松岡宗嗣さん

「一人ひとり、それぞれに性の在り方がある。皆が等しく守られる社会にするために、どんなことが必要なのか」──8月29日、ライフネット生命ではダイバーシティに関する研修を実施しました。性の多様性に関する基礎知識からLGBT当事者が直面している問題、家族の在り方などについて、一般社団法人fair(フェア)の代表理事を務める松岡宗嗣さんに詳しくお話ししていただきました。

■一人ひとりに「性の在り方」がある

近年、「LGBT」という言葉が注目されています。ご存じの方も多いと思いますが、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの4つの頭文字を取った、セクシュアルマイノリティの総称です。レズビアンは女性の同性愛者。ゲイは男性の同性愛者。バイセクシュアルは男性も女性も恋愛や性愛の対象になる両性愛者。そしてトランスジェンダーは、生まれた時に割り当てられる性別に対して、異なる性別を自認している人のことを指します。

そもそも、性とはどのように決まるのでしょうか。おそらく、多くの方は「体の性」によって決まると考えるのではないかと思います。しかし、本当にそうなのでしょうか。

性の在り方は、4つの要素をかけあわせることによってできるのではないかと考えられています。1つは「身体の性」。私たちは生まれた時に、性染色体や生殖器の形の違いから、「男」か「女」という戸籍上の性別に割り当てられます。2つ目は「心の性」。自分の性別をどのように認識しているかという「性自認」です。男性・女性という分類だけではなく、どちらでもない、どちらもある等、捉え方はさまざまです。3つ目は、「好きになる性」、性的指向ともいいます。恋愛や性的関心がどの性別に向くか/向かないかという軸です。こちらも、男性・女性とはっきり分けきれるわけではなく、両方好きになる、両方好きにならない等、さまざまです。4つ目は「表現する性」。一人称や服装など、自分の性をどのように表現するかということです。以上の4つを掛け合わせることによって、セクシュアリティは決まるのではないかと考えられています。

これらの要素について考える時、自分が当てはまる場所は0か100かではありません。例えば、「髪の長さが何センチ以上だったら“女性らしく”て、何センチ以下なら“ボーイッシュ”か」という質問をした場合、おそらく人によって答えが全く異なるでしょう。他の軸も同じように、まさに性の在り方はグラデーションになっているのです。

L・G・B・Tのほかにもさまざまなセクシュアリティがあります。例えば、「Xジェンダー」と呼ばれるセクシュアリティは、自分の性自認が出生時に割り当てられた男性・女性のいずれでもない、いずれにも分類されたくないなどの人を指します。「アセクシュアル」は、他者に対し性的な興味関心を持たないというセクシュアリティ。そして「クエスチョニング」は、自分の性のあり方を決めかねる/探しているといった人たちのことを指します。ちなみに、フェイスブックのアメリカ版では、性別欄で50種類以上の性別から選択することができます。

今回、ぜひ、皆さんに覚えていただきたい言葉があります。それは、「SOGI(ソジ)」。「性的指向:Sexual Orientation」と「性自認:Gender Identity」の頭文字を取った言葉です。LGBTは「人」のことを指しますが、SOGIは「属性」を指します。近年、法整備検討などの場面を中心に用いられるようになりました。例えば、「LGBTの人たちを保護する法律を作りましょう」と言った場合、「あなたはLGBTの当事者ですか、そうではないですか」という質問が発生します。すると、当事者はカミングアウトをしなければ、その制度を利用できなくなる可能性が出てきます。

ここで、「SOGI(性的指向、性自認)に関わらず」という言葉を使った場合、どうなるでしょう。LGBTもLGBTではない人も、みんな何らかの性的指向や性自認の属性に当てはめることができます。つまり、「性的指向や性自認に関わらず、全ての人が平等に扱われるような法律を作りましょう」と考えることができるのです。

■セクシュアルマイノリティを理解し、支援する「ALLY」の存在が重要

日本国内でセクシュアルマイノリティの人たちはどのくらいるのでしょうか。大阪市で行われた調査では、自らをL・G・B・Tのいずれかだと認識している人は約3%。それ以外に「アセクシュアル」や「決めたくない/決められない」という人を含めると、約8%になります。この約8%というのがどれくらいかというと、日本人のおよそ10%がAB型だそうなので、それよりも少し少ないくらいですが、ひとクラス40人だとすると8% なので3人程度はセクシュアルマイノリティの人たちがいるという計算になります。

しかし、「いや、自分はLGBTの人と会ったことがない」という方が多くいるかもしれません。ここに問題の本質があります。LGBTは、「いない」のではなく「見えていない」のです。当事者は「ここでは自分を受け入れてもらえないのではないか」と考えてしまって、なかなかカミングアウトできません。すると、周囲は気付きませんから、無意識のうちに当事者を傷つけてしまうことがあります。すると当事者はますますここでは言えないと思ってしまう……そんな負のスパイラルが発生するのです。

では、この問題を解消するためにはどうしたらいいでしょうか。解決策は2つあると私は考えています。1つは、当事者からカミングアウトすること。しかし、LGBTにとってカミングアウトをすることは、非常にハードルが高いものです。そこで2つ目として周囲ができることは「味方」になることです。

セクシュアルマイノリティの当事者を理解し、支援したいと考える人たちのことを「ALLY(アライ)」と呼びます。ALLYが増えることによって、当事者がカミングアウトをしやすくなります。また、カミングアウトしなくても、コミュニティの中で「私はALLYでありたいと思っている」という意思を示してくれる人がいれば、当事者の生きやすさは変わります。

■LGBTの人たちが「教育」と「就労」で困ること

セクシュアリティはアイデンティティに密接に関わりますから、さまざまなライフステージで困難が生じます。ここでは、「教育」と「就労」に関する部分だけお話ししましょう。

まずは教育について。ある調査では、LGBTの約6割がいじめを経験しています。そして、三重県の高校生1万人を対象とした調査では、LGBTの約9割が誰にも相談したことがないと回答しています。学校でも家庭でも、身近な関係であればあるほどカミングアウトしづらいという状況があるのです。

その背景には、学習指導要領の中でLGBTがトピックとして扱われていないということがあります。一部の教科書では取り上げられ始めていますが、学習指導要領の中で定められていないため、全ての教職員がLGBTについて適切な知識を子どもたちに届けることができません。そのため、多くの児童・生徒はLGBTや多様な性に関する知識に触れる機会がないのです。

小中学校の保健体育の教科書には、「思春期になると異性に関心が高まる」と書いてあります。こういった一言があることによって、当事者の学生たちは「やっぱり自分はおかしい存在なんだ」と自分を否定してしまうことにつながります。さらに学校という場所は、LGBTに対して差別的な言葉でいじめに発展するケースも多く見られます。

続いて、就労に関する問題について話を進めます。ある調査ではLGBの約4割、Tの約7割が求職時に困難を抱えていると言われています。例えば、戸籍上男性のトランスジェンダーが、女性用のリクルートスーツを着て就職活動をしていたところ、面接官に「履歴書に記載されている性別と見た目の性別が違うけど、どういうことなのか」と聞かれカミングアウトすると、「うちの会社では採用できません」と言われてしまう。こういったケースが起きてしまっています。

日本労働組合総連合会が実施した調査によると、職場で性的指向や性自認に関するハラスメント(=SOGIハラ)を受けたり見聞きしたりした人は、全体としては約2割でした。しかし、LGBTが身近にいる人に絞ると、その割合は約6割に上ります。例えば、当事者が入社する前に、社内の人たちが当事者に無断でセクシュアリティを暴露し(=アウティング)、会社で心ない言葉をかけられた当事者は不信感を募らせ、退職してしまった、というケースもあります。

こういった事態に対し、19年5月末に職場のパワーハラスメント防止を企業に義務づける「パワハラ関連法案(労働施策総合推進法の改正案)」が成立。この中には「SOGIハラ」や「アウティング」の対策も企業に求められることが指針で決まり、大企業は2020年春頃、中小企業は2021年春頃から施行される予定です。

では、私たちはLGBTの人たちに対してどのように接すればいいのでしょうか。ポイントはいくつかあります。1つは、LGBTの人たちからカミングアウトされた時は、基本的には「伝えてくれてありがとう」と肯定的に受け止めることです。カミングアウトは当事者にとってとても勇気が要ることですから。2つ目は、カミングアウトされた時に、「何に困っているのか」と聞くこと。制度に困っているのか、単に知っておいて欲しかったのか、ニーズはケースバイケースです。3つ目は、これは結構重要な点ですが、「誰に話しているのか。誰にまでなら話していいのか」を確認することです。それはアウティングの防止にも繋がります。

■LGBTにとって、結婚できないことによるデメリット

最後に、「家族」「結婚」についての観点からお話ししたいと思います。2019年2月14日、札幌、東京、大阪、名古屋の地裁にて複数の同性カップルが国を相手取り一斉に提訴しました。「結婚の自由を全ての人に」訴訟と呼ばれていて、「同性カップルの結婚を認めない今の民法は、日本国憲法に違反しているのではないか」が争点になっています。

同性カップルは、どんなに一緒に長く暮らしていても、法的なパートナーになることはできません。そこで、同性カップルは、法的に結婚できないことによってさまざまなデメリットを被っています。

1つ目のデメリットは、原則として相続ができないことです。パートナーが亡くなってしまった場合、亡くなった方の名義でマンションを購入していれば、残された方は相続することはできません。遺言書等である程度カバーすることになります。そういった準備のない場合は、その住居から退去しなければならない可能性もあります。

2つ目は、子どもの親権を持つことができないことです。例えば、カップルの両方に連れ子がいたとします。パートナーの子どもが病気になって入院した場合、病院からは「あなたは法的な親ではないので、病気の説明や入院手続きはできません」と言われてしまうことがあるのです。面会も断られる場合があります。大事なパートナーとの子どもであっても、法的な親子になれないため制限されてしまう。これは非常に辛いことです。

3つ目は、在留資格が得られないこと。男女のカップルであれば、結婚している場合、外国人のパートナーは日本人の結婚相手として在留資格を得ることができます。しかし、例えばアメリカで同性婚をした日本人とアメリカ人の同性カップルの場合、日本人が日本に帰国し、アメリカにいるパートナーを呼び寄せようとした時、異性カップルと同様の在留資格は得られないのです。

そもそも、「夫婦同姓」をはじめ、現在のような「結婚」の形になったのは1898年の明治民法からと言われています。意外と最近だと思いませんか? さらに、恋愛結婚の数がお見合い結婚の数を超えたのは1960年代後半です。結婚という価値観は、その時代の状況や価値観によって議論されながら、形を変えてきたわけです。実のところ、よく同性婚や夫婦別姓への反対意見としてあげられる「伝統的な家族観」というものは、いつの時代の何を表しているのか不明瞭であり、実態に見合っていないところがあります。

現在、さまざまな性の在り方が生まれてきて、家族の形も多様化が進んでいます。そういった現実を見据えると、今の結婚制度の変容や、より柔軟なパートナーシップを結べるような制度をつくるべきなのではないか。そんな議論が今、盛んに行われているのです。

一人ひとりが自分にあう生き方を自由に選択できるような社会をつくっていきたいと思います。

(後編では、ライフネット生命の社員から出たLGBT当事者とのコミュニケーションについての質問に答えていただきます)

<プロフィール>
松岡宗嗣(まつおか・そうし)
1994年愛知県名古屋市生まれ。一般社団法人fair代表理事。明治大学政治経済学部卒業後、どんな性のあり方でもフェアに生きられる社会をめざし、fairを立ち上げ、LGBTに関する情報発信や政策提言を行う。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。
●一般社団法人fair

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル 編集部
文/森脇早絵
撮影/横田達也