慢性膵炎という病気を知っていますか?

この病気の原因の約半分は「飲酒」といわれ、筆者が医師として出会う慢性膵炎の患者さんの多くはお酒好きであると実感しています。また、飲酒同様に喫煙も慢性膵炎に悪影響を与えることがわかっています。

このコラムを通じて飲酒や喫煙のリスクについて知りつつ、バランスの取れたライフスタイルを過ごして欲しいと願っています。

当記事はMEDLEYニュース(2019年3月7日配信)より許可を得て転載しています

■1.膵臓(すいぞう)とはどのような臓器か?

膵臓についてよく知らない人も多いと思うので、最初に簡単に説明をします。膵臓は横長の臓器で、胃(みぞおちのあたり)の後ろ側にあります。

膵臓には大きく2つの機能があります。

  • 内分泌機能(血中に血糖*1 を調節するホルモン*2 を出す機能)
  • 外分泌機能(消化酵素*3 を含む膵液を出す機能)

血糖を調節するホルモンとしてよく知られているインスリン*4 は膵臓が分泌しています。また、グルカゴンというホルモンも血糖を調節するもので膵臓から出ています。これらの働きを「内分泌機能」といいます。

一方で、消化液の一つである膵液を作って分泌する機能もあります。膵液にはたんぱく質を分解するキモトリプシン、脂質を分解するリパーゼ、糖質を分解するアミラーゼなどの消化酵素が含まれています。膵液を分泌する機能のことを「外分泌機能」といいます。

*1 血液中のブドウ糖のこと。人が活動するためのエネルギー源。血液中の濃度を血糖値といい、糖尿病の診断に用いられる
*2 体内で作られて、血流にのって体の特定の部位を刺激する物質。内分泌物質とも呼ばれる
*3 体内で起こる化学反応を助け、速やかに反応が進むようにする物質
*4 膵臓から出る、血糖値を下げる方向に働くホルモン。インスリンの欠乏や作用不足が糖尿病の原因になる

■2.働き者の膵臓が壊れると自らを溶かしてしまう

膵臓が何らかの原因でダメージを受けてしまうと、上述の膵液が膵臓自体を溶かして傷つけます。傷ついて炎症*5 が慢性的*6 に続くと次第に膵臓が硬くなったり(線維化*7)、膵液の通り道である膵管が変形したり詰まったりします。これが「慢性膵炎」と呼ばれる状態です。つまり、膵臓が壊れると、自らの作り出す消化液の力で自らを溶かしてしまい、機能不全に陥るのです。

慢性膵炎が進行すると、消化液の分泌機能が低下して下痢や消化不良などの症状が現れます。また、血糖を調節するホルモンの分泌機能(内分泌機能)が破綻して、糖尿病を発症*8 することもあります。こうして機能のバランスが乱れた膵臓がさらに働こうとすると、ますます状況が悪化していくので注意が必要です。

*5 体の免疫が防御反応を起こしている状態。原因は、感染、けが、免疫の異常(アレルギーなど)と様々。免疫が強く反応することで、熱、腫れ、痛みなどが出る
*6 ある病気や症状が、完全に治癒しないまま長期的に持続している状態のこと
*7 臓器が機能を失ってしまうこと。それに伴って臓器は弾力を失い、本来の細胞が繊維細胞と呼ばれる機能をもたない細胞に置き換わってしまう
*8 症状や病気が発生する、または発生し始めること

■3.飲酒は慢性膵炎の最も多い原因である

では、慢性膵炎の原因には何があるのでしょうか。慢性膵炎を引き起こす原因の約半数は飲酒であり、最も多い原因といわれています。アルコールは膵臓を傷つけます。長年の飲酒で傷ついた膵臓は徐々に正常な機能を失って、前述のように慢性膵炎を引き起こすことがあります。医療現場では「楽しく飲んでいただけなのに」と言う慢性膵炎患者は少なくありません。また、飲酒と同様に、喫煙も膵炎の発症リスクを上昇させるといわれています。お酒もタバコも嗜好品ですが、身体への影響を正しく知っておくことが大切です。

そのほかに遺伝や自己免疫疾患*9 が原因となる膵炎もありますが、これは今回の本筋と逸れますので詳しくは説明しません。(詳しく知りたい人は「自己免疫性膵炎のページ」を読んでください。)

*9 本来は外敵を倒すために働くはずの免疫が、何らかの異常によって自分の体を攻撃してしまう病気の総称

■4.慢性膵炎を早期に発見するためには

傷ついてしまった膵臓を元に戻すことは現代の医療では難しいため、慢性膵炎では早い段階で見つけて適切な対処をすることが大切です。しかし、実は慢性膵炎を早期に診断するのは簡単ではありません。膵臓は皮膚から最も遠いところにあるので、お医者さんがお腹を触って調べる触診や、お腹に超音波を当てて中をみる経腹超音波検査*10 などでは検査しづらい臓器なのです。

そこで、消化器内科の医師として、飲酒習慣のある人に気にして欲しいのが「みぞおちの痛み」や「背中の痛み」といった症状です。ついつい胃の調子が悪いで済ませてしまう痛みですが、慢性膵炎が隠れていることも少なくありません。

*10 空気の細かな振動である超音波を使った画像検査。体の奥の血管や臓器を観察することができる

あなたの痛みは本当に「胃の痛み」なのか?

日々の診療を振り返ってみると、膵炎患者の多くは「胃が痛い」という訴えで来院します。確かに、胃があるみぞおちの痛みは、胃潰瘍機能性胃腸症などの胃の病気の症状であることが多いです。しかし、胃カメラ*11 で異常が見つからなかったり、胃薬を飲んでも症状がよくならなかったりした場合には、そのみぞおちの痛みの原因に他の病気が隠れていることを考慮する必要があります。

飲酒の習慣がある人で、飲酒後にみぞおちや背中の痛みが出るようあれば、慢性膵炎が疑わしいと考えられます。

原因が特定できていないみぞおちの痛みがあるときには、早期慢性膵炎を考慮して、まず、禁酒・禁煙を行ってみてください。早期慢性膵炎が痛みの原因であれば、禁酒・禁煙だけで症状が和らぐことがあります。同じく、みぞおちの痛みの原因となる逆流性食道炎も、飲酒・喫煙が症状を悪化させるといわれているので、禁酒・禁煙だけでよくなるみぞおちの痛みは多いと考えられます。

*11 口もしくは鼻から小さいカメラを胃まで進めて、胃の中の状態を見る検査。「上部消化管内視鏡検査」とも呼ばれる

慢性膵炎が疑われる症状があったら何科を受診すれば良いか

慢性膵炎が進行して膵臓が大きく障害されると、CT*12 検査やMRI*13 検査、経腹超音波検査といった画像検査や血液検査から病気を捉えられるようになります。しかし、早期膵炎の軽微な変化を検査で見つけることは簡単ではありません。

つまり、腹痛や消化不良などの症状がある人が、上記の検査を受けた結果異常が見つからなくても、早期の膵炎が存在している可能性はあります。そのため、もし原因不明のみぞおちの痛みがあるようであれば、早期膵炎を考慮して禁酒・禁煙を始めるとともに、消化器科にて診察を受けてみても良いかもしれません。必要に応じて胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)や超音波内視鏡*14 、ERCP*15 といった専門的な検査をしてくれます。超音波内視鏡やERCPとは、胃カメラと同じように、口から直径1cm程度のカメラ付きの管(内視鏡)を挿入して検査をする方法です。超音波内視鏡の先端には超音波装置が付いており、一般的な腹部超音波検査*16 よりも膵臓を鮮明に観察できます。これらの専門的な検査をすることで、慢性膵炎の早期発見につなげることができます。

ただし、超音波内視鏡を行える施設は限られているので、受けてみたい人は事前に施設に問い合わせてみるとよいでしょう。

*12 X線(放射線)を用いて、体の内部を画像化して調べる検査
*13 磁力(電磁波)を用いて、脳や内臓、筋肉、骨などの組織を詳しく調べる検査
*14 自在に曲がる管の先にカメラがついていて、体の奥を覗くための機械。有名なのは胃カメラや大腸カメラだが、様々な太さや用途がある
*15 鼻もしくは口から小さいカメラを入れて、膵臓や胆管、胆のうの状態を調べる検査
*16 空気の細かな振動である超音波を使って、腹部の状態を調べる検査

■5.やめたくてもやめられないのがお酒とタバコ

ここまで、慢性膵炎は早期発見が難しいことや、疑わしい症状があればまず禁酒・禁煙を始めて欲しいことを説明してきました。しかし、お酒もタバコも依存性が高く、なかなかやめられないのが現実だと思います。

やめたいと思っていても禁酒は簡単ではありません。困っている人には、アルコール専門外来という選択肢もあります。医療機関では一人ひとりにあった禁酒方法を相談でき、状況によってはシアナマイドアカンプロサートカルシウムなどの禁酒の補助薬が処方されることもあります。

また、禁酒は本人の意思だけでは難しいため、理解のある家族や仲間のサポートがあると心強いです。依存状態になると、一人でいる時についつい、お酒を飲んでしまうことも多いです。コンビニや酒屋では数百円でアルコールが手に入るので、その便利さが逆に状況を苦しめたりもします。もし、協力してくれる人が近くにいたら、自分が飲もうしている姿を見かけたら止めるように頼んでみてください。そして、周りにお酒をやめられない人がいる場合は、飲まないように見守ってサポートをしてください。断酒会などで同じような悩みを抱えている仲間と交流を持つのも良いです。

禁酒と同様、禁煙にも専門外来があり、禁煙補助剤などを利用して禁煙をサポートしてくれます。(詳しくはこちらのコラムを参考にしてください。)禁煙外来では近年、オンライン診療も開始されており、今後普及が予測されます。MEDLEYのCLINICSサイトではオンライン診療で禁煙外来を実施している医療機関の検索ができますので、受診の参考にしてみてください。

■6.まとめ

繰り返しのアルコール摂取によって膵臓が傷つくと、自身がつくる膵液で自らを溶かして慢性膵炎が引き起こることがあります。慢性膵炎は見つけにくい病気であり、原因不明のみぞおちの痛みがある人は、禁酒・禁煙を心がけると同時に専門医へ相談することをお勧めします。
本コラムを読んで、一人でも多くの人が働き者の膵臓に無理をさせず、健康的な生活を送っていけることを願っています。

<クレジット>
文/清水貴徳(MEDLEY)