清水あやこさん(HIKARI Lab代表)

清水あやこさんが立ち上げた心理ケアのスタートアップ、HIKARI Labでは臨床心理士によるオンラインカウンセリングサービス「ココロワークス」を提供しています。オンラインと対面との違いはどこにあるの? 日本にカウンセリングがもっと普及し、誰もが当たり前に心の相談ができるようになるにはいったい何が必要なのでしょうか。心理ケアの新領域を積極果敢に切り開く清水さんにお聞きしました。

■カウンセリングが日常茶飯事のアメリカ

──そもそも、清水さんはなぜ心理ケアに興味を持つようになったのでしょう?

清水:周りの友人が不登校になったり、身近に精神疾患に苦しむ人がいたこともあり、自然に心理ケアに興味を持つようになりました。いずれはその道に進もうとは思っていたのですが、大学院で心理学を学ぶ前に、一度は社会を見ておいた方がいいだろうと考えて、大学卒業後は外資系金融機関に就職したんです。

──就職されたことで何か変化はありましたか?

清水:多様性を重視する会社だったこともあり、視野が広まりました。心理学の分野はすごく閉鎖的で、あまり変化を好まない世界ですが、ずっとアカデミックな世界にいるとそうした現状に疑問を持つこともなかったかもしれません。

──海外に留学された経験もあるとか?

清水:高校と大学でそれぞれ1年間、オーストラリアとアメリカに留学しました。海外経験は大きかったですね。学校にはスクールカウンセラーが常駐していて、何かあるとすぐにカウンセラーに相談に行く学生が多いんです。日本にもスクールカウンセラー制度はありますが、海外ほど積極的に利用されていないのは残念だなと思います。

HIKARI Labが提供するオンラインカウンセリング「ココロワークス」サイト

──アメリカでは学生の頃からカウンセリングを普通に受けているんですか。

清水:そうなんです。カウンセリングは日常茶飯事。エリートは体を鍛えるのと同時に心のケアにも熱心で、お抱えのセラピストがいるのがステイタスというお国柄です。早い段階で悩みを解決した方が仕事にもプライベートにもいいという、合理的発想なんですね。一方、日本のカウンセリングはまだ使いづらかったり敷居が高く、専門家のクオリティもばらばら。それをなんとかしたいと思って立ち上げたのがHIKARI Labです。

■一人で問題を抱え込み、我慢に走る日本人

──オンラインカウンセリング「ココロワークス」を利用されるのはどのような方ですか?

清水:いろいろなカウンセリングを経て来られる方が目立ちます。HIKARI Labでは臨床心理士の資格を持つプロだけを採用しているので、そうした点に信頼性を感じて利用される方が多いようです。それから最近は、男性の利用が増えているのも特徴の一つでしょうか。

──男性が多いんですか。それは意外です。カウンセリングというと女性が多いものだと思っていました。

清水:友人とのおしゃべりでこまめに相談できる女性と違って、男性はあまり相談の場所がないのかもしれませんね。その点、オンラインカウンセリングであれば誰にも知られずに一人で利用できます。会社にもカウンセリングルームがあるところは増えていますが、その部屋のドアをあけるところを見られるのさえ恥ずかしい、という男性は多いんですよ。

──いまだにネガティブなイメージが強いんですね。カウンセリングではどういった悩みが寄せられているのでしょうか?

清水:個別の案件についてはお話できませんが、傾向でいうと男女ともに職場での人間関係に関する相談が圧倒的です。自分が悩みを持っていると自覚したくない人も多いですね。悩みを抱えてしまっていることを認めると、自分が無能で弱いから問題を解決できていないんだと考えてしまうからかもしれません。

──そうした状況を変えていくには何が必要でしょうか?

清水:一人で問題を抱え込み、解決しなければいけないというメンタリティがネックになっていると思います。自分が我慢をしなければという意識が日本人には強い。それがカウンセリング普及の邪魔をしているんですね。でも、我慢をする必要なんてまったくない。「ココロワークス」もその一つですが、サポートを受ける環境はどんどん整っています。発信力を高めて、みなさんが躊躇せずにカウンセリングを受けていただける道筋を作っていきたいと思っています。

■しゃべる家電にも挑戦したい!

──精神障害者の社会保障の現状についてはどう思われますか?

清水:サポート体制にはまだ改善の余地はありますが、それなりに整ってきていていると思います。本当はいろいろな保障があるんですが、あまり知られていないのが現状です。受けられる給付金があるのに情報が伝わっていないというケースが多いです。わかりづらいところに情報があるんですね。

障害者手帳についても誤解が多く、取得したらすぐ周囲に知られてしまうのではないかと勘違いされていたり、社会保障を受けると上司や周囲に知られて評価が下がると恐れている方も珍しくない。正しい知識の啓蒙活動や、受けられる助成金について解説したマンガを出すとか、行政にもぜひがんばってもらいたいです。

──清水さんは今後、どういった活動を計画されていますか?

清水:ゲームも本もツイッターも、心理ケアの正しい知識を得て、早く改善につなげてもらうための手段として取り組んでいますが、今後はもう一段階カジュアルなゲームを手がけてみたいですね。心理ケアの機能がついていることで拒否する方もいますから、楽しいと思ってやってみたら実は心理ケアの効果があるゲームだった、という形が理想です。それから家電にも挑戦したいです。

──家電ですか?

清水:しゃべる家電ってあるでしょう。これからは家電にも心理ケアの機能が入ってくると思うんですよ。AmazonのAlexaにも、ユーザーを励ます言葉がたくさん入っていると聞きますし。空間や環境で居心地を良くするようなプロジェクトにも携わっていきたいですね。

──2019年は新たな展開が期待できそうですね。最後に良好な精神状態を保つ清水さんなりの方法を教えてください。

清水:自分の感情に敏感になるようにしています。今日はあの件でちょっとイライラしているなとか、これはベストパフォーマンスは無理そうだから明日に回そうとか、この件について話をすると感情的になりそうだからといまはやめておこうとか。自分の状況を客観的に把握できればコントロールできますからね。そうはいっても難しいのですが(笑)。

(了)

<プロフィール>
清水あやこ(しみず・あやこ)
上智大学国際教養学部卒業。外資系証券会社勤務を経て東京大学大学院臨床心理学コース修士課程修了。2015年に心理ケアサービスのスタートアップ、HIKARI Labを創業。
2018年4月に著書『ちょこっと、ポジティブ。 一瞬で気持ちがふわっと軽くなる35のコツ』を、7月に『女子の心は、なぜ、しんどい? 』を上梓。多くの女性の共感を呼んでいる。
●HIKARI Lab

<クレジット>
取材・文/三田村蕗子
撮影/横田達也