今年10月、消費増税が予定されています。8%から10%へ。2%の違いが生活にどう影響するのか、今回の相談者さんは心配で仕方がありません。はたして消費税が上がる前に家を買った方がいいのか、金額の大きなクルマや家電など、ほかにも先に買っておくべき商品があるのか。あるいは待った方が得策なのか。もやもやとした相談者さんの悩みを黒田先生がスッキリ解消します。

【相談】
パートで働く40代の主婦です。小学生の子どもが一人。賃貸の家も手狭になってきたので、前から家を買うことを考えていましたが、気がつくと消費増税まで残された時間はあと少し。金額が大きいのでやはり増税前に駆け込みで買った方がいいでしょうか? 車についても購入を検討していますが、焦りは禁物でしょうか? ほかにも、増税前に購入しておいた方がいいものがあればぜひ教えてください! 黒田先生。(40代・女性)

■可処分所得を正しく把握しよう

消費者として、消費税が10%に上がるのは残念ですが税金分は計算しやすくなりますよね(苦笑)。5,000万円の家だったら税金は500万、4,000万円の家なら400万円。焦る気持ちはわかりますが、まずは落ち着きましょう。

相談者さんも含めて、みなさん騒ぎすぎ(笑)。自分の家計にどういう影響があるのか、冷静に判断するのが一番です。消費税うんぬんの前にご自分の世帯における可処分所得を正しく把握していますか? 

意外にわかってない方が多いようなので、ちょっとおさらいしましょう。

可処分所得とは、給料やボーナスといった収入から税金(所得税と住民税)と社会保険料(健康保険料と厚生年金保険など)を引いた金額をいいます。

40歳以上であれば、介護保険料も支払わなければなりません。会社によっても多少違いますが、可処分所得はだいたい額面の金額の7.5掛けから8掛け程度の数字だと考えるといいでしょう。たとえば額面が40万円だったら、約30万円〜32万円が可処分所得というわけです。可処分所得がこの目安よりも多かったら、会社の福利厚生が充実している証拠です。

要するに、可処分所得とは「手取り収入」のこと。そう言えばわかりやすいかもしれませんね。ただ、生活をするときにはこの範囲内で考える必要があります。ごく当たり前のことではありますが、家を購入するときもその考えで臨んでいますか?

住宅ローンは、税込みの年収をもとにした「信用」で組むことになります。お給料が毎月40万円でボーナスが120万円出るとしたら、税込みの年収は600万円。この600万円という金額を主な判断材料にして、金融機関は融資金額を決めていきます。

でも、ローンを返済するのは税込みの収入からではありませんよね。手元に残っている可処分所得の中から返していかなければなりません。

だから、「これだけ借りられたから大丈夫」とは思ってはダメ。可処分所得をベースに、いくらだったら無理なく返済できるかを考えて、ローンを組み立てていくことが大切です。

■消費増税のテコ入れ策を知ろう

さて、可処分所得についてしっかりと把握できたら、消費増税分をどこで吸収するかを考えていきましょう。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

もちろん、お給料がその分増えれば一番いいのですが、そう簡単には望めません。ただし、消費増税のテコ入れ策がいくつか実施されることになっています。

その一つが2019年10月からの開始が決定した幼児教育・保育無償化です。幼稚園や保育所、認定こども園などを利用する3~5歳のすべての子どもたちと、住民税が非課税となる低所得世帯の0~2歳児の子どもを対象に、対象の施設の利用料は全額無料になります。

一部の私立幼稚園や認可外の保育施設にも補助が出ますよ。前者については、月額2万7500円。後者については、3~5歳の場合、全国平均月額3万7000円、0~2歳児であれば住民税非課税世帯のみ月額4万2000円を上限に利用料が補助されます。(※規定あり)

クレジットカードなどを使ってキャッシュレスで買い物をすると、最大5%が還元されるポイント還元制度もテコ入れ策の一つ。中小小売店なら5%、大手企業のFC(フランチャイズ)店なら2%。還元されたポイントはその場で値引きに使ってもいいし、次の買い物の割引として使うこともできます。

大手のFC店にはコンビニや飲食店も該当します。ただし、スーパーマーケットは対象外なので注意しましょう。

■住宅は消費税10%が早く適用される!?

さて、相談者さんは住宅の購入を考えているんですよね。

住宅購入支援策に関しては、すまい給付金の拡充と新たなポイントである次世代住宅ポイント制度が導入されます。すまい給付金は、給付額が最大30万円から50万円にアップされ、対象者の年収の目安も510万円以下から775万円以下まで引き上げられます。所得によって給付金は異なりますが、450万円以下の所得であれば給付金は50万円。675万円超~775万円以下なら10万円。もともと、すまい給付金は低所得者向けの給付型助成制度ですが、これまで年収要件で対象にならなかった510万円超~775万円以下の方も受けられるようになっています。

次世代住宅ポイント制度というのは、一定の性能を備えた住宅の新築やリフォームを行うと、いろいろな商品と購入できるポイントが発行される制度。以前にあった住宅エコポイント制度と内容はほぼ同じだと考えてください。

マイホームの購入時期は、消費増税というマイナス要因と、すまい給付金・次世代住宅ポイント制度などの住宅支援策というプラス要因、加えて、住宅市場の価格動向を総合的に検討すること。そして一番重要なのは、ご自身のマイホーム購入計画がどうかで決まるのです。

さらに、その前に、住宅については消費税10%が適用される期限が他の商品よりも早いことを知っておきましょう。2019年9月末までに引き渡しが済めば、税率は8%のままですが、2019年10月以降の引き渡しになってしまうと税率が10%に跳ね上がるのです。ただし経過措置も設けられていて、2019年3月末までの請負契約については、引き渡し日に関係なく税率は8%です。

もう一つ、知っておきたいのが、マイホーム購入で消費税の対象となるのは「建物部分」と「仲介手数料などの手数料」に対する部分であること。これは、一戸建てでもマンションでも同じ。「土地部分」の消費税は非課税です。

中古物件は、消費税がかかるのは仲介手数料分だけ。ただし、個人など売り主が消費税課税業者でない場合の契約であれば消費税はそもそもかからないので、そういう物件を探すのもいいですね。

以上のことから、消費税が大きく影響するのは新築の住宅といっていいでしょう。といっても、注文住宅は3月までの契約でなければ消費税率8%は適用にならないので、今の時点では、新築を買うなら建売しか選択肢がありません。

■増税の後でも価値が変わらないものは買った方がいい

さあ、以上の情報をもとに相談者さんはどう考えて、どのように行動しますか?

ここで重要なのは、自分たちの家計のどこに影響があるかがわかった上で行動すること。そうでなければ、意味がない買い物をしてしまう可能性があります。

モノの価格は需要と供給で決まります。皆で増税前に買おうとすると値段は上がるし逆に買い控えすれば下がる。2%よりも下がる可能性が高ければ待った方がいい。家はロットが大きいので、良い物件があれば買っておくぐらいのスタンスがベターです。

税制が大きく変わる車については、環境に優しいエコカー以外を買うのなら、消費税が上がる前に買うことをおすすめします。自動車取得税が廃止になって、燃費課税(環境性能割)が導入されるからです。中古車は早めに買った方がいいでしょう。

エコカーの減税制度はいつ買っても変わりません。下げ幅が大きければ、増税後でもいいですね。

このほか、私がいま買っておくことをおすすめするのは、増税の後でも価値が変わらないものです。例えば、ディズニーランドのチケット。あれは値下がりすることはありません。回数券とか定期券、航空券、映画のチケット、高級ホテルの宿泊料やパッケージ旅行代金などもそうですね。美術品や好きなアーティストの作品など、税率がアップしても簡単に割引しないもの、自分にとって価値が不変なものは増税前に買っておきましょう。

逆に意味がないのは、日用品の買いだめです。過去を振り返ってみてください。必ず消費税還元セールが実施されていました。だから、日用品は焦って買う必要はありません。前のときはどうだったかを思い出して行動しましょう。

大切なのは過去に学び、自分の世帯の可処分所得を把握して、さまざまなテコ入れ策を考慮すること。その上で買うべきか、買わざるべきかを判断してくださいね。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子