ライフネット生命保険 マニフェスト見直しプロジェクトメンバー

2018年6月25日、ライフネット生命の新しいマニフェストが発表された。創業者でもコピーライターでもない。現場の社員たちの手により、新しく生まれ変わった「ライフネットの生命保険マニフェスト」。

開業から10年間、会社の方針を明確にあらわし、社員たちの精神的支柱にもなっていたマニフェストを見直したのはなぜか。プロジェクトに携わったメンバーたちに、新生マニフェストの誕生秘話を聞いた。 新しいマニフェストはこちらでご確認ください。

■口は抜擢のもと? リーダー指名は突然に

「少し古くないですか……」

ライフネット生命・経営企画部の加藤あゆみは、とあるミーティングで自社のマニフェストの文章に話が及んだ時に、思わずそう洩らした。まさかこの一言が、自分のこの先半年間の運命を左右することになるとは、知る由もなく……。

ライフネット生命が企業としてあるべき姿をうたった「ライフネットの生命保険マニフェスト」は、創業者の出口治明(前会長)と岩瀬大輔(会長)、そして資生堂やサントリーの広告などで数々の名コピーを生み出したコピーライター、小野田隆雄(おのだ たかお)氏の手によってつくられた。

しかし開業から時間が経つに連れ、創業の想いを詰め込んだマニフェストの一部は次第に古くなった印象を社員が持つようになった。取締役・経営戦略本部長の木庭康宏が明かす。

木庭康宏(取締役・経営戦略本部長)

「創業当時は、まだネット生保が知られていない時代。出口と岩瀬は、業界を変えたいという想いで、当時としては画期的な取組みをマニフェストに盛り込みました。そもそも世の中にネット生保のイメージがなかったので、たとえば、『音声や動画などを使用して』『押印は不要』といった具体的なことも書いていたのですが、そんなことが当たり前になってしまった今、業界を変えたいはずの当社が既に実現できていることをマニフェストとして掲げているのはよくないのではという声が、前々から社内でも上がっていたのです」

創業時のマニフェストは、役目を果たしたんじゃないか。そういう指摘がある一方で、企業精神の根幹部分ともいえるマニフェストを変えるべきではないという声も多かった。

「このマニフェストの柱となるメッセージ『正直に わかりやすく、安くて、便利に。』は社内外でも評判がよく、社員の中にも『これを見て入社を決めた』という人も少なくないのです」(木庭)

マニフェストの見直し議論は数年前からたびたびあったものの、開業10周年が目前となったことをきっかけに、ついに社内で見直しプロジェクトが発足した。メンバーは5人。木庭、お客さま相談グループの牛島綾、人事総務部の篠原広高、広報グループの原由美子、そして冒頭「古い」発言の加藤あゆみだ。発言の場にいた木庭は、「今、役員の間でマニフェストを見直す動きがあるから、よろしく」とその場で加藤をリーダーに指名した。

■「子育て重視」の削除に隠された新たなる思い

新しいマニフェストの基本方針は、理念はそのままに、時代に即した形で顧客視点で精査し、よりスマートにするというもの。そして、検討方法は、社員を全員巻き込んで見直すというものだった。

プロジェクトメンバーはまず、従来のマニフェストの内容を「削ぎ落とす」ことから始めた。そして1か月後、第1案が出来上がり、社内ワークショップで社員に説明をするのだが……。メンバーの牛島がその時の様子を振り返る。

牛島綾(お客さま相談グループ)

「第1案は、削りに削って骨組みだけの状態でした。ワークショップの後、社員から100件ほどのコメントが届いて、その声に私たちは打ちのめされました。『削ぎ落としすぎて全然想いが反映されていない』という指摘を多く受けたのです」

失意のワークショップ後、メンバーたちは毎週の定例ミーティングに加え、丸一日を使ってのオフサイトミーティングも実施した。プロジェクトの活動が本格化し、2回目のワークショップを控えた頃には、リーダーの加藤に『(豆腐の)おからちゃん』というあだ名が定着し始めていた。メンバーの原と牛島が証言する。 「彼女は自分の力を出し尽くして、これ以上絞り出せないくらいになっていた」(原) 「でも味はある(笑)。だからおからちゃん」(牛島)

加藤あゆみ(経営企画部)

「たくさんの意見をもらいましたが、その一つひとつがその人の思いが感じられるものでした。現実的にすべての意見を汲み取ることはできないけれど、気持ちとしては汲み取るつもりでいました。できないくせに諦めたくない性分だから(笑)。途中で、最初のマニフェストを見て、『やっぱり最初のままでよいんじゃないか』と思うこともありました。読めば読むほど、『これいいな』と思うようになって……」(加藤)

目的を見失いそうになるたび、加藤はプロジェクトの原点に戻った。そして、今後10年間のことを考えて、人々の価値観が大きく変わろうとしている時代に即したマニフェストにすることを目指した。

心強い助っ人も現れた。ウェブやパンフレットのコピーや文章を作成することも多いマーケティング部の川端麻清が、サポートメンバーに加わったのだ。

「言葉を紡ぐことが得意な彼女が、私たちが言いたいことを、うまく言葉にしてくれました」(原) そして迎えた2回目のワークショップ。前回の倍以上となる社員90名が参加し、寄せられたコメントも400件以上に達した。メンバーたちはその一つひとつの声を慎重に取捨選択しながら、マニフェストをスマート化していった。

社員からは、「気に入っていたフレーズが消えている」という声もあったが、牛島によれば、時代に合わせてそうせざるを得ない事情があったようだ。

原由美子(広報グループ)

「『学歴フリー』、『国籍フリー』といった言葉が気に入っていたという人が多かったのですが、そこは『多様性』という言葉に置き換えました。というのも、今は10年前よりもフリーにすべき幅が広がっているからです。LGBTも障がい者も、従来のような壁をなくしていく時代。そういう意味で、強い思いのある『子育て重視』も削りました。

子育て世代を応援するのはこれまで通りですが、それに限らず、親の介護や自分の病気やケガとたたかう人も応援する姿勢を明確にしたかったからです」(牛島)

一つひとつ、言葉選びに熟慮しながら、当初のマニフェストに込められた意志が残っているかのチェックから「てにをは」のチェックまで、見直し作業はまさに最終調整の段階に入っていった。そして社内の会議などを経て、ついに新しいマニフェストが完成した。社長の岩瀬も「いいものができた」と満足した様子。

しかし、最大の山場はこの先に待ち構えていた。

■たい焼きを頬張りながら噛みしめる、任務完了の実感

メンバーたちにとって最も長い一日は、マニフェストの執筆者、小野田隆雄氏のもとに新しいマニフェストを持って訪問した日だった。

「小野田先生にマニフェストの見直しを相談するために、岩瀬、木庭、加藤の3人が訪問しました。著名な先生の作った文章に手を入れたので、報告を待つ私たちもその日はずっとドキドキしていました」(牛島)

小野田氏の元へと向かう途中、加藤はたい焼き屋さんを見つけた。少しでも気を紛らわせたかったのだろうか、彼女は「食べたいなぁ」と思いながらその場を通り過ぎた。

「よくできていますね。」 新しいマニフェストを目にした小野田氏は、その内容をほめてくれた。面会中、ずっと涙目だったという加藤は、この瞬間にようやく半年に及ぶ重圧から解放された。

「正直、いいと言ってもらえなかったらどうしよう、ため息まじりだったらどうしよう、という不安もありました。でも先生がいいマニフェストだと評価してくださって、心からうれしい気持ちになりました」(加藤)

その帰り道、木庭はひと仕事を終えた加藤のために、たい焼きを購入。それを社内SNSでメンバーたちにも報告した。牛島からは「おめでたい焼き!」とメッセージが届いた。

一つひとつの声を真正面から受け止める加藤は、大勢の人からの質問に答えるのがあまり得意ではないという。しかし5月末に開かれた、新しいマニフェストの社員向けお披露目会では、どんな質問に対しても自分の言葉で説明をした。

「その人の求めている答えになったかどうかは分からないけれど、メンバーと一緒に、一生懸命考えてきたので、何とか答えられたような気がします」(加藤)

そんな加藤の姿を横で見ていた牛島は、お披露目会で説明中、溢れる涙を止められなかった。 「牛島は普段クールなタイプなので、余計に驚きました。私たちもこみ上げてくるものがありました」(原)

牛島自身も、このプロジェクトには特別な思いがあった。彼女の所属するお客さまサービス本部には、制約の多い業務に取り組むメンバーもいる。そんなメンバーたちからは、「マニフェストを見ると、理想を持って新しい事をやろうとしている会社の役に立っていると実感できて励みになる」という声があった。マニフェストの見直しに、人一倍の重みを感じていたのだ。

「従来のマニフェストは、まだライフネット生命を知らない方、これから申し込む方に向けて主に作られていた、いわばPR色が濃いものでした。開業から10年が経過し、すでに多くのご契約者さまやそのご家族、取引先の方々などがいらっしゃるわけで、この新しいマニフェストはそうした皆さまを想定した、役職員の行動規範になってきます」(原)

新しいマニフェストのポイントを木庭が解説する。

「従来のマニフェストの冒頭は、『私たちは、生命保険を原点に戻す』でした。新しいマニフェストの冒頭は、生命保険の原点を忘れないという言葉を残しつつ、『私たちは、生命保険の未来をつくる』という言葉にしました。そこに未来への想いを込めています。

生命保険というものは、お金のやり取りだけで終わる商品ですが、それだけではなく、お客さまが希望する生活を送れるように、生命保険の周辺のことまで考えていく姿勢を盛り込みました」

また、加藤のリーダー抜擢理由について、木庭は「彼女にプロフェッショナルって何かと聞いたら、『こだわり』と返ってきたから」と答えた。こだわり抜いた加藤は、このマニフェストをどう活用されることを望んでいるのだろうか。

「社員が何か新しいことをやろうと思った時に、役員や上司から『それはちょっとな』と言われることがあると思います。でもこのマニフェストには、ポジティブな行動指針が書かれている。『ここに書いてあることですよ』と言える。やりたいことがある社員の後押しになれば、それが会社にもお客さまにもプラスになると信じています」

(了)

原点に戻ること、未来をつくること 
小野田隆雄

新しいマニフェストの誕生に心からの祝福を申し上げます。

出口さんは日本が少子高齢化社会へ突入することを、早い段階から察知していました。そしてそれに対応させ、生保という人類の知恵が未来にも生き続けるために、当時の生保のありかたを保険の原点に戻すべきだと考えました。いくつかの曲折を経て出口さんの構想が実現してライフネットが誕生しました。

あのマニフェストは、出口さんの生保と人間への愛情、そして岩瀬さんの現代社会への深い洞察力が言葉になったものです。新しいマニフェストにその熱い心は生きていると思います。

<クレジット>
文/ライフネットジャーナル オンライン編集部
撮影/村上悦子

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