一般社団法人Colabo代表理事・仁藤夢乃さん

新宿は歌舞伎町、渋谷はスクランブル交差点の、むせ返る人混みを抜けた場所に佇むピンク色のバス。可愛らしい花と、つぼみの形のヘアスタイルをした女の子の横顔が描かれているそのバスには、同じくピンク色のテントが併設され、テントの中はカフェスペースになっている。灯りの下で女の子たちが食事をしたり、おしゃべりを楽しんでいる。

新宿と渋谷で定期的に開催されている、10代女子限定の無料カフェ〈Tsubomi Cafe〉。ピンクのバスは、そのシンボルになっている。夜、家庭などに居場所がなく街中で過ごす少女たちに声をかけ、生活必需品や食事などを提供している。

その灯りを生み出している一般社団法人『Colabo』代表・仁藤夢乃さんもまた、かつては家に居場所がなく渋谷で月25日を過ごした「難民高校生」だったという。ピンクのバスシェルターが目指す未来とは。彼女たちを守るために、大人たちに出来ることとは。仁藤さんへのインタビューを前後編に渡ってお届けします。

■「助けて」と言えない少女たちに手を差し伸べる

──個人的に、ピンクバスの活動がとても素敵だなと思っていました。この活動は2018年10月に始められたということですが、ピンクバスを含め日々どのような活動に取り組まれていますか?

仁藤:Colaboでは、虐待や性暴力被害に遭うなどした中高生世代、主に14歳〜18歳の女の子たちを支える活動をしています。具体的には、全国各地から寄せられる相談に対応したり、夜の街に出てさまよっている女の子たちに声を掛けたりしています。女の子たちがColaboにつながるきっかけは「街での声掛け」や「友達の紹介」、「SNSを通じて」などさまざまです。

渋谷や新宿では、毎晩100人ずつくらいのスカウトが道に立ち、女の子たちを性的搾取につなげようと声をかけています。私自身も15年ほど前、10代の頃に、家に帰れず街をさまよう生活を送ったんですが、その頃から、そういう女の子たちに関心を寄せて声を掛けて来るのは、手を差し伸べようとする大人ではなくて、性的搾取が目的の人しかいないというのをすごく感じていました。

新宿は新宿区役所前、渋谷は神宮通公園を拠点とするバスシェルター。〈Tsubomi Cafe〉の開催日時はColaboのウェブサイトやツイッターから確認できる

仁藤:その後私も「大人」と呼ばれる年齢になり、Colaboの活動は大学3年生、2011年に始めたんですが、その頃も女子高生たちに近づくのは性的搾取を目的とする大人だという状況は変わっていませんでした。この状況を変えたいと思って、街での声掛けを始めたんです。

ただ、声を掛けるだけでは、具体的に少女たちに必要な衣食住などを提供できません。そこで2015年に一時シェルターとして、女の子たちが一時的に泊まれる場所をつくりました。さらにその先の必要な社会的支援に繋いでいくために、また日本では未成年だと子どもだけで家を借りるということもできないので、2016年に中長期のシェルターとして、シェアハウスの運営も始めました。いま6部屋あるんですが、足りないので今年度に15部屋まで増やそうと計画しています。

──Colaboの認知度が高まると同時に、10代の女の子たちに対する活動の幅もどんどん広まっているんですね。

仁藤:そうですね。最初は声掛けから始まった運動が、必要に応じて泊まる、住める場所を提供し、だんだん女の子たちの間でも口コミでColaboのことは広まっていきました。ですが、そうなると、自分から「助けて」と連絡してくれる子の対応で手一杯になってしまって。

私たちが本当に出会いたいのは、「助けて」と自分から言える状況にない子たち。もちろん、自分から「助けて」と言ってくれる子も、他に声を上げられるところがないから私たちに言ってくれるわけで、できることはしたいのですが、私たちの問題意識は、そもそも「助けて」と言えずに夜の街をさまよっていたり、「自分でなんとかしなければいけない」と思っている子たちに、私たちのほうから街に出て行って出会うべきだ、というところにあるんですね。そういう子たちこそが性的搾取に利用されている現状があるから、そこに対してアウトリーチを強化していこう、と。

そんな風に考えていたときに、韓国でバスを使った青少年へのアウトリーチを行なっている団体があるということを知って、2017年に視察に行きました。

──韓国にも、バスシェルターを開催している団体があるんですか?

仁藤:そうなんです。実は韓国ではソウルだけで7団体ぐらいが、バスを拠点に食事提供や声掛けなどを行う活動をしていて、毎日同じ場所に、違う団体のバスがいつもある。「韓国でやれるなら日本でもやれるんじゃないか」と思って、去年の10月からバスの活動を始めました。

バスでは、「支援臭」を消すことを大事にしています。そもそも私たちは「支援します」とか「助けます」とか、ウェブサイトにもどこにも一切書いていないんですよ。それは「支援する、される」という関係ではなくて、「一緒に考えるよ」というスタンスで活動しているからです。

例えば、これはバスで配っている、Colaboの連絡先が書いてある鏡。ただの紙のカードだと捨てられちゃうけど、鏡だったら持っててもらえるかもしれない。この鏡も、「虐待」「SOS」とか書いてあると、親に見られたくない、と思う子がいるので、カフェのノベルティみたいな感じにしてます。街で声を掛けるときも、「10代は無料のカフェをやってるよ、よかったら来ない?」という風に、こういう鏡などを配りながら声掛けしています。

──確かに、いい意味で「支援団体」らしくない、10代の女の子たちが持ち歩いていそうなデザインですね。

仁藤:「支援臭」を消しているのは、「支援」という言葉や関係性に抵抗ある子たちが多いからなんです。それはいままで、いろんなところでSOSを出したのに、適切に対応されなかったり、自分が受けた虐待の話を「嘘だ」って思われたり、親から「甘えるな」「逃げるな」などと言われて育ってきたから。「人に相談する」のは悪いことだ、って思い込んでしまっていることもあります。

■孤立している少女たちが、安心できる場所を

──先ほど、自分も高校生の頃街をさまよう生活を経験した、とおっしゃっていましたが、書籍『難民高校生』でも語られているご自身の経験について、また、10年ほど前になるご自身の経験と比べて、いまの女子高生たちを取り巻く環境が変化しているか、お聞かせください。

仁藤:私も10代の頃、DVや母親の病気などが原因で、家で安心して過ごすことができず、渋谷で月25日過ごす、みたいな生活をしていました。いまでこそ「あれは虐待だった」「支配的な関係性だった」って思えるんですけど、当時の自分は「自分が悪いから」だと思っていました。

家が安心して過ごせない状態だと、共有スペースを使うのにもすごく気を使うんですよ。例えば家族と顔を合わせるのが怖くてお風呂やトイレのタイミングに悩んだり、家に帰ってリビングでちょっとくつろぐ、みたいなこともできなかったりする子がColaboにはたくさん来ます。「人の邪魔にならないようにしよう」って、無意識に考えて暮らしているんです。そうすると、夜も安心して寝られず、寝不足で学校に行っても授業中寝てしまったり、勉強に集中できなかったりして、学校に行けなくなってしまう子もすごく多いです。私も学校で居眠りや遅刻が多くて、よく怒られました。でも学校では「家のことを悪く言ってはいけない」と思っていました。

ただ問題児扱いされて、なかなかその子たちが抱えている問題の根本にまで目を向けてもらえないことが多い。たとえ親であっても、「愛してるから」とか「あなたのためだから」とか言われたとしても、「こういうことは暴力に当たるよね」とか、「あなたにも拒否する権利があるんだよ」と学校で教えるべきだと思いますし、もし家族が支え合う関係じゃなかったとしても、家族の形ってそれだけじゃないよね、みたいに教えて欲しいです。


仁藤:結局高校は2年生の夏に辞めましたが、そういうときに街で声を掛けてくるのは変なスカウトや性的搾取が目的の大人たちだけでした。いまの子たちも状況は変わってないと思いますが、いまの子たちの方がもっと生き抜くのが大変だなと思うのは、私たちが高校生だった頃は、例えば渋谷や新宿に行けばそこにたむろしてる子たちがたくさんいて、ネットカフェやマクドナルドに朝までいることもできたんですけど、いまはネットカフェやマクドナルドには夜11時以降は入れないし、その時間帯には補導されます。

Colaboの活動をしていると、「そんなに大変な子なら警察に引き渡せば」と言われることもあるんですけど、やっぱり昔もいまも「警察は見たら逃げるもの」とみんな思ってるんですね。警察がしていることは取り締まりなので、子どもにとって警察は頼る存在ではない。「なんでこんなところにいるんだ、早く家に帰りなさい」と補導されるので、夜の渋谷でも出歩いてる子は少ないです。みんな人目に付かないところで、スマホで誰か泊めてくれる人を探しています。

私が高校生の頃は、街に出ればみんなたむろしていて、そこでなんとか生き抜くことができた。「あの人の紹介する仕事はやばいよ」とか「あそこの店は薬を盛るかもしれない」とか、逆に「あの病院は日曜でもアフターピルを出してくれる」とか、そういう情報をみんなでシェアしていました。でもいま私たちが出会う子って、本当に一人で問題を抱えてしまっている。性の知識とかも全然ない、そういう子がすごく多いですね。

取り締まりによってそういう子たちがいなくなったように見えるため、浄化されたように感じますが、むしろ大人からは状況が見えにくくなっています。なので、そういう子たちはもっと大変な状況で孤立しているのではないでしょうか。ピンクバスにはそういう子たちが安心して来られる、たむろできる場所が必要だ、という意味もあると思っています。私やスタッフとおしゃべりしたり、ご飯や生活に必要なものをもらいに来たり。同時に私たちはその場で女の子たちとの関係性を築いていく。カフェはそういう場所にしていきたいです。

(後編では、日本における女子高生をめぐる現状、そして大人たちが彼女たちを守るためにどうしていくべきか、詳しくうかがいます)

<プロフィール>
仁藤夢乃(にとう・ゆめの)
1989年生まれ。中高時代に街をさまよう生活を送った経験から、女子中高生の支援を行っている。夜間巡回や声掛け、相談。シェルターでの一時保護や宿泊支援。食事・風呂・文具・衣類の提供。児童相談所や病院、警察などへの同行支援。自立支援シェアハウスや虐待や性暴力を経験した少女たちの自助グループの運営を行っている。第30期東京都「青少年問題協議会」委員。厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」構成員。

<クレジット>
取材・文/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
撮影/横田達也