写真左:金杉貴仁(ライフネット生命保険、以前の職場では森永さんの元同僚)、森永康平さん(経済アナリスト、ライター、株式会社マネネ代表)

金融教育の義務教育化を目指すマネネ代表の森永康平さん。全国の小学校から高校、そして大学でも開いている「お金の授業」では、子どもたち、そして保護者たちに、お金のことをどのように教えているのでしょうか。金融のプロフェッショナルである森永さん自身が、自分の子どもたちにどのような金融教育を施しているのか、ライフネット生命で開かれた講演会で明かしてくれました。(前編はこちら)

■子どもを振り向かせるためトリビアネタから入る

子ども向けの「お金の授業」で、森永さんはまず、お金のことに興味を持ってもらうためにお金の歴史を振り返ることから始めているそうです。話は物々交換から始まり、市場の誕生、通貨の誕生へとつながっていきます。中でも盛り上がるのは、トリビア的な話なのだとか。

「昔の人たちは魚や肉を物々交換していましたが、それらは保存がきかないので、うまく交換できないと腐らせてしまいます。そこで、保存のきく稲で代替したのですが、稲もいつまでも保存できるわけではありません。そこから布、貝などを使うようになり、その後に通貨が出てくるのです。

通貨のように使われていた稲、布、貝からは、お金と関係のある言葉も生まれています。たとえば稲という字はもともと『イネ』ではなく『ネ』と読んでいて、それが値段の『ネ』に派生したと言われています。

他にも、紙幣の『弊』の字には布の意味がありますし、貝という字は『買』『財』『貴』『貧』『貯』などの字に使われています。小学4年生くらいになると、社会で稲作を、算数で四則演算を習っているので、お金の歴史や仕組みの話を興味深く聞いてくれます」

■信用とは何か──5歳児が図書館で学ぶローンの概念

学校教育の中に金融教育を導入しようにも、現段階では学校の先生にも金融知識や勉強時間がありません。そこで親の出番というわけですが、いったいどのように教えればいいのか悩むところです。森永さん自身は、身近な出来事を「家庭内金融教育」につなげているのだとか。たとえば図書館で……。

「最近は子ども向け金融教育用の本やカードゲームも出ていますが、買っても続かないのがネック。そこで、普段の生活の中でお金のことを教えていくのがいいのではないかと思います。5歳、3歳、1歳の子どもがいる私も、一番上の5歳の子が理解できるように、日常の中で金融の基礎的な概念を学ばせています。

たとえば近所の図書館では、2週間の貸出期間をしっかりと守るように言っています。子どもからは、『2週間で返せないとどうなるの?』と聞かれます。実際どうなるかは別として、私は『次は借りられなくなるよ』と言っています。

また、子ども向け絵本はよく、破れていたり汚れていたりすることもあります。そんな時に私は、『自分が貸した本が破られたり、汚されたりしたらどうする?』と聞きます。子どもは『もう貸さない』と答えます。そこで『じゃあ、きれいに返してくれたら?』と聞くと、子どもは『だったらまた貸してあげるよ』と答えます。

実は、これらの話はクレジット(信用)がある人には貸してくれるという、ローンの概念を知る勉強になっています。この概念を叩き込んでおけば、大人になるタイミングでローンのことを分かってくれるんじゃないかと思っています」

■おもちゃの分散収納はポートフォリオ効果の実践だ!

リスクを抑えて手堅い投資をするためには、一つの商品、銘柄に集中するのではなく、複数の商品、銘柄に分けて投資をする「分散投資」が推奨されています。森永さんは、子どもが日常生活の中でそのことを学ぶシーンがあると言います。

「うちの一番上の子にとって、外で拾ったどんぐりや、幼稚園でつくったメンコは宝物です。ただ僕に似たのか面倒くさがり屋さんで、私の妻が『どんぐりは玄関、メンコは棚にしまってね』と言っても、別々の袋に分けるのを面倒くさがって全部同じ袋に入れていました。でもある日、娘はその袋をなくしてしまった。泣いている子どもに妻が、『分けていたら全部なくさかったんだよ』と言っているのを見て、私は『これってポートフォリオ効果の話だな』と一人で勝手に思ってしまったのです。

ちなみに投資を始める際に知っておくべきことは、将来のことは誰にも分からないということ。『この株は絶対に上がる』ということはありません。もし、そのようなことを言っている人がいたらそれは詐欺師。買う時点で正確に予測できるのは投資にかかるコストだけ。だから、手数料の安い金融商品を軸にして、1個のものをたくさん買うのではなく、いろんなものに分散して長く投資するといい。これは何十年後も変わらない普遍的な考え方です」

■テーマパークで売っているコップはなぜ高いのか

テーマパークで売っている1,500円のコップと似たようなコップが100円ショップで売っている。なぜこれほどの価格差があるのか、疑問に思ったことはありませんか? そのような素朴な疑問からも、「値段はどのようにして決まるのか」という経済学の基礎を学べるといいます。

「大学の経済学部に入ると『値段はどのように決まるのか』ということから勉強しますが、それを日常生活に当てはめると、うちの子どもでも理解しているような簡単な話になります。先日私は子どもと一緒に100円ショップに行き、歯磨き用のコップを買ったのですが、その翌日たまたまテーマパークに行って、そこにも似たようなコップが売っていました。でもそちらは1,500円。あまりに値段が違うので、子どもも『エーッ!?』と驚いた。

2つのコップの明らかな違いは、キャラクターがプリントされているかどうか。そこに1,400円の付加価値が付いています。欲しい人がいれば高くても売れるし、欲しい人がいなければ値下げしないと売れない。2つのコップを見て、うちの子どもは物の値段がどう決まるかということを理解しました。経済学でいえば、需要と供給、付加価値の概念になります」

■5歳の子どもは自分の家が裕福かどうかを分かっている

最近はシングルマザーに取材することも増えているという森永さん。その取材を通して、子どもが家の経済事情にとても敏感であることを思い知らされたようです。

「ある企画でシングルマザーの方を取材することになり、その場にお子さんも同席しました。取材時間は1時間いただきましたが、申し訳ないと思って近くのスーパーに行き、『好きなものを買っていいよ』とその子に言いました。すると、80円くらいのお菓子だけを持ってきた。私が『本当に好きなものを買っていいよ』と言っても、それだけでいいと言う。『なんで?』と聞くと、その子は『うちはあまりお金がない気がするから、高いのを買うとお母さんがかわいそう』と言いました。

私はこの言葉を聞いて、『子どもは自分の家が裕福かどうか、肌感覚で分かっているんだな』と思いました。子どもは学校の友達などと会話をしながら、放っておいてもそういうことを学びます。親が何もしなくても、子どもはお金について学んでいってしまうのであれば、家庭で親が適切な教育を施すことが必要です」

■家では何歳からお金のことを教えるべきか?

少年時代、エコノミストの父親からシンクタンクのレポートの裏紙を落書き用に渡された時に興味を持ち、「教えて」と言ったら分厚い経済学の教科書を2冊渡されたという森永さん。そのため大学入学前に、大学4年間で教わることを学び終えてしまったそうですが、金融や経済のことは、何歳から教えたほうがよいのでしょうか。

「経済学の言葉で、『合成の誤謬(ごびゅう)』というものがあります。一人ひとりが正しいことをしても、全体では間違ったことをしていることがある、というものです。たとえば個々で見れば、貯金はいいことで、浪費はよくないと教えられることが多いでしょう。でも経済全体で見ると、みんなが貯金すると消費が減って、景気が悪くなってしまう。これはまさに合成の誤謬です」

「先日、私の一番上の子どもに、『預金をしたら利子が付くんだよ』と教えたことで、ままごとで同じ現象が起こってしまいました。上の子が、ままごとで使っているおもちゃのお金を『貯金するから使わない』と言い出したんです。お店役の下の子に入るお金が減ってしまった状態で役割を交代したら、下の子もお金を貯めると言い出して、ままごとの世界で流通しているお金の量が減ってままごとが成立しなくなってしまった。

仕方なく中央銀行役の私が、他のところにあったお金を出してあげました。いわゆる金融緩和です(笑)。これで不況が解決された。大学の経済で学ぶようなことを5歳と3歳の子どもでも理解できたので、親が思う『何歳だからこれはまだ早い』という発想はしなくていいかもしれません。親のほうから意図的に仕掛けを作れば、経済や金融のことも早いうちから学べると思います」

■最高の教材は「人生を楽しむ親の姿」

「私は釣りが趣味なのですが、子どもからは釣りをしている私がとても楽しそうに見えるようで、いろいろなことを聞かれます。『なんで釣りの道具を買えるの?』『なんで遠くまで釣りに行けるの?』といったようなことです。私は、『お父さんは小遣いをもらっているわけではなくて、仕事をしてお金を稼いで、必要なものを買った後に残ったお金で、釣りの道具を買って出かけているんだよ。みんなもいっぱい稼げば、いっぱい買えるよ』と答えています。

だからうちの子どもには、お金が汚いもの、稼ぐことがずるいこというイメージはないと思います。むしろ『お金を稼ぐと楽しい事が出来るんだ』といったことを学び始めています。金融の方法論や概念を子どもに分かりやすく説明するのが私の仕事ですが、いちばん大切なのは、自分が生活の中で、普通にお金を使って楽しい姿を子どもに見せることです。最高の教材は『親の楽しむ姿』なのかもしれません」
(了)

<プロフィール>
森永康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO。証券会社や運用会社にてアナリスト、エコノミストとしてリサーチ業務に従事した後、複数金融機関にて外国株式事業やラップ運用事業を立ち上げる。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、各法人のCEOおよび取締役を歴任。現在は法律事務所の顧問や、複数のベンチャー企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。
株式会社マネネ 
●Twitter : @KoheiMorinaga 

<クレジット>
取材・文/香川誠
撮影/横田達也