社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ第3弾。
今回は、知りたいけど何となく会社の人には聞きづらい退職後の雇用保険についてです。退職後の雇用保険、そして、ハローワークの上手な活用方法について、薫先生に教えてもらいましょう!

【今回のポイント】
・失業手当ってどのくらいもらえるの?
・再就職までの間に勉強したらお金がもらえるってホント?

「会社を退職すると失業手当がもらえるらしい」と漠然と聞いたことがあるかもしれません。これは給与から引かれていた雇用保険の保険料が役に立つということです。
一般的には退職前2年間に12か月以上雇用保険に入っていれば、何らかの給付を受けられると思っておけばよいでしょう。ただ制度は時々変わりますから、ここで基本をチェックしておき、必要なときに調べることもお忘れなく!

■失業手当ってどのくらいもらえるの?

まず「どの」くらいといっても、人により想定しているものが違いますので、何がどのくらいか整理しておきましょう。今回は以下の3点について紹介します。

(1) 日数はどのくらい?
(2) 金額はどのくらい?
(3) 有効期間はどのくらい?

(1) 日数はどのくらい?

退職した理由によって、自己都合退職と会社都合退職で日数が違います。自己都合のときは自分であらかじめ退職後の生活費などをシミュレーションし、準備して退職するはずですから、失業手当は短めです。逆に、会社都合の場合は自己都合より長期の給付となります【表1参照】。

そういえば! 実は「失業手当」の正式名称は「基本手当」といいます。以下「基本手当」と書きますからそのつもりで読んでください。ネットで情報を検索するときも、正式名称で調べたほうが正しい知識にアクセスしやすいので覚えておくと安心ですよ。

(2) 金額はどのくらい?
生活ができなくては困りますが、緊急時の応急サポートという位置づけですから、雇用保険だけで余裕のある生活ができるというのも本来の目的と違いますよね。ということで、給付金額は退職前6か月の給料をもとに、その50%~80%の範囲で、各自のお給料額に応じて決まります。

もとの給料が少ない人のほうが高い割合で給付されますから、給与と基本手当の収入ギャップは少ないでしょう。一方、もとの給料が多い人は、その50%しか給付されないわけですからギャップは大きくなります。貯蓄や生活の見直しなども視野に入れた求職ライフを想定した事前準備が大切です。

(3) 有効期間はどのくらい?
有効期間は基本的に1年です。これはとても大切な期限です。
例えば30歳で5年働いた会社を自己都合退職した場合、基本手当を受け取ることができるのは90日分ありますが、たいていは「3か月」の「給付制限」が付きます。

退職から1年あると思って10か月後にハローワークへ行ったとしても、残り2か月は給付制限期間だけで過ぎてしまいますから、結局、“基本手当を受給できたのは0日だった”という悲しいケースも想定されます。

有効期間1年の間に、待機期間(7日)、給付制限期間、受給日数のすべてが収まるように、早めに手続きする必要がありますよ。

■再就職までの間に勉強したらお金がもらえるってホント?

再就職目指して活動中にスキルアップを図るのはとても良いことです。それをお金の面で後押しする制度が以下の2つです。

(1) 教育訓練給付
(2) 職業訓練

(1) 教育訓練給付
ファイナンシャル・プランナーや税理士、ソムリエなどなど、様々な資格に関する専門学校の講座を受けたときに、その受講料の20%(上限10万円)が戻ってくる「一般教育訓練給付金」という制度があります。

また、介護福祉士や航空運航整備士、ペット関係など、数年かけて勉強するようなキャリアチェンジを応援する「専門実践教育訓練給付金」もあります。
こちらは受講料の50%(年間上限40万円)、所定の資格を取得し1年以内に再就職できるとさらに20%という手厚い給付があるので、興味がある場合は早めにハローワークで相談しましょう。必要な手続きを抜かすと受給できず、全額自腹というハードな状況になってしまうかもしれません。

要件は、退職日の翌日から1年以内に開講する講座&過去にこの制度を使ったことがなければ退職前の雇用保険加入期間が1年(専門実践は2年)以上あればOKです(過去に使ったことがある場合は3年以上必要)。

通信講座や通学講座があり、ハローワークのサイトで検索できます。対象資格がかなり幅広いので一度見てみると良いでしょう。ちなみにこれは退職者だけでなく、在職中も利用できます。


(2) 職業訓練
まず、ハローワークでは気軽に悩みを相談して良いということを知っておいてほしいのですが、相談の中で「職業訓練を受けてみたら?」と言われた場合など、ハローワークの指示で受講する場合、以下のメリットがあります。

(1) 受講料無料
(2) 受講手当や通所手当がある
(3) 基本手当が延長される場合がある

(1) 受講料無料
公共職業訓練は要件が厳しいですが、教科書代などの実費を除き、受講料無料で技能が身につくのが利点です。パソコンや介護関係など、こちらも幅広いメニューがあり、厚労省のサイトから検索できます。

(2) 受講手当や通所手当がある
交通費に加え、あまり多いとは言えませんが、お弁当代程度の手当も付きます。説明が非常にシンプルですね(^_^;) でも、期待するほどではないので、大きなアピールポイントとしては書けないのが本音です。

(3) 基本手当が延長される場合がある
これはありがたい制度だと思います。
もし職業訓練を受講してから終了までの間に90日の基本手当の日数が終わってしまったら困りますよね。ですので、本来の基本手当受給時期と講座の時期がずれてしまったときは、そのずれた日について基本手当を特別につけてもらえます。つまり90日の持ち日数以上の給付を受けられるということです。

ただ、そのため、基本手当の日数にある程度残りがある人が職業訓練の対象となっています。ギリギリまでのんびりしていて、延長してもらえるからと職業訓練を狙うようなのはアウトということですね。ご注意を。

では今回はこのへんで。
次回はハローワークの上手な活用法を引き続きお伝えします。

※雇用保険加入期間や自己都合、会社都合などの要件については勤務状況などにより異なるため、概要にとどめています。自分のケースは?と気になるときはハローワークへ確認しましょう。

次回予告!

  • 基本手当(失業手当)があるなら、早めに就職したら損でしょ?
  • 病気やケガ、妊娠などで働きたくてもしばらく難しいときも大丈夫!
  • 会社は自己都合っていうけど、自分は会社都合だと思う!そんなときは……

<クレジット>
文/中村薫

<プロフィール>
(なかむら・かおる)1990年より都内の信用金庫に勤務。退職後数ヶ月間米国に留学し、航空機操縦士(パイロット)ライセンスを取得。訓練中に腰を痛め米国で病院へ行き、帰国後日本の保険会社から保険金を受け取る。この経験から保険の有用性を感じ1993年に大手生命保険会社の営業職員となり、1995年より損害保険の代理店業務を開始。1996年にAFP、翌年にCFP®を取得し、1997年にFPとして独立開業。2015年に社会保険労務士業務開始。キャリア・コンサルタント、終活カウンセラー、宅地建物取引士の有資格者でもある。
●なごみFP・社労士事務所