今回の相談者さんは社会人1年目のお子さんをお持ちの49歳の主婦。お子さんは実家暮らしを続け、家を出ていく予定はないそうです。一緒に暮らせてよかったと思いながらも、相談者さんが気になるのが生活費。子どもに生活費を入れてもらってはいませんが、「我が家ではもらっている」というママ友の話を聞くとつい考えてしまいます。働き始めたとはいってもまだ手取りは少ないはず。とはいえ、社会人なのだからちゃんと生活費を入れてもらうべき? 相談者さんの心は揺れ動きます。さて、黒田先生の判断やいかに。

【相談】
社会人として働き始めたばかりの子どもを持つ49歳の主婦です。いまは一緒に暮らしていて、子どもが出ていく気配はまったくありません。正直、出ていってほしくないのでほっとしていますが、生活費について悩んでいます。我が家では子どもから生活費を取っていません。仕事に慣れてくる3年目ぐらいから入れてもらえばいい。そう思っていましたが、ママ友の中にはきっちりいれてもらっている人も。社会人といってもまだ手取りは少ないだろうし、そこまで家計に負担がかかっているわけではないので、生活費を入れてもらうのは可哀想な気もしますが、もしかしたら入れてもらった方がいい? 黒田先生ならどうされますか?(49歳・女性)

■子どもと親の金銭事情から考える

実家に暮らしながら社会人として働き始めたら、子どもは家に生活費を入れるべきか否か。この問題は子どもの事情と親の事情の両方から考えましょう。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

お給料をもらえる立場になったからといっても、手取り収入が多いとは限りません。大学卒の初任給は平均で20万円くらいですが、業種や職種、企業規模などによって違います。また、4月分は社会保険料の一部や住民税が差し引かれていないため、ちょっと多いと感じるかもしれませんが、5月分から健康保険と厚生年金保険の保険料、社会人2年目の6月分から住民税がかかってきて、手取り額は減ります。手元に残る金額が少ないのに生活費を入れてしまうと生活に余裕がなくなってしまいます。

親も同じです。収入が少ないとか病気がち、あるいはすでに引退していて年金暮らしという場合には、多少でも家計に入るお金が増えた方がありがたいはず。この場合には、お子さんに少しでも負担をしてもらうことを考えた方がいいでしょう。

このように、生活費については子どもと親の両者の金銭事情に合わせて考えるのが一番です。その上で入れるのか入れないのかを決め、入れてもらうのであればそこで具体的な金額を決めましょう。両者の金銭事情が変わったら? そのときにまた検討すればいいのです。

一般的なお話をすると、6割から7割の家庭では子どもに月平均で3万円ほどの金額を家に入れてもらっています。 一つの目安として参考にしてくださいね。もちろん、もっと少ない金額でも構わないし、がっつりと入れてもらっても構わない。ケースバイケースです。

■生活費を入れるメリット

生活費を入れるか入れないか、金額をどれぐらいにするかは各家庭の判断ですが、子どもが生活費の一部を負担することには意外なメリットがあることをぜひ知っておいてください。

生活費を入れてもらうと、子どもがお金の管理についてちゃんと考えるようになるんですよ。お給料の中から生活費を入れて、残りは趣味に使おうか、貯金しようか。そういったことを考えざるを得なくなります。

実家暮らしでは、自分の収入で生活を賄うという感覚がなかなかつかめません。でも、生活費を一部でも負担すれば、生活していく一定のコスト(固定費)がかかることを多少なりとも実感できるわけです。

これは子どもにとってプラスになると思いますよ。今後、家を出て一人暮らしをするときにも役立ちます。

もちろん、親としては定期的にお金を入れてもらうと家計が助かる(笑)。子どもに入れてもらったお金は、今の家計にとって特に必要ないとしても、将来訪れるかもしれないライフイベント(子どもの結婚式やマイホーム購入など)の支出に備えて貯金しておき、必要になった時点で子どもに渡すことも可能です。

もし生活費はもらわないと決めたとしても、お子さんにはぜひ「貯蓄習慣を身につけておくこと」とアドバイスしてください。家に生活費を入れてもらわなくてもいいけれど、将来、留学をする、一人暮らしをする、車を買うなど、そういったライフイベントにはお金がかかります。その費用は自分でまかなえるよう、マネープランを立て、きちんと積立して備えておくべきです。

実家暮らしで貯金をすると、それはもうたくさん貯まります。貯まるはずです(笑)。自分でしっかり貯めてもらって、それから自立してもらうのもいいですね。

■家計管理のクセをつけてもらう機会に

個人的に、経済的自立と精神的自立はワンセットだと思っています。ご両親から経済的な援助をしてもらっているくせに、親だから当たり前と言わんばかりの偉そうな言動のお子さんを見ると、「それはちょっと違うんじゃないか」と感じます。私自身は、大学進学を機に一人暮らしを始めましたが、社会人になって自分のお給料で生活するようになったときに、これでようやく本当の社会人になれると思ってうれしかったですね。

一人で暮らしながら貯金もしていました。一人暮らしをすると、親のありがたみもよくわかります。

でも、最近は奨学金を借りている学生さんが少なくありません。あるアンケート調査によると、30代前半の2人に1人は、奨学金利用者です。借入総額の平均が約313万円。月々の返還額が平均1.7万円、返還期間が平均約14年ですから、23歳で大学卒業したとすると、年間20万円以上の返済が37歳まで続くことになります。とくに首都圏などで生活する非正規雇用者は大変。年収が少ない場合には実家暮らしの方が楽なのは確かでしょう。

ここ10年、会社員の給与はほとんど増えておらず、親世代である相談者のような40代、50代の家計も余裕があるわけではありません。それぞれに収入があるのであれば、親と子どもは一緒に暮らした方がコスト的には安く済むんですね。子どもが結婚しても同居を継続するなら、家のリフォーム費用や建て替え費用を子どもと一緒に負担する方法も選択できる(笑)。

いずれにしても、これを機会にお子さんにはぜひ、家計管理のクセをつけてもらいましょう。生活費を入れるか入れないかよりも、給料をもらったら自分で管理して自立して生活できるようになることが大事。お金について話し合う良い機会にしてくださいね。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)
1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子