中学生のお子さんがいる地方在住の相談者さん。いまから大学の心配をしています。東京の大学に通わせたらいったいいくらかかるの? 国公立ならいいけれど、私立だったらどうなるの? 裕福な印象はないのにお子さんを何人も東京の私立の大学に通わせているご近所さんも気になります。どうやってやりくりをすればいいのでしょうか、パートに出るしかないのか……。ふつふつと湧き上がる疑問に黒田さんが鋭く答えます。

【相談】
地方在住の主婦です。子どもはいま中学生。最近、「東京の大学に行きたい」と言い出しました。国公立ならいいのですが、蛙の子は蛙。あまり期待できません。私立の大学に通わせるとなると毎月の生活費がどれぐらいかかるのか心配です。あまり裕福には見えないのに、都内の私大にお子さんを2人、3人と通わせているご家庭が近所に数軒あるのも不思議でなりません。いったいみなさん、どうやってお子さんに仕送りしているのでしょう。私がパートに出るべきでしょうか?(51歳 女性)

■どこの家庭も自転車操業!?

相談者さんにズバリお教えしましょう。

お子さんを都内の私立大学に通わせているというご家庭の家計は、ほぼ自転車操業です。奥さんがパートで働いて得たお金をそのままそっくり仕送りや学費に充当している家庭がほとんど。家計はきゅうきゅう。本当ですよ。

それも無理はありません。子どもを大学に通わせるとなると、多額のお金が必要です。それどころか、地方から受験するだけでも100万円以上はかかります。複数の大学分の受験料、受験のための交通費に宿泊費、入学金。入学前から羽が生えたようにお金が飛んでいきます。

授業料もかかりますよね。大学や学部にもよりますが、年間で100~150万円は覚悟しておいた方がいいでしょう。日本学生支援機構の調べによれば、子どもを大学に通わせて一人暮らしをさせた場合、年間にかかる費用は授業料や居住費等あわせると、私立で239万円。国立でも171万円かかります。

ちなみに、私が進学したのは関西の私立大学。国公立が第一志望で、唯一、受験した私立でしたが、決め手は、父親の母校だったことと授業料が安かったこと。でも、授業料が学年に応じてスライド式に上がっていくタイプで、入学するまで、まったく気づきませんでした(苦笑)。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

最近は、保護者の経済状況を反映してか仕送りは減少傾向にありますが、目安として、毎月の仕送りとして月10万円はみておいた方がいい。こういった費用をトータルで考えると、どこも家計は火の車。お母さんがパートで稼いで子どもをなんとか大学に通わせている、というのが多くの家庭の実態なのです。

■子どもとお金の話をする良い機会に

私の家もそうでした。

私には、5歳年上の兄と3歳年下の妹がいるのですが、私は私立大学。兄と妹は、それぞれ別々の医療系の専門学校に進学。しかも、全員、親元から離れています。さらに、兄と妹は、社会人になってすぐ結婚をしたので、3人分の学費と生活費、2人分の結婚資金がかさみ、おまけに、同時期に実家も改築したりして。FP的視点からいえば、とんでもない家庭です(笑)。その当時、高校教師だった父の給料は住宅ローンなどが天引きされて手元に残るのは数万円程度。退職金を前借りし、足りない分は、会社員だった母の給料でやりくりしていたと、後から母に聞きました。経済的には、本当に大変だったそうです。

子ども心にそうした家計の事情はわかっていたし、大学に進学するとき父から「仕送りを一円たりともムダにするな」と言われたことを今でも覚えています。奨学金も、大学入学後すぐに申請しました。初めてのひとり暮らしでしたが、毎日欠かさず家計簿をつけ、自炊をし、奨学金を投資して収益分をお小遣いにしていましたね。FPのベースができたのはそのときかもしれません(笑)。

でも、経済的に負担をかけさせられているという思いはまったくなかった。親を恨んだこともないです。逆に、早い内から経済的に自立しなくちゃいけない、という意識が芽生えたことに感謝しています。子どもって、自分の家庭の事情にちゃんと思いをめぐらせているんですよ。そこを考えていない子どもはいないんじゃないかな。親はお金の苦労を子どもにさせたくないと考えがちですが、子どもだって、親が大変なら、それを話してほしいと思っているものなんじゃないでしょうか。家族ですからね。

だから相談者さんも、大学進学を機会に家計についてお子さんに話してみてはいかがでしょうか。良い機会だと思いますよ。親がどんな思いで、どれぐらいの収入で子どもに教育を受けさせてきたのかを子どもが知るのはとても大事。ぜひこの機会に包み隠さず伝えましょう。

■教育資金は前もって貯めておく

では、実際にどのように教育資金を捻出していけばいいのか。子どもの進路は親の思う通りにはいかないものです。それでも、お金が必要な時期は決まっています。だったら、まずお子さんに希望の進学コースを確認して、これまでのご自分の準備状況をチェックしましょう。

不足分があるなら、そこで対処方法を考えます。時間に余裕があれば「貯める」「ふやす(増やす・殖やす)」という方法も可能ですが、あまり時間がなければ「借りる」ことも選択肢として考えたい。

例えば奨学金。いまや大学生の2人に1人が奨学金を借りる時代です。政府が実施する返済不要の給付型の奨学金は低所得者世帯向けですが、自治体や大学、任意団体などが行っているものもあります。一方、一般的に借りやすいのが日本学生支援機構や自治体の貸付型の奨学金。

ただし、貸与型の奨学金は子どもの借金になります。私立か国公立か、自宅か下宿かによっても違いますが、毎月1、2万円返済しても40代までかかるというケースは珍しくありません。貸付型の奨学金を借りる場合には、子どもに「これだけ借りるから、返済にはこれだけかかるんだよ」ときちんと確認することが欠かせません。

日本政策金融公庫の「国の教育ローン(教育一般貸付)」や銀行の教育ローンなど、親が教育ローンを利用する場合には、自分の老後資金にどれぐらい影響が出るかを確認しておきましょう。60歳などの定年時までに子どもが大学を卒業してくれたらいいけれど、晩婚・晩産化の影響もあって、定年を過ぎても教育費が重くのしかかる、という家庭は多いのです。

私たちFP仲間で良く話題にのぼるのが、「子どもにかける教育費ほどコストパフォーマンスが悪いものはない」ということ(苦笑)。多くのお客さまから相談を受けていると、お金をかけたからといって必ずしも良い教育につながるとは限らないことを実感しています。

ただ、お金があれば何か違うかといえば、それは選択肢の幅なのです。子どもの可能性を信じて、さまざまな選択肢を用意してやりたければ、早めに積立等をはじめたり、祖父母からの贈与を利用したりして、しっかり教育資金を準備する必要があります。子どもが中学卒業までにもらえる児童手当も、全額貯めれば約200万円になるんです。

それが、家庭の状況で難しいのであれば、親ができるのはここまで、と割り切ることも大切なのではないでしょうか? 厳しいようですが、それぐらい大変な家計が少なくないということなのです。もちろん、一番大切なのは、まず、子どもとよく話し合うことですよ!

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス 

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子