小学3年生のお子さんを持つ40代の相談者さん。現在は会社員として働いていますが、副業でWebデザイナーの仕事も請負っています。だんだん副業の収入が増えてきたので、いずれは会社を辞め、Webデザイナーとして独り立ちしたいとか。でも、安定的な収入が得られるのか不安でもあります。フリーとして独立した場合、どんな点に注意すればいいのでしょう。フリーランスの大先輩、黒田さんが自らの経験を生かして鋭くお答えします。

【相談】
40代の主婦兼会社員です。子どもは現在小学校3年生。世帯収入を増やしたいと思い、数年前から副業でWebデザイナーの仕事もしています。ありがたいことに年々、仕事も増えて、収入もあがってきました。ゆくゆくはフリーのWebデザイナーとして独立することも考えていますが、子どももいるので会社員の安定的な収入を手放すのはちょっと怖い。フリーになる上ではどんな点に気をつければいいでしょうか。アドバイスをお願いします。(40代、女性)

■仕事の安請け合いは厳禁

ずばり、フリーとして働く場合のポイントは3つ。「収入」「時間」「健康」です。順を追って説明しましょう。

収入については、働けば働いた分の収入が増える点がメリットですが、逆に、働かなければ収入はゼロです。会社員は社会保障や福利厚生が充実していますし、ボーナスも出る。フリーになるとそれが一切なくなりますから、それを前提に「月々これだけはほしい」という金額をまずは明確にしましょう。経費を払って、プラスαが残る程度の収入はほしいですし、夫の扶養に入らなければ、国民健康保険や国民年金の社会保険料も負担しなければいけません。ちなみに、扶養に入れる目安は、年収130万円未満。経費を含めるかどうかは、保険者(健康保険の運営主体)によって異なりますので、確認しておきましょう。とにかく、フリーランスにとって、最初の課題は、たくさん稼ぐことよりも、毎月安定した収入が得られること。それが長続きさせるコツでもあります。

毎月これだけ必要だという金額は、個々人によって異なると思いますが、私の場合、先輩FPにアドバイスされて、月30万円の収入を目標にしました。その当時、20代の独身女子で、1DKの賃貸マンション住まいの私にとっては、現実的な数字です。

いざフリーになったら、自分の価値に値段をつける報酬金額の設定には要注意です。つまり、「いくらで仕事をするか?」ですね。最初のうちは仕事がほしいですし、「自分はまだまだ駆出しだから」と遠慮して、安い金額で仕事を受けがちですが、これは厳禁。いったん安い金額で仕事を受けてしまうと、クライアントはそれなりの目でしか見てくれなくなるんですよ。「安く頼める人」という印象は百害あって一利なし。それに、仕事のスキルがアップしてから値上げしようと思っている人が多いのですが、どんな仕事も一生勉強、努力が続きます。そうなると、仕事のギャラを上げるタイミングというのはかなり難しいです。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

安い仕事ばかりしていると、ただ忙しいだけで収入は増えません。ストレスはたまるし、モチベーションや仕事のクオリティも下がります。安い仕事をたくさん受けるのではなく、プロとして、この金額に見合う仕事をちゃんとしていくんだ、という発想に切り替えましょう。差別化できるスキルや得意分野を磨き、自分をブランディングし、市場価値を見極めた上で適正な金額を見積もることです。

もし、「今回はこの金額しか出せない」と安い金額を提示されたけれど、その仕事はぜひともやってみたいと思う場合には、「今回だけ」と念押しします。実力を示して、次回にギャラを上げてもらうチャンスとしてください。次にも上げてくれなかったら? それはもう受ける必要はないです(笑)。自分の価値に見合う仕事を選びましょう。

■意識的にインプットの時間を作ろう

「時間」については、どんな仕事をするか次第ですが、フリーになるとプライベートと仕事との境界がなくなる可能性は高いでしょう。休日がなくなることも少なくないですし、まず曜日の感覚がなくなります。もちろん、きっぱりとオンとオフを分けているフリーランスもいますが、周囲をみると少数派でしょう。

でも大丈夫。いつも、仕事や家事や育児に追われる女性はマルチタスクをこなすのが得意ですからね。私も、家事をしながら原稿の構成を考えたり、明日のスケジュールを確認したりと、頭の中ではいつも仕事の段取りをしています。

お子さんがいらっしゃるならなおさら、こうした段取りが不可欠。子どもは待ったなしですからね。限られた時間を有効活用していく以外ありません。ぜひマルチタスクの達人を目指してください。

それから、フリーになりたてのときは仕事でスケジュールを埋めがちですが、これも注意が必要です。仕事にはアウトプットだけでなくインプットも必要だからです。私は現在、月10本以上の連載を抱えていて、始終締め切りに追われています(苦笑)。夜中や明け方など、家族が寝静まった後で、必死に原稿を書いているとよく「鶴の恩返し」の昔話を思い出します。原稿を書くことは、まるで自分の身を削るような気持ちがしますから。自分の羽毛を抜いて機織りを続けていくと、羽毛はそのうち尽きてしまいます。自らの意思で羽を植えていかなければ、機織りは続けられません。フリーとして長くやっていくには、羽毛のインプット、つまりスキルや知識を新たに身に着け、ブラッシュアップを重ねる時間が大切なんです。

仕事でスケジュールを埋め尽くすのではなく、ぜひインプットの時間を意識的に作り、必要であれば投資も惜しまず、自分の価値を上げていきましょう。

さらに、種まきも重要です。つまり、自分から仕事を産みだす能動的なスタンスが必要なのです。逆に言えば、今ある仕事は、以前の種まきをした分の刈り入れ作業に過ぎません。今の仕事に手いっぱいになって、種まきを怠っていると、気づけば刈り入れできる分がなくなっている可能性もあります。そんな事態を防ぐために、刈り入れと同時並行で常に種まきもしておくこと。さまざまな分野に興味を持ち、5年先、10年先を見据えて勉強したり仕事として携わっておくと、後々いきてきますよ。私の場合、全部は芽が出ないだろうと種をまきすぎちゃって、一斉に収穫する時期が来て大慌てすることも多いんですけどね(笑)。

■自らのカラダの声を聞こう

最後の「健康」が、実はフリーランスにとっては一番大事なポイントです。フリーランスにとってのメリットは、定年がないこと。でも、健康でなければ仕事はできません。カラダが資本とよく言いますが、心身面での健康はフリーランスの財産です。

会社員と違って、フリーには誰も健康診断をセットしてくれません。自分の健康は自分で管理するしかない。40歳から受けられる特定健診は必ず受けましょう。

国民健康保険の加入者に対して、人間ドックの費用を助成している自治体もあることをご存じですか。助成額は数千円から2万円くらいと自治体によって違いますが、相談者さんがお住まいの自治体にそうした制度があるかどうか、確認しておくのもいいですね。

ワーカホリック気味に仕事をこなすことは不可能ではありません。人間、多少の無理はきく。ただ、それがずっと続くかというと疑問です。それに、自分のカラダのことは、気づかないうちに肌で感じているものです。それを仕事や家事が忙しいことを言い訳にして向き合っていないだけです。大事なのは、自らのカラダの声を聞くこと。つらいなあ、具合が悪いなあと思ったらちゃんと休みましょう。それが難しいなら、夫やお子さんに聞いてみるのもいいですね。普段の相談者さんをよく知っている人なら「これはまずい」とか「大丈夫」とか、客観的に判断してくれるでしょう。

私自身も40歳のときに乳がんになって、自分がどれだけムリを重ねてきたのか思い知らされました。キャンサーギフト(がんがくれた贈り物)という言葉は、実はあまり好きではないのです。だって、病気になってうれしい人などいないでしょう? でも、唯一、がんという重篤な病気にかかってみて、これまでの人生を振り返り、そしてこれからの人生を見つめ直す機会を神さまが与えてくれたことには感謝しています。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子