日本人が生涯にがんになる確率は2人に1人ということを耳にしたことがある人は多いと思います。この数字は、だからといって誰しもが明日にでも2人に1人ががんになるというわけではなく、高齢者を含めた一生のうちにがんになる罹患率。つまり、そこまでおびえなくても大丈夫なのですが、最近のがんに罹患した著名人のニュースを目にして、はたと考え始めたという相談者さん。

自分が当事者になる可能性もあるけれど、家族や配偶者、友人ががんになったときに果たして何をすればいいのだろう。自分ができることは何なのかを知っておきたいと相談者さんは訴えます。さて、がんサバイバーでもある黒田先生の回答は!?

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」累計罹患リスク(2014年データに基づく)

【相談】
40代の共働き主婦です。いまは、離れて住む私の両親、近くに住む夫の両親、夫や2人の子ども、友人たちもみな健康に暮らしています。ただ、テレビでがんになった芸能人のニュースなどを目にして、考え込んでしまいました。家族や友人ががんになったとき、私はどういう対応を取ったらいいのでしょうか? してあげると喜ばれること、すべきではないことについて教えてください!(40代・女性)

■ホームページから必要な情報をダウンロードしよう

家族ががんになってからではなく、元気ないまのうちから、がん患者への向き合い方を考えているなんて! 相談者さん、えらいです。そんな健気な相談者さんの悩みに、今回は自分自身のがんの経験を踏まえたお話しをしたいと思います。直接的なお金の話から少し離れますが、経済的な備えと同じかそれ以上に大事なこと、大切な人ががんになったときに「すべきこと」「すべきではないこと」についてです。

最近は、がんに関する情報だけではなく、がん患者とどう接するかに関しても詳しい情報が得られるようになりました。例えば、私が所属しているNPO法人キャンサーネットジャパンでは、がん患者擁護のためにエビデンス(科学的根拠)のある情報発信を行っており、がんの種類別に正しい情報を掲載した冊子だけではなく、「もっと知ってほしい 大切な人ががんになったとき」という患者の周囲の人を対象にした冊子も出しているんですね。「すべてのがん」向けと、「女性のがん」向けの2種類が揃っているのも便利です。

国立がん研究センターも「家族ががんになったとき」を発行しています。いずれも、ホームページからダウンロードできるようになっているので、もし、ご家族や友人ががんになった場合にはすぐに入手して目を通しておくといいでしょう。

左:国立がん研究センターがん対策情報センターが発行している冊子「家族ががんになったとき」
右:認定NPO法人キャンサーネットジャパンが発行している冊子「もっと知ってほしい 大切な人ががんになったとき」

■「頼ってもいいんだよ」自分から援助を申し出てみて

国立がん研究センターのがん情報サービスのサイトでも読める「もしも、がんが再発したら—[患者必携]本人と家族に伝えたいこと」という冊子に、「家族およびあなたを 支えてくれる方へ」という章があります。そこには、「患者さんを支える家族のための6か条」がまとめられています。これは非常にシンプルですが、極めて本質的な内容なので、今回はこの6か条をベースにお話したいと思います。

第1条は「がん情報を集めましょう」。がんの告知を受けると本人はショックを受けますし、高齢の方だとなかなか情報を得にくいもの。その人のために家族や身近な人が的確な情報を集めて伝えることは大切な援助です。

ただし、ここで注意したいのはエビデンスのある正しい情報を集めること。「これでがんが治る!」といったもっともらしい、怪しげな医療情報は本人を混乱させるだけです。

情報の収集源として、まず挙げられるのは主治医や担当医ですが、ネットであれば、国立がん研究センターがん対策情報センターが発信しているがん情報サービスや、それぞれの医学会のがん診療ガイドラインなど、公的なものから探してみてください。正しい情報同士はつながっていますので、リンクを辿っていくのもお勧めです。

第2条は「自分にどういう援助ができるかを考えましょう」。援助と一口に言っても、いろいろあります。経済的援助、物理的援助、精神的援助。家族ががんになったら、これらすべての援助が欠かせませんが、友人だったらほとんどの場合、経済的援助は必要ないのではないでしょうか。

でも、小さなお子さんがいる友人だったら、お子さんの送り迎えや家事の手伝いを申し出るときっと喜ばれるはず。自分にできる援助、自分が同じ立場だとしたら、友人にやって欲しい援助を考えて相手に伝えてみましょう。

よく「何かあれば言ってね」「困ったことがあったら教えてね」という人がいますが、正直言って、がん患者はいざというときに自分から援助が必要だと言いにくいものです。「困ったときはお互い様だから」と声をかけ、ムリなくできる範囲の援助を申し出てみてください。

さまざまながん患者さんを見ていると、本当にがんばり屋さんが多いと感じます。つらいとき、苦しいときでも我慢しがちなんです。もしがん患者さんから「つらい」という言葉がポロリとでたら「つらかったのね」とオウム返しにして話を聞くのもいいですね。同調してくれる人がいるだけで心が落ち着くものですから。

黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

第3条は「患者さんの言動の変化や反復を想定しましょう」。患者さんの気持ちや精神状態はがんの治療前と治療後とで変わります。また、治療が終わって一見健康を取り戻したように見えても、実は副作用がひどかったり、精神的に落ち込んだりということも珍しくありません。

治療が終了したのに体力もやる気も出なくて、家事をやる気になれない。でも、見かけは健康そう。それなのに、「もう大丈夫なんでしょ?」と言われて傷ついてしまう。そんなケースは多いのです。

もちろん、腫れ物にさわるような扱いをする必要はありません。でも、がん患者さんがそのような状態になりがちだ、ということをご理解ください。そうすれば、お互い、気持ち良く過ごせることも多くなると思います。

■直接尋ねる、確認する、そして自分のことも労わる

第4条は「患者さんの要望をよく聞きましょう」。要望を知るには、「いまどんな感じ?」「何か手伝えることある?」と率直に尋ねてみてください。

がんと言っても本当に多様で、大腸がん、乳がん、子宮頸がんなど罹患するがんの種類によっても症状や治療の副作用などは異なります。当事者ではないのですから、わからないことがあって当然。素直に患者さんの要望を聞いてみるのが一番です。

また、症状などによっては、治療の副作用でイライラしたり、体調が悪かったりして、「そんなこともわからないの! ちょっとくらい、察してよ!」と怒り出す患者さんもいるかもしれません。でも、誰だって、気分が悪いときには八つ当たりしてしまうこともありますよね? がん患者さんによっては、そのブレ幅が大きい人がいるかもしれませんが、自分の気持ちを、ありのまま素直にぶつけられるというのは、ある意味‘健康な’証拠です。その状態がずっと続くわけではありませんので、家族や周囲の人には、大らかな気持ちで受け止めて欲しいと思います。

第5条は「患者さんの要望に沿っているかどうか常に確認しましょう」。頼んでもいないのに、家族や身近な友人、知人などに怪しい治療法やサプリを勧められてしまった。これは患者さんからよく聞く‘困った人あるある’です(苦笑)。

良かれと思って勧めてくださっているのでしょうが、補完代替医療は、現在行っている治療に影響を及ぼす可能性もありますので、これは極力、避けてほしい行為です。

家族でもないのに、治療法や病状について細かく聞くのもNG。私の経験上、根掘り葉掘り聞いてくる人はほぼ、その後、代替医療を勧めてきました(笑)。

病気で、何かと大変なときに押し付けがましい行為を受けると、しんどくなるだけです。自己満足は厳禁。自分がやろうとしていることが、本当に本人の求めていることなのかを自らに問いかけてみてください。

最後の第6条は「家族も自分の生活を大事にしましょう」。自分が疲れたり、落ち込んだりしては、患者のケアもできなくなります。両方ともズタボロになってしまっては元も子もありません。

「家族は第二の患者」と言われるくらい、がん患者さんの家族も心身ともに大変な思いをします。私が乳がんの告知を受けたときも、母や夫は、私以上に落ち込み、悲しみました。それこそ、どっちが患者なのか分からないくらいに。

家族ががんになったから、自分はこうであらねばならないと、自分を追い詰めてないでくださいね。自分あってこその患者であり、家族なのですから。

さて、6か条に沿ってお話してきましたが、これらを貫いている原則は、「自分がされてイヤなことはしない」。とってもシンプルでしょう?

自分の立場に置き換えて考え、しっかりと患者さんの意向を確認して、その上でどうしたら患者さんが楽になれるのかを想像力を巡らせてみましょう。思いやりとは想像力そのもの。自分だったらどうか──。その問いかけが、がん患者に喜ばれる援助や求められる援助をしていくためには欠かせません。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子