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インフルエンザ流行期になると、学級閉鎖や警報に関わるニュースが全国に流れます。多くの医療機関でインフルエンザの検査や治療、予防接種などが行われていますが、その価値はいったいどのくらいのものなのでしょうか。

当記事はMEDLEYニュース(2017年2月15日配信)より許可を得て2回にわたり転載しています

■インフルエンザウイルス感染症とは?

巷で「インフルエンザ」と言えばインフルエンザウイルスによる感染症のことを指します。インフルエンザウイルスにはA型とB型とC型があります。また、A型はウイルスが持つ特徴的な物質によってさらに分類されます。分類に用いられる物質は、赤血球凝集素(H)とノイラミニダーゼの血清型(N)になります。例えば、ときに流行を起こす香港型と言われるインフルエンザウイルスはA型(H3N2)です。

C型が流行することはあまりありません。A型とB型のどちらが流行するかは年によって違います。とはいえ、どのタイプが流行したとしても、インフルエンザの予防方法に大きな差はありません。

●インフルエンザになると起こりやすい症状

インフルエンザになると出やすい症状は以下になります。

  • 発熱
  • 鼻水(鼻汁)
  • 喉の痛み
  • くしゃみ
  • 咳(せき)
  • 関節痛
  • 筋肉痛
  • 全身倦怠感(だるい)

これらをみると、一般的な風邪(急性上気道炎)の症状とあまり変わりません。そのため、症状だけでインフルエンザなのか一般的な風邪なのかを見分けることは難しいです。実はこれは当然のことです。風邪症候群というグループにインフルエンザウイルス感染性も入っています。つまり、インフルエンザは風邪の一種です。そもそも見分けられなくて当たり前なのです。

●インフルエンザの潜伏期間は?

インフルエンザに感染してもすぐに症状が出てくるわけではありません。インフルエンザウイルスは主に気道(口や鼻から肺にかけて)から体内に侵入して、しばらく時間が経ってから体内で増殖する段階に入ります。ウイルスが侵入してすぐの期間は症状が出ないため、感染してから症状が出るまでに時間差ができるのです。この時間差のことを潜伏期間と言います。インフルエンザの潜伏期間は1-4日程度で平均3日程度と考えられています。

■インフルエンザが重症になるとどうなる?

風邪の原因の1つであるインフルエンザはときに重症になります。もちろんインフルエンザ以外の風邪でも重症になることはありますが、インフルエンザが重症化する場合の特徴を知っておくことは大切です。

以下の場合はインフルエンザが重症にならないか注意が必要です。

  • 高齢者
  • 免疫力の落ちている人
  • 心臓や肺に病気のある人
  • 子ども

それでは当てはまる人についてもう少し詳しく見てみましょう。

●高齢者

高齢者がインフルエンザになると重症化することがあります。特に肺炎に注意が必要です。インフルエンザウイルスによる肺炎が起こることもあればインフルエンザウイルス感染の後に細菌性肺炎を起こすこともあります。その際は、肺炎球菌・黄色ブドウ球菌・インフルエンザ桿菌(かんきん)などが原因となることが多いことが分かっています。

なお、インフルエンザ桿菌というのはインフルエンザウイルスのことではありません。名前が似ていますがまったく別の病原体です。インフルエンザ桿菌はインフルエンザの原因ではありません。

●免疫力の落ちている人

インフルエンザはウイルスによる感染症です。身体の中にインフルエンザウイルスが侵入してきて増殖することで発病します。インフルエンザウイルスが身体の中に入ってくると、身体はウイルスと戦ってウイルスを排除します。

体が異物を排除する働きを免疫と言います。免疫のしくみは複雑なのですが、インフルエンザウイルスと戦うのは主にリンパ球という細胞です。リンパ球がウイルスと戦うことで簡単にはインフルエンザにかからずに済んでいます。

ところが、リンパ球の数が少なかったり働きが悪かったりする場合はうまくウイルスを排除できずに重症化することがあります。特に細胞性免疫不全と呼ばれる状態では危険性が大きくなります。

細胞性免疫不全は次のような場合に起こります。

  • HIV感染/AIDS
  • 生まれつき免疫力が落ちている病気
  • 長期的にステロイドを飲んでいる
  • 免疫抑制剤を飲んでいる

自分が定期的に飲んでいる薬が細胞性免疫不全を起こす可能性がないか、主治医や薬剤師に聞いてみると良いでしょう。
日常生活の中ではこうした薬ほど免疫が抑えられることはありません。

心臓や肺に病気のある人

高齢者や免疫不全者でなくても、心臓や肺に病気のある人はインフルエンザが重症にならないか注意が必要です。免疫力は正常ですので、インフルエンザが気道(口や鼻から肺にかけて)に入ってくると通常通りリンパ球がウイルスを駆除しようと働きます。しかし、心臓や肺に病気のある人は、元から心肺機能が弱くなっているので、気道感染によってちょっと身体のバランスが崩れただけで重症になってしまいます。

子ども

子どものインフルエンザではインフルエンザ脳症やライ症候群といった重症の合併症に気をつけなければなりません。

インフルエンザ脳症になるとけいれんや意識障害(意識がなくなることや、異常行動なども含む)などが現れます。また、インフルエンザなどのウイルス感染の際にアスピリンなどサリチル酸系の解熱薬を飲むと、インフルエンザ脳症と同じような症状の出るライ症候群になることがあります。また、NSAIDs(エヌセイズ;非ステロイド性消炎鎮痛薬)と呼ばれる種類の解熱薬は、インフルエンザ脳症全体のリスクを増やすことが知られているため、特に小児がインフルエンザにかかった時にはNSAIDsを飲まないようにする必要があります。

NSAIDsは一般的に使われている解熱薬です。病院で処方される薬にも、薬局などで買える市販薬にも、NSAIDsが入っている薬剤はたくさんあります。特に気をつけた方が良い薬剤の例を以下に並べます。

  • アスピリン(商品名:バイアスピリン®、アスピリン®、バファリン配合錠A®、バファリンA®など)
  • サリチルアミド(商品名:PL配合顆粒®、ピーエイ配合錠®など)
  • エテンザミド(商品名:エテンザミド®など)
  • ジクロフェナク(商品名:ボルタレン®、ナボール®など)
  • メフェナム酸(商品名:ポンタール®、ルメンタール®など)

以上に挙げた薬剤は特に注意が必要ですが、日本で頻用されているロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン®など)やイブプロフェン(ブルフェン®など)などのNSAIDsも注意してください。子どもがインフルエンザになったときは、解熱剤の中でもアセトアミノフェンならインフルエンザ脳症やライ症候群を引き起こすリスクが小さいと言われています。

ここで特に注意するべきことは川崎病の子どもです。川崎病になると日常的にアスピリンを飲むことがあります。アスピリンを飲み続けている状態でインフルエンザにかかってしまうと、想定外に脳症やライ症候群になってしまうことがあります。そのため、日常的にアスピリンを飲んでいる子どもの親御さんは、インフルエンザの流行期になったら、子どもが風邪を引いていないか日常から慎重に観察してあげてください。万が一風邪を引いた場合は、アスピリンを一時的に中断するかどうかをかかりつけの小児科医に相談することが望ましいです。

■インフルエンザの検査について

インフルエンザのような症状が出て病院に行ったとき、細い綿棒を鼻に突っ込んでインフルエンザの検査をしたことがある人も多いと思います。あの検査は一体なにをやっているのでしょうか。

(写真はイメージです)

●インフルエンザの検査はなにをしているのか?

現在保険適応でインフルエンザのA型とB型を迅速に検査できるキットがあります。インフルエンザ抗原迅速検査という名前があります。喉の奥の粘膜にある粘液を採取するために細い綿棒を片側の鼻の中に入れます。採取された粘液の中にインフルエンザウイルスが持つ特徴的な物質(抗原)が含まれていれば陽性反応が出ます。

一方で、これ以外にもインフルエンザを診断する方法があり、ウイルス分離法やPolymerase chain reaction (PCR)法を用いて検査をすることも可能です。

しかし、外来や入院中の検査では抗原の検査を行っている場合が圧倒的多数です。その原因は、抗原検査の方が簡単に素早く行うことができるからです。実際に検査は20分程度で判定まで行えることが多く、陽性であればすぐに治療を行うことができます。

ウイルス分離法やPCRは結果が出るまでに少なくとも数日はかかります。もし検査をしても結果が戻ってきた時にはたいていの場合自然に治っています。

●インフルエンザの検査はどのくらいの精度があるのか?

残念ながらインフルエンザ迅速抗原検査は決して精度の高いものではありません。インフルエンザの人に検査を行っても陰性と出ることもあれば、インフルエンザ以外の人に検査を行って陽性と出ることもあります。インフルエンザ迅速抗原検査の精度をまとめた論文にデータが載っています。

  • 実際に感染しているときに検査が陽性を示す割合(感度):62.3%
  • 実際には感染していないときに検査で陰性を示す割合(特異度):98.2%

つまり、このデータに従うと、インフルエンザ迅速抗原検査を行っても、インフルエンザの人の中の4割ほどを見逃してしまうことになります。

また、インフルエンザにかかりたてで検査すると、さらに検査の感度が下がってしまうことが分かっています。そのため、発熱してから12時間以上経ってからインフルエンザ迅速抗原検査を行うことが一つの目安になっています。しかし、これも絶対的な基準というわけではありません。

●インフルエンザの再検査は必要なのか?

インフルエンザを疑って検査をしたけれど陰性であったときに、翌日再検査を指示されたことはありませんか?しんどい身体にムチ打って明日も受診しないといけないのかと思った人はいませんか?長い間待合室で待たされる日本の医療状況で、再検査によほどの意味がなければ本当に酷な話です。はたしてインフルエンザの再検査は必要なのでしょうか。

結論から言うと、インフルエンザにおいて再検査は必要ありません。検査は治療につながらないと意味がありません。後述しますが、そもそもインフルエンザは脳症や肺炎をきたすほどの重症でない限り自分の免疫で勝手に治る感染症ですので、必ずしも治療は必要ありません。しかもその治療は決して劇的に効くものとは言えません。

再検査が必要ない理由を考えてみます。実際にインフルエンザにかかっている場合とかかっていない場合の両側から見ていきましょう。

1回目の検査は陰性だったけれど実はインフルエンザにかかっている場合

再検査を行ったところインフルエンザ陽性という結果が出たら、「あ〜本当に良かった」と思う方も多いでしょう。本当に良かったのでしょうか。次のことが問題として挙がります。

1. 時間が経ちすぎて治療できない場合が多い

実はインフルエンザの治療薬は発症してから48時間経つと有効でなくなります。インフルエンザにかかった人はたいてい鼻水や咳が初発症状となり、その翌日か翌々日あたりに症状が強くなってから受診します。最初の受診は48時間以内だったかもしれませんが、さらに1日経って再受診すると48時間は過ぎている場合が多いでしょう。すると再検査のために受診したのに治療薬を使えないことになってしまいます。

それでも薬を飲んで楽になりたいのが人情かもしれません。症状を和らげる目的なら、カロナール®などの薬が使えます。カロナール®はアセトアミノフェンを有効成分とする解熱剤です。NSAIDsではないので子供に飲ませても脳症の心配はありません。

48時間を過ぎているときに、タミフル®などの抗インフルエンザ薬は決して使ってはいけません。どんな薬にも副作用が存在しますので、効かないと分かっている薬を飲むのは有害です。

2. 治療しても効果は大したことがない

タミフル®やイナビル®などの抗インフルエンザ薬のことを特効薬と思っている方は少なくないと思います。もちろん発症してから48時間以内に飲めば効果はあります。しかし、その効果は解熱するのが16時間ほど早くなる程度です。未来に16時間だけ効果のある解熱薬と考えてもあまり変わらないことなのです。

これを聞いてがっかりする方もいると思いますが、薬の効果を正しく知っておくことは大切です。よほどの重症でない限り、抗インフルエンザ薬を飲まないことも立派な選択肢になります。

3. インフルエンザの治療には休息が重要である

インフルエンザに限らず体調が悪いときは水分をしっかりとって体を休めることが肝要です。体調が悪いのにわざわざ再受診することで、体力は削られています。ゆっくりと自宅で身体を休めることに専念することは決して無駄ではないのです。

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1回目の検査は陰性で、実際にインフルエンザにもかかっていない場合

これは1回目の検査の通りインフルエンザではありませんので、再検査する意味は全くありません。むしろ、しんどい中で翌日にもう一度病院に行かなければならないなんて本当にひどい話です。

インフルエンザの流行期に咳と熱があった場合のインフルエンザである確率(事後確率)は79%というデータがあります。つまり、インフルエンザの流行期にインフルエンザに似たような症状が出たら、検査をするまでもなくインフルエンザである確率が高いのです。検査をしてもあまり医学的な判断は変わりません。

検査の結果いかんにかかわらず、インフルエンザのような症状があれば周囲にうつす可能性が高いことは確かです。しっかりと症状が治るまでは自宅で休養することが大切です。

ここまでインフルエンザの再検査は意味があまりないことを説明してきました。それなのにどうして再検査をしようという話が出てくるのでしょうか。

インフルエンザの再検査を行うと医療機関が儲かるから再検査をするのだと邪推する人もいます。こうした狙いをもって再検査を指示する医療機関もないとは言えませんが、患者さん自身が別の理由を持っている場合もあります。例を挙げて説明します。

●インフルエンザの出席停止判断のために再検査が必要なのか?

再検査を擁護する理由の1つとして、インフルエンザは「発症してから5日以上」かつ「解熱してから2日以上」経っていないと周囲にうつすので検査しておくことで自宅待機できるということを言う人が一部にいます。しかし、残念ながらこれはあまり本質的な議論ではありません。

確かに学校保健安全法では、インフルエンザにかかった場合は「発症してから5日以上」かつ「解熱してから2日以上」経たないと出席できないとしています。しかしこの基準は「このくらい経てば周囲にうつす可能性が低くなるであろう」という予測で決めているだけです。微生物学的な明確な定義ではありません。

そもそもインフルエンザであろうとなかろうと、かぜは人にうつります。インフルエンザであれば周りにうつさないように気をつけるけれどもかぜであれば気にしないという考えは非常におかしな話です。

また、診察に来る時には周囲にウイルスを撒き散らしていることも忘れてはいけません。もちろん意味のある検査に来院することは大切ですが、あまり意味のないことをしにいくために周囲の人を感染の危険にさらすのはなんだか自己中心的にも見えてきます。

学校の内申書で病欠と出席停止の扱いが違うから…というのも、内申書が気になる受験生にとっては大事な問題でしょうが、そのようなルールを決めている学校にも問題があります。インフルエンザだけを特別扱いするルールは合理的とは言えません。

●治癒証明書は何のために存在する?

おそらく再検査をする理由として最も多いものは治癒証明書の存在だと思います。

インフルエンザがもう治って周りにうつさないから出席あるいは出勤できるということを証明する紙が治癒証明書になります。しかし、どんなに優秀な医者でももう周りにうつさないから大丈夫と断言することは難しいです。もちろんマスクをするなど配慮をすることでうつしにくくすることはできるのですが、いつになったらもううつさないという断定は非常に難しいのです。

結局のところ、学校保健安全法に従って機械的に5日以上経ったから治癒証明書を出しましょうとしているのが現状です。これではわざわざ医者が治癒証明書を出している意味がありません。そもそも学校保健安全法は学生やその職員に対する法律ですので、社会人にとってはあまり効力がありません。

治癒証明書をもらうために半日外来で待ったという経験をしたことはありませんか?これは本当に無駄です。上で述べたような形骸化している治癒証明書をもらうために半日を費やすくらいなら、「発症してから5日以上経ちましたし2日以上前に解熱しました」と言って出勤するほうがよっぽど会社のためになります。学生は勉強の遅れを取り戻すためにも、社会人は早く会社に戻るためにも半日を無駄にしてはもったいないです。

<クレジット>
文/園田唯(MEDLEY)