山川咲さん(株式会社CRAZY 役員、CRAZY WEDDINGブランドマネージャー)

業界では効率が悪く不向きとされてきた「完全オーダーメイド」の結婚式。世界に一つだけの結婚式をプロデュースするクレイジーウエディングは「完全オーダーメイド」の結婚式を可能にし、業界の「非常識」を「常識」に変えました。創業者の山川咲さんはなぜ非常識に立ち向かい、いかにして困難を可能にしてきたのでしょう。その道のりから見えてきたのは、「意志のある人生をひとつでも多く作りたい」という溢れるほどのパッションでした。

人生はすばらしい。自分らしく生きよう。その思いを形にしてきた山川さんのチャレンジに迫ります。

■意志のある人生を作る

山川さんは早くから起業を志していたわけではありません。大学を出て就職したのは人材教育系のコンサルタント会社。創業間もないベンチャー企業で、山川さんは昼夜なく働き続けます。

頭の中にあったのは、ただただ「会社を日本一にすること」だけ。キャリア志向が強く、人事新卒採用責任者として経営者の感覚を持ちながら仕事をこなす毎日を送っていたある日、山川さんの人生を変える出来事が起きました。

「流産したんです。妊娠がわかったときに仕事も充実していたので早すぎると思いましたが、お医者さんに『おめでとうございます』と言わるとすごくうれしかったですね。この子を守ろう、ちゃんと育てようという気持ちが芽生えてきた、その矢先に流産してしまい、目の前が真っ暗になりました。

会社に相談をして一旦辞めて、また戻りたいと話したら、返ってきたのが『人事のシステムが整ってないからキャリアがゼロになるよ』という言葉。その時、私はただの従業員だと痛感しました」

会社とともに生きていきたい。そう思えるほど仕事に打ち込んでいた山川さんを襲った大きな喪失感。山川さんは会社を辞め、自分の人生をゼロから始めようと決意します。27歳のときでした。

退職して向かった先がオーストラリアです。カジュアルでフレンドリーでおおらかなオーストラリアの人々と接するうちに、山川さんは自己肯定感を取り戻していきます。そして旅の記念にエアーズロックに登り、真っ赤な大地と青い空とカラフルなグリーンを目に焼き付け、風に吹かれながらこう決意しました。

「自分で挑んでみよう、失うものなんてないと思うようになっていました。私は自分の意志でこの人生を決められる。よし、意志のある人生を一つでも多くこの世の中に作るんだ、と心に決めました」

■大自然の中で培った価値観

オーストラリアの大自然の中でこれからの方向性を見出した山川さん。そこには、幼い頃の暮らしも影響しているようです。

「2才のときはワゴンカーが自宅でした。TV局のアナウンサーだった父が会社をやめて『これから1年かけて家族で住んでいく場所を探そう』と、全国をワゴンカーで旅する生活を始めたんです。お風呂もなくて公園で顔を洗う生活をしていました(笑)。その後、私がいやだと泣いて訴えたこともあり、千葉の片田舎の一軒家に住むことになったんですが、そこがまたすごい田舎。田んぼを耕し畑で農作物を作り、お風呂も薪で炊いていました」

クレイジーウェディングには「本質的で、美しく、ユニークであること」という経営の判断軸があります。これは、山や川や海、大地といった自然の姿こそが一番大切であり、地球にとって本質的に必要なコト・モノを創造しようという意志にほかなりません。大自然に包まれ、自給自足に近い生活を通して培った価値観は、クレイジーウェディングの基礎を形作っているともいえるのです。

この暮らしにはもう一つ大きな収穫がありました。

「千葉の時代には疎外感もあったので、いつも薪でお風呂をわかしながら、どうやったら周囲に受け入れてもらえるんだろう、なぜ私はこの家に生まれてきたのか、どうしてここにいるんだろうとずっと考えていました。このときに葛藤したこと悩んだこと、考え続けたことは人生の糧になっていると思います」

■クレイジーなことをスタンダードにしよう

オーストラリアから帰国後、山川さんは起業へと動き始めます。結婚式のプロデュース業を選んだのは、自身の結婚式を通して、結婚式には人生を変えるほどのインパクトがあることを知っていたからです。

2012年には伴侶でもある森山和彦さんを代表取締役に据え、現在CRAZY WEDDING CEOの遠藤理恵さんとともに、ユナイテッドスタイル(旧社名)を設立。完全オーダーメイドのウェディングを提供する「クレイジーウェディング」ブランドを立ち上げました。

クレイジーウェディング。よく考えれば奇妙な名称です。しかし、そのネーミングこそ、山川さんがやろうとした結婚式の革新性をよく物語っています。

「25歳のときに結婚式を挙げたのですが、人生が変わるくらい楽しかった。ただ、世の中の結婚式のシステムには納得できませんでした。すごく高くて無形の買い物なのに、見積もりの最後になると値段が100万、200万というペースで上がっていく。それでいて、これもだめ、あれもだめという制約が多い。それが当たり前とされていましたが、私はおかしいと思いました。

誰一人として同じ人生を歩んできた人はいないのに、同じ結婚式を挙げるしか選択肢がない現状を目の当たりにしたことで、パッケージではなく、新郎新婦の意志が表現された『人生が変わるほどの結婚式』をプロデュースしていこう。これこそが世の中のスタンダードだと断言できるまっとうなビジネスをしていこうと考えたんです」

■「人生が変わるほどの結婚式」をプロデュース

たとえ、どんなに「不可能」、「クレイジー」と思われようと、求めている人は絶対にいるはずだ。強い確信のもと、山川さんは完全オーダーメイドの結婚式を一つずつ形にしていきました。

CRAZY WEDDINGが実際に手がけた、世界に一つの結婚式の例。コンセプトは”HANDS UP!”(写真提供:CRAZY)

時間をかけて新郎新婦のこれまでの人生などの話をヒアリングし、それを元に結婚式のコンセプトを紡ぎ、世界観を表現する装飾を創り上げていく──。徹底的にオリジナリティを追求するのがクレイジーウェディングです。

コンセプトによって式をあげる会場も異なります。ホテルやレストランはもちろんですが、美術館、学校、キャンプ場、岬、ホール、牧場、馬小屋。業界では考えられなかったような場所が選定されることも珍しくありません。

「お客さまに『おふたりの人生は素晴らしいですか』と聞くと、みな『たいしたことないです』とか『何のドラマもありません』と言うんですが、そんことないんですよ。どんな人生にもドラマがあって、その人らしさがある。私たちは赤の他人だからこそ客観的にとらえることができるし、その人らしさを表現できるんです」

設立当初は山川さんがすべての結婚式に携わっていましたが、2年目からは「素晴らしい事業であるなら世の中にスケール(規模拡大)させていくことが大事」だと判断し、拡大路線に転じました。

この6年で予約を含めクレイジーウェディングで式を挙げたのは約1,000組。クレイジーウェディングのブランド力も格段に上がっています。

しかし山川さんは満足していません。「一つでも多くの意志ある人生を増やす」ためにウェディング事業に集中することを決断。2019年2月にはCRAZYとして初めて、表参道に”祝う”ことを考え尽くした自社会場「IWAI」をオープン予定。1,000組以上のお客様と向き合う中で山川さん自身が、結婚式に本当に必要だと感じた要素を抽出し、建築設計やサービス開発を行っています。視線は次のゾーンへと向かっています。

(つづく)

<プロフィール>
山川咲(やまかわ・さき)
1983年東京生まれ。2006年に神田外語大学卒業後、ベンチャーの人材教育系コンサルティング会社へ入社。がむしゃらに5年間働いた後、退職。オーストラリアを2か月間、一人で旅行し、エアーズロックの頂上で起業を決意する。帰国後、「意志をもって生きる人を増やしたい」という想いを実現するためにユナイテッドスタイル(現CRAZY)を設立。業界で不可能とも非常識ともされていた完全オーダーメイドのウェディングブランド・CRAZY WEDDINGを立ち上げ、1年足らずで人気ブランドへと成長させる。 2016年5月には毎日放送「情熱大陸」に出演。著書に「幸せをつくるシゴト」(講談社)。

●株式会社CRAZY
●CRAZY WEDDING
●IWAI

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/横田達也