結婚を機に保険に入る、保険を見直すという人は少なくありません。今回の相談者さんもまさにそのケース。会社員として働く30歳の彼女は、結婚後、医療保険への加入を考え始めました。でも、選択肢が多すぎて選びきれないし、女性専用の医療保険も気になります。そんな彼女に黒田先生が授けたアドバイスとは!?

【相談】
つい最近結婚したばかりの会社員です。年齢は30歳。いままでは死亡保険だけに入り、とくに何も不自由なく元気で健康に生きてきました。でも、結婚したこの機会に医療保険に入ることを考えています。貯金が多くないので、病気したときのことを考えると心配だからです。いま気になっているのは女性向けをうたった医療保険。一般の医療保険との違いがいま一つわからないのですが、やはり女性は女性専用の保険に入った方が何かといいのでしょうか? 教えて、黒田先生!(30歳・女性)

■会社員はすでに4つの保険に入っている

まずはご結婚おめでとうございます。結婚を機会に保険について真剣に考え始めたというのも素晴らしいですね。

現在、女性専用の医療保険にすべきか、一般用でいいのか、迷っているとのことですが、その前に質問です。相談者さんは自分がすでにいくつもの保険に入っていることを知っていますか?

新卒で会社員として働き始めると、誰もが次のような保険に自動的に加入します。健康保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険の4つ。これに加えて、40歳以上になると、介護保険にも加入することになりますので5つです。ふだんはあまり意識していないかもしれませんが、「保険」という名称がついていることからもわかるように、少なくとも4つは、すでに相談者さんが入っている保険です。

健康保険と厚生年金保険は社会保険と呼ばれ、労災保険と雇用保険は労働保険と呼ばれていますが、いずれも従業員をいざというときから守ってくれる保険であることは間違いない。こうした保険に自身がすでに加入済みであるということを自覚した上で、医療保険を考えていきましょう。

お尋ねの「女性専用医療保険と一般の医療保険」との違いについていえば、ベースはどちらも同じ医療保険。病気になったときに治療費の一部を負担してくれる保険であることに変わりはありません。

ただし、女性専用医療保険の場合、一般的に、子宮がんや乳がん、甲状腺疾患など、女性特有もしくは女性がかかりやすい疾病を手厚く保障しています。また、女性専用医療保険には5年や10年に一度、給付金が出るタイプも多いですね。

ここで注意したいのが、女性専用の医療保険の対象となっている病気は一般の医療保険でもカバーできるということ。女性専用医療保険は、医療保険の一つの種類であり、特定の疾病の保障を手厚くしたものなのです。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

■女性専用の医療保険があるワケとは

一般の医療保険と内容がそう変わらないのだとしたら、なぜわざわざ女性専用につくられた医療保険が発売されているのでしょう。

ある保険会社の担当者に聞くと、「一般の医療保険では、何となく魅力を感じない」という女性のお客さまからの声が少なくないそうです。また、女性特有の疾病に手厚いと聞くと安心感が得られるし、スペシャルな保険であるかのように感じられます。だから、女性専用の医療保険という保険商品を各社が提供しているわけですね。

もし仮に、「男性専用医療保険」が発売されたとしたらどうでしょうか。あまりピンときませんね(笑)。おそらく男性は、一般の医療保険で十分と考える人がほとんどでしょう。でも、女性は、「女性専用」と銘打ったものの方が心に響くようです。

女性がかかりやすい病気に対する保障を手厚くしている医療保険は、決して悪い商品ではありません。女性の方が男性よりも入院期間が長くなる傾向がありますし、女性は妊娠・出産などで入院する機会も少なくありませんから。でも、手厚い保障が欲しいのであれば、一般の医療保険の保障を増額する方法もありますし、給付金がもらえる分、保険料は高めに設定されていることを納得して加入すべきですね。

いずれにせよ、人は経済合理性だけで動く生き物ではありません。自分で貯蓄をして、いざというときに備えられるのであればいいのですが、それがなかなか難しいという方は、一定期間経過して健康であれば給付金が受け取れるというタイプを選ぶのもいいでしょう。自然にお金が貯められます。自分の性格やニーズに合わせて、そういった保険をうまく活用するのも一つです。

また、女性専用医療保険の保障の範囲はじっくりとチェックしてください。子宮がん、卵巣がん、乳がんのほかに、リュウマチなど女性が罹りやすい甲状腺疾患もカバーしているのかどうか。商品によって保障の範囲は異なりますので、確認は必須です。

それから、相談者さんは現在、死亡保険に入っているということですが、死亡保障は自分が死んだ後に経済的に困る人がいる場合に入っておきたい保険です。相談者さんのケースはどうでしょう? 本当に必要ですか? 

保険について考えるのであれば、死亡保険についても吟味しましょう。

■妊娠、出産後には保険に入りづらくなる!?

女性が医療保険に加入するときに注意すべき点はほかにもあります。妊娠、出産は女性特有のイベントですが、おめでたいことである反面、実はリスクが伴います。そのため、保険商品にもよりますが、妊娠や出産時の状態により、出産後に希望通りの保険に加入しづらくなってしまったり、保障を受けられなくなったりすることもあります。

例えば、帝王切開。妊娠前の加入であれば、帝王切開は医療保険の給付対象にはなりますが、妊娠が判明した後に加入する場合、帝王切開は給付対象外とされてしまうことがあります。また、一度帝王切開をした後に新規の医療保険に入ろうとすると、「妊娠にともなう手術や入院は給付の対象外(帝王切開も含む)」などの特別条件付きとなる契約がほとんどです。お子さんを持つことを考えるのであれば、妊娠がわかる前に加入しておく方が賢明でしょう。

「特定部位不担保」という条件付きの契約もあります。これは、特定の部位に関する疾病の入院・手術を一定期間保障しないという条件です。

例えば、子宮筋腫にかかったことがある場合、子宮は「特定部位」とされて、その後、子宮がんなど子宮に関する疾病については、一定期間、入院・手術の給付金が支払の対象から外れてしまいます。一度、何かの病気にかかったり、妊娠の経験があったりすると何かしら条件がつくなどして希望通りの医療保険に入りづらくなる。それが保険の現実なのです。

もっとも、保険商品は日々変化していますから、以前は入れなかったのに今は加入が可能というケースもなくはありません。もし何かの病気を経験されているなら、諦めずによく調べてみてください。

結局、保険に入る上で一番大事なのは「何が心配なのか」を客観的に見つめることです。相談者さんはどんな事態を恐れていますか? 一番心配なのはどのようなケースなのでしょう?

もし、がんが多い家系であるなら、がん保険に一つ加入しておき、通常の病気については預貯金でまかなう、あるいは保険料の安い共済やネットで入れる保険を選択するのもいいでしょう。もし、働けなくなったときの家計が心配だというなら、就業不能保険を検討することもおすすめします。

重要なのは、保険料が高いか安いかだけではなく、ご自分にとってご夫婦にとってどんな保障が必要なのかを考えてから保険を選ぶこと。それから、加入する保険会社がしっかりと給付金を支払っているかどうかなど、保険会社の母体、安全性、窓口の対応などもトータルで考えて判断してくださいね。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子