山川咲さん(株式会社CRAZY 役員、CRAZY WEDDING 創業者)

丁寧にカップルにヒアリングをし、二人の人生を表現するコンセプトを紡ぎ、どこにもない「完全オーダーメイド」の結婚式を実現してきたクレイジーウェディングの創設者・山川咲さん。走り続けてきた彼女は2年前に大きな壁にぶつかりました。その壁とは何なのか、彼女はそれをどのように乗り越え、いま何を目指しているのでしょうか。パッショネイトな山川さんのお話が続きます。

(前編「一つでも多くの『人生が変わるほどの結婚式』を──株式会社CRAZY 山川咲さん」はこちら)

■もうビジネスの世界に戻ることはないかもしれない

クレイジーウェディングを立ち上げるとき、山川さんには2つの大きな夢がありました。1つは本を出版すること。もう1つは、TBSの人気ドキュメンタリー番組「情熱大陸」に出演することです。

初の著作『幸せをつくるシゴト 完全オーダーメイドのウェディングビジネスを成功させた私の方法』は2014年4月に上梓。好評を得ました。そしてもう1つの夢も2016年5月に実現します。しかし、夢を成就させたその後、山川さんは心身のバランスを崩し、会社に行くことすらできなくなりました。

「創業時からの夢をかなえて『情熱大陸』に取り上げていただいたとき、『次は何を仕掛けるの?』という期待の声もたくさんいただきました。その中で私は次のビジネスにトライしたんですが、結局はうまくいかなかったんですね。世の中で『すごい』と思われている私と、実際に自分が置かれている状況とのバランスがとれなくなって、心身ともに疲弊してしまった。空っぽな気分になり、外にも出られなくなりました」

ビジネスの最前線で活躍している人の記事を読むだけで、嗚咽するほど気分が落ち込む毎日。もうビジネスの世界に戻ることはないかもしれない。そう考えていた山川さんに大きな転機が訪れます。

「赤ちゃんがお腹に来てくれました。その少し前に海外旅行に出かけたら少し元気が出て、いまの状態を乗り越えられるかもしれない、と思っていた矢先の妊娠発覚でした」

■毎日は有限の連続である

がんばらなくては──。常に頭から離れなかったこのプレッシャーから解放され、山川さんは何よりもまず自分の体を最優先しようと心に決めます。出産に至るまでは途中、切迫流産で3週間の入院を余儀なくされた時期もありましたが、2017年7月に山川さんは無事、第一子・英(はな)ちゃんを出産しました。出産、そしてその後に続く育児という体験を通して、山川さんは日々、こう感じているそうです。 

「本当に忙しくなりましたが、子どもがいなかったときと比べて幸福だなと思う毎日が増えました。いままでの私は知ったかぶりをしていたんだと思いますね(笑)。一人ひとりにはドラマがあることを再認識しました。

子どもの成長が早いことにもびっくりです。最初はおっぱいも飲めなかったのに、あるときから急に飲めるようになり、今度はまたおっぱいが飲めない日がやってくる。当たり前のことですが、今日は今日しかない。毎日が有限の連続なんだと思うと、今日という日が違った日に見えてくる。それを忘れてはいけないと思いながら毎日を生きています」

出産から2か月後の2017年9月。山川さんは個展を開催しました。10日間限定のギャラリー「うまれる。」です。

「生きることへのリアリティを取り戻す体験」。そう表現することもできる、山川さんの個展「うまれる。」では、山川さんが娘の英ちゃんと一緒に来場者を迎えた

きっかけは、当時クレイジーウェディングが立ち上げた新規事業ギャラリーウェディングでした。ギャラリーウェディングは、結婚する二人の生い立ちや結婚の背景を丁寧にヒアリングし、ストーリーとコンセプトを作成した上で、カップルの思い出の品や幼い頃の写真、さらに前撮りの写真を展示したギャラリーで少人数に結婚の報告を行う事業。

休業中に山川さんはギャラリーウェディングで開催されている個展に足を運び、クレイジーウェディングのエッセンスがその場所に凝縮されていることに感動を覚えました。 

「個展は、結婚式だけでなく人生を表現する形式として面白いなと実感して、久しぶりに自分の内側から表現したいという感覚が溢れ出ました。出産については、痛いとか怖いという情報が氾濫していますが、こんなに喜びがあるとは私は知らなかった。私の人生で起きた妊娠・出産を追体験することで、来てくれた方に自分の人生やルーツを想像する機会にしてもらいたいというのが個展を開いた理由です。社会との新しいコミュニケーションですね」

■挑戦する限り失うものは何もない

「人生が変わるほどの結婚式」をプロデュースしていきたい。結婚式を機に自分の人生は素晴らしいことに気づき、意志のある人生を増やしていきたい。そんな山川さんの熱い思いを核にスタートしたクレイジーウェディングも創業から6年が経過しました。業績は平均190%増で伸び続け、式をあげたカップルの数も1,000組を超えました。実績も知名度も飛躍的に伸びています。

しかし、現在のような完全オーダーメイドの式を2,000組、3,000組と増やしていくことは容易ではありません。いまのままでは結婚式で世界を変えるには至らない。いったい何から手をつけていけばいいのか。

2018年4月、クレイジーウェディングは新事業の立ち上げを発表しました。1日の結婚式だけではなく、「人生の節目を祝う場所」として2019年春、東京・表参道に開業する新ブランド施設「IWAI」です。

日本における年間の婚姻数は約60万組。その半数は結婚式をあげていません。1つには経済的な理由から、そしてもう1つには、既存の結婚式には興味がないという理由です。新ブランドの「IWAI」は、半数を占める後者の人々に向けて「お祝いに特化した自由な結婚式場」を提案しています。純粋に日本の結婚式に選択肢を増やすことにもつながります。

「1,000組のお客さまと向き合ってきた6年間があったからこそ、いま会場を持つことで、これまでとはまた違った方法で表現ができると確信しました。そして何より創業から変わらず、誰であってもその人生は泣けるほど素晴らしいと私は信じています。いろいろな方に面会して結婚式を作ってきて、その確信は増すばかり。その確信を届けていくのがクレイジーウェディングの使命です」

 

2019年2月2日に最初の結婚式を迎えるIWAI OMOTESANDO

「IWAI」は、結婚をする二人を披露する場ではなく、一緒に祝うゲストを中心に考えた建物であり、サービス。山川さんの創業の意志はしっかりと継承され、クレイジーウェディングは確かな成長を遂げています。

山川さんも歩みを止めません。

「自分の人生における失敗の定義は『挑まないこと』。挑めば『成功』なんです。私はずっと挑戦することを選び続けたいと思って仕事をし、育児をし、人生を戦ってきた。これからもそうです。挑戦する限り失うものは何もないですからね」

そうおおらかに笑う山川さんは次に何に挑むのか。クレイジーウェディングがどんな価値を世界に生み出していくのか。期待は膨らむばかりです。

ライフネット生命保険の社員と記念撮影

(了)

<プロフィール>
山川咲(やまかわ・さき)
1983年東京生まれ。2006年に神田外語大学卒業後、ベンチャーの人材教育系コンサルティング会社へ入社。がむしゃらに5年間働いた後、退職。オーストラリアを2か月間、一人で旅行し、エアーズロックの頂上で起業を決意する。帰国後、「意志をもって生きる人を増やしたい」という想いを実現するためにユナイテッドスタイル(現CRAZY)を設立。業界で不可能とも非常識ともされていた完全オーダーメイドのウェディングブランド・CRAZY WEDDINGを立ち上げ、1年足らずで人気ブランドへと成長させる。 2016年5月には毎日放送「情熱大陸」に出演。著書に『幸せをつくるシゴト』(講談社)。
●株式会社CRAZY
●CRAZY WEDDING
●IWAI

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/横田達也