開催しています。副作用がある中でも食事を楽しんでもらいたいと、市販の材料やちょっとしたアイデアを駆使したレシピは参加者に大好評。そのレシピ数はすでに1,000種類以上に達しています。

菅美沙季さん(オイシックスドット大地株式会社 執行役員/サービス進化室室長)

今回、がん治療にともなう倦怠感がある方向けの食事として、千歳先生が「Kit Oisix」の中からセレクトしたのは「ごはんがすすむ!鶏の甘味噌香味だれ」「シャキッとキュウリのなめたけ和え」「シャキッとレタス入り彩り野菜と玉子スープ」の3点。デモンストレーションの前に千歳先生は言います。

「がん治療を通して、疲れやすい、眠れない、痛みがあるという方は多いです。倦怠感が強くじゅうぶんに食事がとれないようなときには、脱水予防のために水分補給をこまめにすること。食事時間にこだわらず、自由に摂取することもおすすめします。それから、いつでもとることができる間食も準備しておきましょう。体が起こせないというときには、おにぎりや菓子パンなど手でつかめるものがあるといいですね」

また、“食事は朝昼晩と三食きちんととらなくてはいけない”、そんな先入観を捨て、負担が少なくリラックスできる食事を心がけるのが治療中の体には一番いい。市販の調味料や便利な道具類についても柔軟に使ってみましょう、と千歳先生は呼びかけます。

「倦怠感を感じながら料理を一から手作りするのは大変なことです。缶詰や調理済みの惣菜、めんつゆや焼き肉のたれなどをちょっと取り入れるだけでも、手間が全然違ってきますよ。器としてもそのまま使える電子レンジOKの容器や軽いまな板、フードチョッパーなど、手軽で便利な器具類もぜひ取り入れてみてください」

料理が負担やストレスにならないためにも、既成の食品や道具とうまくつきあってみては? 千歳先生の具体的な提案に、参加した皆さんは大いに納得の表情を浮かべます。

■時短料理は参加者に大好評

「食事の工夫」についてのお話が終わった後、デモンストレーションがスタート。千歳先生がまず手にしたのは「Kit Oisix」の「ごはんがすすむ!鶏の甘味噌香味だれ」です。

キットを開封して野菜を洗い、アーモンドを袋の上から細かく砕きます。その間にお湯を沸かして蒸し鶏を湯煎にかけ、パプリカと玉ねぎをスライスしたら、野菜をレンジで加熱。中華だれとテンメンジャンと細かくしたアーモンド、ごま油、水、蒸し鶏の肉汁を合わせれば甘味噌香味だれの完成です。

レンジでチンした野菜の周りに蒸し鶏とパプリカを乗せ、食べる直前に合わせだれをかければ盛り付けもあっという間に終了。時間は20分もかかっていません。

「シャキッとキュウリのなめたけ和え」も驚くべきスピードで仕上がりました。斜め薄切りにしたキュウリとざく切りにした小松菜、塩をビニール袋に入れ、塩もみした後に水気を切り、なめたけと醤油を入れて和えればヘルシーな副菜のできあがりです。「小松菜は生のほうが、がん予防効果が期待される成分が多いんですよ」と告げる千歳先生に、参加者から「そうなんですねー」と驚きの声があがります。

最後の一品は「シャキッとレタス入り彩り野菜と玉子スープ」。材料の野菜は、にんじん、大根、かぼちゃ、フリルレタス、小松菜、ミニトマトと彩り豊か。こちらも手順はとっても簡単。すでにカットしてあるにんじん、大根、かぼちゃを鍋に入れ、付属のチキンコンソメを入れて煮るだけです。アクを取ったところで、カットした小松菜とミニトマト、温泉たまごを入れて少し煮れば完成。器にレタスを盛り、スープを注いだ後、黒胡椒やオリーブオイルをかけると、ぐっとスープの風味が増しました。

千歳先生は「大根の代わりに、かぶを使ってもいいですね」とアドバイス。この日、主催者側から別途用意されたミニサイズのおにぎりについても、「おにぎりは二本の指でつまめる大きさにすると、力がなくても食べられていいですよ。スープに入れてもおいしくいただけます」と参加者に語りかけます。多くのがん患者さんと接し、毎日の生活の中でどんな問題に直面しているかをよく知る千歳先生だからこそ可能な、具体的なアドバイスです。

デモンストレーションの後はいよいよ調理実習が始まりました。参加者は4つのテーブルに分かれて、「Kit Oisix」を手に3品を作り始めます。子どもたちも積極的に調理に参加し、「私もやる!」「じゃあ、この袋を開けて」「次は袋をもんでね」など、楽しい会話が飛び交いながらどんどん料理は完成形に近づいていきます。

すべてのテーブルで料理ができあがり、試食タイムに突入です。盛り付けが微妙に違い、それぞれに個性が反映されているのは料理の面白さでしょう。「いただきます!」「簡単だったけど美味しいね」「ご飯が本当に進むなあ」。食事と並行してテーブルでの会話も弾みます。

最後に、参加者にもお話をうかがいました。お母さまががんを患っているというある男性は「治療中、母は料理が大変そうでした。今回の料理は時間が短縮できていいですね。いま我が家では料理はすべて妻がやっていますが、誰が倒れても大丈夫なように自分も料理をやろうと思っているところ。これならできそうです」

また、別の女性はこう話します。「体がつらいときに料理するのはしんどいですが、こういうキットを使えば便利ですね。短時間でできますから」

参加者に共通するのは「時短」を評価している点でした。時間をかけずに、手早く素早く簡単にできるレシピと、選びぬかれた安心・安全な素材。「Kit Oisix」は、がん治療中の方のみならず、時短はしたいけど美味しいものを食べたい方など、応用範囲が広いミールキットではないでしょうか。

最後に千歳先生のコメントをご紹介します。「患者さんの中には、市販品やこうしたキットを使うことに罪悪感を感じる方が少なくないのですが、体がつらいときに一から材料を揃えて料理を作るのは大変です。自分の体をいたわりながら、こうしたキットをうまく使えば簡単で安心、さらに美味しく仕上がります。時間に追われている子育てファミリーにも便利ですね」

<開催概要>
ライフネット生命×オイシックスドット大地×国立がん研究センター東病院
「がん経験者のための料理教室」
[日時]2018年5月19日(土)10時30分~13時
[会場]オイシックスドット大地株式会社 キッチンスペース
[講師]国立がん研究センター東病院 栄養管理室長 千歳はるか 氏

<クレジット>
取材・文/三田村蕗子
撮影/横田達也