中西健太郎さん(メディアトレーナー/ボーカルディレクター)

限られた時間の中で効果的に話し、表現するには何に注意すれば良いのでしょうか。数多くのスターやアーティストの育成に携わり、キー局のアナウンサー研修も手がけているメディアトレーナー/ボーカルディレクターの中西健太郎さんが語る極意とは……!? いますぐにビジネスの場で応用できる「自信が生まれる話し方」のエッセンスが披露されました。

(前編はこちら)

■声と姿勢が人を動かす

ビジネスの場では短い時間内で自分を表現しなければなりません。与えられた時間を最大限に活かすためには何が必要なのか。中西さんが強調するのは声と姿勢です。

「声は人の無意識に入りこんできます。例えば、同僚が職場にやってきて低い声でボソボソと『おはようございます』といえば『あれ、体調が悪いのかな』と思いますよね。営業でも同じです。声を聞いた瞬間に営業だとわかってしまう声ではダメ。うっとうしいと思われるだけです。声を通して、相手に愛があるかないかも一発でわかる。声には感情が詰まっているからです」

人の無意識に入ってくるのは声ばかりではありません。姿勢にも同じ力があります。姿勢次第で相手の受け取り方はまったく違ってくる。それは、「姿勢」という漢字からも明らかだと中西さんは言います。

「『姿勢』という言葉は、『姿』という字に『勢い』という字がついている。これはあなたの勢いが姿になって見えているという意味です。昔の人が残してくれたわかりやすい言葉なんですよ。どんな勢いを“姿(すがた)している”か、が人を引きつけるポイント。エネルギーが出やすい基本的な姿勢をぜひ知ってください」

■大地を踏み込んで立ってみる

さて、ここからはいよいよ実践編です。相手を引きつけるエネルギーを発するにはどんな点に気をつけて姿勢を整えるべきか。中西さんの指導が始まります。

「まず、足の親指を床につけて立ってください。それから、その場で大きく足踏みをしてからストーンと止まってみましょう」

このとき、足がハの字に開いている人は骨盤が開いているということ。親指が平行になっていることを確認したら、膝を曲げ、下をしっかりと踏み込みます。大地を押す感覚で膝を曲げて、必ず親指はぴたりと床につけておきましょう。

「いったん下を押してあげないと、人間は良い姿勢で立ったり座ったりできません。脊柱起立筋や腸腰筋といった、人間を上から下に引っ張っている筋肉を意識して、地面を踏んで立ちます。ただ、それだけだと頭だけ前に残ってしまうんですね。北京原人は頭が前に出ているでしょう。あれは大地を踏んで立ったのに、頭だけ四足歩行だった時代に戻ってしまっているため。人間は大脳が発達して頭が大きくなっていますから、頭が前に出ていると首がつらくなります。それを防ぐために今度は背伸びをしてみましょう」

頭の上のフックを上からつられているようにイメージすると、すっと身体がまっすぐになる

背伸びをするときのポイントは、頭が上から吊られているという感覚を持ち、遠くを見ること。すると、不思議なことにお腹がきゅっとしまります。

「そう。しまる力が大事なんです。この力が抜けるとたるんだ状態になってしまいます。お腹には骨がないので、筋肉が何層にもなってお腹を守っているんです。お腹がきゅっとなるように背伸びをし、少しキープしてから戻します。そして遠くに視線を持っていくこと。目線を上げて遠くを見たら、戻しましょう」

■天のカーテンを開けると声が出しやすくなる!?

もうひとつ大事なのが、自分の体に正中線を取ること。正中線とは、頭から縦にまっすぐ通る身体の中心線。剣道ではおなじみの姿勢です。

「正中線にはエネルギーラインが走っていると考えられています。そこをバシッと引くと強く見えるんですよ。正中線を取りズドンと身体に芯を通せば、この人は芯がある、向き合ってくれる、誠実だとみなされて、営業であればその人から商品を買いたくなります。逆に、これが通ってないと頼りなく見えて、何かあったら逃げ出しそうに思われるんです」

正中線を通すときには「天のカーテン」を意識することが重要です。天のカーテンとは、頭上にかかっている幕のイメージ。スターがきらきらと輝いて実際以上に大きく見えるのは、「天のカーテン」を開け、そこから入ってくる明るい光を跳ね返して立っているからだと中西さんは言います。

「自分の頭上に『天のカーテン』があると想像しましょう。気持ちいいなぁと思いながら、さーっと両手をいっぱい使って『天のカーテン』を開けるような動作をしてみてください。『上が明るい』『上が高い』と思えば、自然と声が出やすくなります。健康にも良いですよ。呼吸の要素もありますが、声は姿勢によって圧倒的に変わるんです。上が明るいとか抜けていると思わないでいると、声が詰まって出にくくなる。人間は声で人の感情を判断しますから、深い声でしゃべると深い思考をしていると思われ、浅ければ浅い人間だと思われます。声が良い人は人の感情を楽に動かせますよ」

耳に心地良い声であればずっと聞いていたくなります。気持ちの良くなる声で話せば、相手は「ずっとここにいたい」と感じるでしょう。それはビジネスの場に置き換えれば、説得力が増すということ。姿勢と声の重要性がわかります。

■1列後ろに人がいるつもりで話そう

さらに中西さんはこんなアドバイスをくれました。

「声は届けたい相手の1列後ろに届くように出してみてください。1対1で話す場合には、後ろにもう一人いると思って話す。4列まで人がいる場合には5列目まで声が届くように話してみる。そうとすると場が安定します。とにかくエネルギーはギブアンドギブ。体から声から表情からすべてを使って、一方的にエネルギーを相手に与えるんです。それぐらいしないと人の心は動きません。でも声や姿勢からエネルギーを受け取ってもらえれば、人柄が感じられて信頼してもらえるんですよ」

おさらいしましょう。

まず一度足踏みをしたら、地面を踏み込みます。次に、上から吊られていると思って背伸びをし、お腹がきゅっとしまったことを感じたら、目線を遠くにやる。そうしたら、とんと力を抜いて元に戻します。力むときには腕を振ると力みが取れるそうです。

次に体に正中線を取って、天のカーテンを大きく開けてみましょう。上は明るい、抜けているとイメージして胸を開き、「気持ちの良さ」を感じてください。声を出すときには、相手の一列後ろに届くつもりで発声します。

1時間ちょっとのセミナーだけで、モデルの2人の見かけと声が大きく変化! 確かに「アフター」の方がビジネスでも信用されそう(編集部のスマホで撮影)

この一連のプロセスを実践した社員2人は姿勢も声も目に見えて変わりました。

「楽になった気がします」
「体が軽くなりました」

そう話す2人の声は、いつもより遥かに溌剌(はつらつ)かつ伸びやかでした。あなたも中西さんの教えを実践し、姿勢と声に注意をして、相手に良いエネルギーを感じてもらえる話し方を身につけてみませんか。

<プロフィール>
中西健太郎(なかにし・けんたろう)
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業後、ボイストレーナーとしてキャリアをスタート。幾人ものスター育成に関わり、日本武道館のような1万人超が入るライブ会場でも通用する、場の空気を一瞬で買える「声」を伝授。キー局のアナウンサー研修やメディアトレーニングも実施し、その手法は多くのアーティストや芸能事務所、レーベル、テレビ局から「カリスマをつくるカリスマ」と高く評されている。「日本人に決定的に欠けている表現力のスキルを向上させ、日本の未来に貢献する」ため、2014年からはビジネスパーソンを対象としたレッスンやセミナーも開催している。著書に『姿勢も話し方もよくなる声のつくりかた――自然とみんなを惹きつける43のレッスン』(ダイヤモンド社)。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナルオンライン編集部
文/三田村蕗子
撮影/横田達也