左:松岡宗嗣さん、右:ライフネット生命保険 ライフくん(仮名)

家族、友人、同僚、身近にいる人から、もしLGBTだとカミングアウトされたら、どのように接すればいいのだろうか。当事者の方たちに対して、自分は何ができるだろうか──生き方や性の在り方の多様化が進む中、当事者の本音を知る機会は、なかなかないのが実状です。

8月にライフネット生命で実施された、性の多様性を学ぶ研修の第2部では、当社で働くゲイの当事者(以下、仮名でライフくんと呼びます)、一般社団法人fair代表理事を務める松岡宗嗣さんが、社内に寄せられた5つの質問に回答します。(前編はこちら)

Q1 オープンにカミングアウトされているということは、ご自身のセクシュアリティに関する自認は明確なのですか。 今後「女性をパートナーにする時がくるかも……」と思うことはありますか。

松岡:私はゲイであることをオープンにしますが、今後、女性を好きになる可能性はゼロとは言えないと思っています。

セクシュアリティというものは、“揺らぎ”があると言われているんです。例えば、私の周りの人たちでも、40〜50代になってから自分がゲイだと自覚したという人もいれば、逆に、ずっと自分はゲイだと思っていたけど、女性を好きになって結婚したという人もいます。性の在り方はまさにグラデーションであり、流動的なものと言えるでしょう。

ライフくん:僕は、この会社に入社した際、早いうちにカミングアウトしました。採用の段階でも伝えていましたね。最初からオープンにしてしまった方が、周囲とスムーズにコミュニケーションができるのではないかと考えたからです。

自分のセクシュアリティに関しては、高校生の時に「自分はもしかしたら男性の方が恋愛対象になるのではないか」と徐々に思い始めました。しかし、高校時代は女性と付き合っていたこともあって、当時はバイセクシュアルなのかなと思っていました。ようやく大学に入ってから、やっぱり男性の方が好きなんだと自覚しました。

今後は、正直、環境によって変化を感じる可能性はあると思います。ここは隠すよりも、そういった自分の状態をオープンにしながら、周囲とよい関係性を築いていく、そんな挑戦をしているつもりです。

松岡:LGBの人たちがセクシュアリティを自覚するタイミングに比べて、トランスジェンダー(T)については、自分の身体の性に対して違和感を抱くタイミングは早いと思います。例えば、七五三や小学校のランドセルなど、ジェンダーによって分けられた行事などで強い違和感を持つ人もいます。一方でLGBに関しては、いわゆる思春期に自覚しはじめる人が多いのではないかと思います。もちろんタイミングは人によって異なり、先ほど申し上げた通り「揺らぎ」があります。

Q2 自分の子どもがLGBTだとカミングアウトをしてくれた時、どのような声をかけるのがよいでしょうか?

松岡:私が自分のセクシュアリティについてオープンに話せるようになったのは、高校を卒業してからでした。高校時代までは、「周囲に1人でも否定的な人がいたら、友だちの縁を切られてしまうんじゃないか」と悩んでいたので、言えなかったんです。大学入学で上京したタイミングで、友人たちにカミングアウトをしたら、周囲は思ったよりもスムーズに受け入れてくれました。

親へのカミングアウトは大学2年生のころでした。母が東京に遊びに来たときのこと。ご飯を食べている時に、「彼女はできた?」と聞かれ、私が「できてないよ」と苦笑いしたら、「じゃあ、彼氏はできた?」と聞かれて、本当にびっくりしたんですよね。(自分がゲイであることは)ばれていないと思っていたので。そこでカミングアウトをしました。

この時、母に「宗嗣が病気になった時に、誰かが隣にいてくれることが大事で、男でも女でもそんなものは関係ない」と言われたことが、すごく心に残っています。この言葉は、私にとって大きな勇気につながりました。ですから、もし、自分の子どもがカミングアウトをしてくれたら、それはあなたのことを信頼しているという証でもあると思います。まずは伝えてくれた行為に対して、「ありがとう」と言ってあげることが大事です。「これを聞いてはいけないのではないか」と考えてしまうかもしれませんが、一番大切なのは、「あなたのことを大切に思っている」という意思表示。リスペクトの気持ちがあれば、気になったことを聞いて良いと思います。

ライフくん:すごく素敵なお話ですね。

松岡:トランスジェンダーの知人は、親にカミングアウトしてから約10年間受け入れられず、ひどい言葉もかけられたこともあるそうです。ある時をさかいに、親も理解しはじめ、今では強力なALLY(アライ)になってくれたそう。
まだまだLGBTの当事者にとってカミングアウトのハードルは高く、全てがうまく行くわけではありません。親も「自分の育て方が悪かったのではないか」と自分を責めてしまうこともあります。まずはLGBTに関する情報や、当事者に実際に会うことが大事なのかなと思います。

Q3 職場内で、ついうっかりアウティング*してしまった場合、その後どのように行動すれば被害を最小限にできますか? また、アウティングが起きたときに、周りの人たちはどのように対処するのが正解ですか?

*当事者に無断でセクシュアリティを暴露してしまうこと。

松岡:もし、うっかり言ってしまった場合、まずは本人に謝罪し、誰に伝えてしまったのかを伝えることが重要でしょう。その上で、話してしまった相手には、「当事者の方は、この範囲にしかカミングアウトしていないみたいだから、ここで留めておいて」と必ず伝えましょう。まず何よりも、本人に確認するということが大事なのではないかなと思います。

アウティングは危険な行為なので、してはいけないことですが、もちろん当事者から同意を得れば、その範囲にだけ話すのは何も問題はありません。また、匿名の相談窓口などもありますので、カミングアウトされた側も「自分としてはどうすればいいか分からない」と相談するのももちろん大丈夫です。

これは理想論になってしまうかもしれませんが、例えば、「私は7月29日生まれの獅子座です」ということを自己紹介で言っても、何の驚きも反発もありませんよね。それと同じように、「私はゲイです」と言っても何の反応も起こらないような社会になれば、そもそもアウティングという問題自体がなくなると思います。

現在の社会では、アウティングは当事者の居場所や場合によっては命を奪ってしまう可能性があり、「やってはいけないこと」と言わざるを得ません。しかし、大事なのはその先にあるんです。そもそも、ばれてしまっても何も問題にならない社会。ここを念頭に置いていただけるとうれしいです。

Q4 相手がLGBTの当事者だということを知っていて、かつ気心の知れた仲だった場合、飲み会で交際関係の話を異性愛者の人に話すのと同じように質問してもいいのでしょうか。(性格面を考慮することは最低限必要なことを前提に、異性愛者の人と比較して気をつけておくべきことはあるか)

ライフくん:同じLGBTの当事者であっても、個々にとるべきコミュニケーションの仕方は異なると思います。アイデンティティの形成の仕方もおそらくかなり違っていて、当事者の気持ちもさまざまです。積極的に自分のことを話したいからカミングアウトをしている場合もあるし、そういうことを聞かれたくないからカミングアウトをしている場合もあるかもしれません。

ただ自分自身に関して言うと、基本的には質問をされるのは構わないですし、むしろ嬉しいことだと思います。質問をしてくれるということは、関心を持ってくれているということ。性格面を考慮することはセクシュアリティを問わず当然必要なことですが、自分自身について関心を持ってもらうことって誰にとってもうれしいことだと思います。

松岡:私の経験から言えることですが、大学生のころ、初めて初対面の人たちにカミングアウトをしました。その時に「失敗したな……」と思ったのは、その後、少し腫れ物のように扱われてしまったことです。それで少し気まずい思いをしました。その一方で、大学時代に友人たちにカミングアウトしたときは、飲み会の場で、私は「とにかく聞いて欲しい」という姿勢で、みんなの疑問を解消しようと深くコミュニケーションをとりました。だんだん周囲も気軽に色々なことを聞いてくれるようになり、私のことを理解してくれました。

知らないことを知りたいと思う気持ちは誰しもあると思います。それを踏まえた上でコミュニケーションを取っていくと、お互いのモヤモヤが晴れていくことがあるのではないでしょうか。

ただし、これは先ほどライフさんもおっしゃったように、場合によっては聞かれたくない人もいるかもしれません。私が気を付けていることは、「ワンクッション置く」ということです。基本的には信頼関係がある前提で、気になったことを聞いていいと思いますが、もし「これを聞いても大丈夫かな……」と懸念があるけど聞いてみたい質問があれば、「○○について聞きたいんだけど、聞いてもいいですか?」とワンクッションを入れると、当事者も話すかどうか選択ができます。

逆に、当事者は「質問してもいいですよ」と言っているのに、第三者が「そんなことは繊細なことだから聞いてはいけない」と腫れ物のように扱ってしまうのは逆効果ではないかと思います。あくまでも、当事者が話したいかどうかという気持ちを尊重してください。

異性愛者の人と比較して気を付けておくべき点は、基本的には「ない」というのが答えですが、一つあるとすれば、質問の仕方にバイアスがかかっていないか気を付けることです。例えば、「彼氏はいるんですか」ではなくて「パートナーはいるんですか」というように、なるべくニュートラルな質問の仕方をするのも良いかもしれません。

Q5 周囲の人の対応についてはよく伺いますが、当事者の中で、変わっていかなければならない点や課題と考えられていることはありますか?

松岡:やはり、当事者の中でも変わっていかなければならない点はあると思っています。それは、「可視化する」ということです。今回のように企業で研修をさせていただく時は、研修する意識がある時点で、ある程度はその企業にLGBTに対するウェルカムな態勢が整っていると思います。

しかし、そういった研修をしようということすら思いつかないような企業もあります。そういうコミュニティの中では、LGBT当事者は「いない」こととして扱われてしまっていることが多い。では、そういう人たちはどうすればいいか。一つは、知識を持ってもらうこと。ただ、知識を得ても自分の大切な関係の中に当事者がいるという実感がないと、なかなか行動まで落とし込むことは難しいと思います。行動につなげるためには、まずは当事者と友だちになってもらったり、つながりを持ってもらったりすることが重要なのかなと思います。そこは、当事者の方から立ち上がって声をあげていくしかないと考えています。

私は、カミングアウトはリスクを伴うこともあるので「しなければならない」とは思っていません。「カミングアウトしてもしなくても、メリットもデメリットもない環境をつくること」が大事だと思っています。

周囲は、当事者のカミングアウトを待って、関わりの中で実感を持って腑に落とすことも大切ですが、その前に、知識を持つ。制度を整える。いつでも受け入れられる環境をつくっておく。当事者も、できる人は、できる範囲から伝えていく。ひとりひとりにできることを一歩ずつ進めていくことが大事だと思います。

<プロフィール>
松岡宗嗣(まつおか・そうし)
1994年愛知県名古屋市生まれ。一般社団法人fair代表理事。明治大学政治経済学部卒業後、どんな性のあり方でもフェアに生きられる社会をめざし、fairを立ち上げ、LGBTに関する情報発信や政策提言を行う。LGBTを理解・支援したいと思う「ALLY(アライ)」を増やす日本初のキャンペーンMEIJI ALLY WEEKを主催。
●一般社団法人fair

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル 編集部
文/森脇早絵
撮影/横田達也