特に結婚願望がないまま、ふと気がついたら30代に突入していたという相談者さん。大学卒業後に就職した会社にずっと勤務し、仕事には特に不満があるわけでもありません。それなりに楽しい生活を送っていた彼女はある日、友人から気になる言葉をかけられ、それから心が揺れ始めたとか。さて、その言葉とは? 彼女が本当に不安に思っていることとは何なのでしょう?

「人生の悩みはお金の悩み!」とズバッと言い切ってくれるファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんに、モヤモヤや不安、焦燥感、などの人生のお悩みをぶつけてみる連載の第1回をお届けします。愛の太刀であなたもスッキリ♪

【相談】

何か不安があるわけではありません。仕事はそれなりに楽しいし、病気もしたことがなく元気に毎日を送っています。旅行は年に1回するぐらい。結婚願望もないし、このままずっと独身なのかもしれない。そう思っているときに友人から「一人だったら家を買ったら」と言われ、ハッとしました。今後、一人で生きていくとしたらどんな準備をしたらいいのでしょう。家を買った方がいいのでしょうか。(30代 女性)

■本当にほしいのは、家ですか?

独身30代女性の「あるある」なお悩みですね。この手のご相談は非常に多いです! 実は、身体面から見れば、20代後半〜30代前半は女性の人生にさまざまな影響を与える女性ホルモンがたくさん出ていて、いわば女性のカラダの‘黄金期’。本来ならいきいきとしたワークライフバランスの生活が送れる時期ですが、仕事やキャリア、結婚、出産など、さまざまな悩みも多く不安にかられる時期でもあります。

絶対に結婚しないとは言い切れないし、もしかしたら将来子どもを持つかもしれない。仕事もこのままでいくのか、もっとキャリアアップするのかの分かれ目でもある。この先、可能性が広がっているような気がするけれど、逆に自分はダメなんじゃないかという気持ちもないではない。

不安感があって何か確かなものがほしいけれど、結婚も仕事も選択肢が多すぎて選びきれない。でも、家だったら自分が決断さえすれば買えてしまう。相談者さんは、お友だちが口にした「家」という言葉に確かなモノを感じたんじゃないでしょうか。

■おひとりさまの「家」、3つのリスクを考えよう

FP的にいえば、おひとりさまの女性の「家」には、3つのステップで考えるべきリスクがあります。

1ステップ目は、賃貸か持ち家かのリスク。持ち家にすると自由に住まいを変えられない以上に、多額の住宅ローンを抱えることになるので、現役時代は多くの場合、持ち家派に比べて賃貸派の方が住居費などの負担は軽い。逆に70代など住宅ローン完済後になると持ち家派の方が逆転して、キャッシュフローは改善し、長生きリスクにも対応できる。賃貸だと高齢者に貸してくれないという可能性も否めない。一生、賃貸でいくのであれば、老後の住居費の分も踏まえて、預貯金を準備しておく必要があります。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

2ステップ目は、おひとりさまが家を買うリスク。住宅ローンを組むことを前提にしたおひとりさまの場合、一人分の収入で返済をしないといけません。ローンをちゃんと返せるだけの収入がずっと続くのか、そのリスクを考える必要があります。また、そこに住むのも一人なわけですから、病気になったり転勤になったり、住めなくなったときには賃貸に出すか売却しなくてはならないので、そもそも賃貸に出したり売却しやすい家を想定して買う必要があります。

3ステップ目は、女性特有のリスク。一般的に女性は給料も退職金も年金も男性より少ない。それに、結婚するパートナーによってライフスタイルが変わることも多いです。40代、50代で結婚したら、その後、購入した家やローンはどうするのかというリスクも考えないといけない。

さあ、この3段階のリスクをクリアしてでも本当に家がほしいですか?

■家に対する好みが変化していくことを織り込んで考えよう

疲れて帰ってきたときに自分の家があるのはいい、という感覚はわかります。賃貸と分譲の物件を比べると、分譲のほうが内装もいいですからね。ほしくなるのはよくわかる(笑)。でも、先ほどのようなリスクをふまえて、もし買うなら最低でも物件価格の2割の頭金を貯めて定年退職までに完済できるローンにしましょう。

あるいは割安な状態の良い中古マンションをキャッシュで買って、リノベするのもいい。いまは給料が上がらない時代。長期で高額な住宅ローンを抱えることのリスクはシビアに考えた方がいいですよ。

ただ、居心地の良い空間だったら賃貸でも実現できるんです。そして、家や住環境に対する価値観は若い時と同じままとは限りません。住まいの問題は、家に対する好みが変化していくことを織り込み済みで考えましょう。

それに、前述した高齢者は賃貸物件が借りられないリスクについても状況は変わってきています。そもそも、これから先は若い人がどんどん少なくなるので、高齢者に貸さないと賃貸物件市場は回らなくなります。大家さんとしては、高齢者であっても、年金や配当などとにかくキャッシュフローが回っていて、家賃をきちんと払ってさえくれれば、高齢者でも問題ないはずです。高齢者は家を貸してもらえないというのはいつの時代の話だよってことです(笑)。

将来、親の家が自分の家になる可能性もあるし、現役のときには便利な場所に賃貸で住んで、老後はそこそこ都会で、交通の便がよくて田舎の雰囲気が味わえる場所に住むとか、いろいろな選択肢が考えられる。

昨今は空前の地方移住ブームと言われ、シニアだけでなく若い世代でも移住を検討する人々がたくさんいます。移住者に給付金や税制優遇措置を用意している自治体も多く、率直なところ選び放題。地方移住にも、もちろんリスクはともないますが、老後の住居コストを抑える方法はいくらでもあるということです。

■お金を貯めたいなら

日本では、どの世代も不動産は財産になるという不動産神話を固く信じている人が少なくありませんが、不動産は不良債権にもなり得ます。これだけ空き家問題が取り沙汰されているんですから。まずは、自分の家がほしいという気持ちの奥にあるものを突き詰めて考えてみてはどうでしょう。自分が本当にほしいのは家なのか、別の何かなのか。あるいは、ほかに心配なことがあるのか……。まずはそこからかな。

とにかく、不動産の衝動買いだけはやめましょうね。何となくモデルルームの見学会に行き、「消費税率がアップするから」「住宅ローン金利が低いから」「住宅ローン減税が受けられておトクだから」など、セールスマンに言葉巧みに勧められて、ついその気になってしまった、ということにならないように。例えば、用事もないのに毎日惰性でコンビニに寄って、不要な買い物をしてしまうタイプの人は要注意です。

おひとりさまに限らずですが、お金たまらないな~と思っている人は、無意識にお金を使っていることが多いですね。それが本当に必要なものなのか、単に欲しいものなのか、「ニーズ」と「ウォンツ」を常に意識して消費すべきです。

そのためにも、家計簿をつけるなどして、自分が日頃どんなものに、どれだけお金を使っているか「見える化」することをおすすめします。お金の流れが把握できるスタイルであれば、家計簿でも家計アプリでも、どんな方法でもOKですよ!

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)
1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
インタビュー撮影/村上悦子