社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ第7弾。20歳から65歳前までの間に使える権利がある「障害年金」について、薫先生に教えてもらいましょう!

【今回のポイント】

  • 障害年金は心身が「困難」なときに支えてくれるもの
  • 受け取れるかどうかは「状態」をベースに判断される
  • 要件は3つ。該当しそうなら相談してみる価値はある

給料からいつも引かれている厚生年金保険料、自営業者なら自分で払っている国民年金保険料の負担、なかなか重いですよね。それだけの意味があるのか、ふと疑問に思ってしまうかもしれません。
いま世の中に出ている公的年金関係の多くの情報は、「老齢年金」について語られていることが多く、若いうちに役に立つという点が抜けているから不安になるわけです。

でも本当は「老後」以外にも、「重い障害状態」のときや、幼い家族などを残して亡くなったときの「遺族へのお金」という3つの役割があり、「最後の砦」として重要なシステムなんですよ。
今回から、「障害年金」を切り口に、若くても公的年金が役に立つケースをお話ししましょう。
(公的年金制度では「障害」と漢字を使って表現しています)

※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。金額などもわかりやすくするために単純化しています。また、詳細な説明を省略しているため、例外など一概に言えない部分まで触れていません。 

■障害年金は心身が「困難」なときに支えてくれるもの

「障害」というと手足などの「体」が不自由な状態がイメージされやすいですが、がんなど内臓の病気でも、日常生活や仕事をすることがかなり難しい状態で、要件を満たせば障害年金を受け取れます。

年齢的には20歳から65歳前までなので、老後の年金とは逆に若い時期に権利がある年金です。

年金額は会社員と自営業者で異なります。給与や加入年数などにより人それぞれですが、例としては【表1】のようになります(ケースバイケースです)。

この金額がその障害の状態が続く間受け取れるため、たとえば【表1】の会社員の障害等級が2級なら年119万円となり、5年受給すると約600万円、10年なら約1200万円にもなります。治療や生活に十分とは言えないかもしれませんが、生活の下支えとして大切な年金となります。

【表1】障害年金の例(年額)※2019年11月時点

障害等級 会社員 自営業者
1級 約148.9万円 約97.5万円
2級 約119万円 約78万円
3級 最低保障
約58.5万円
なし

※障害等級は1級が一番重く、2級→3級の順に軽くなります。
※会社員例…年齢35歳、厚生年金加入期間の平均報酬25万円/月の場合。厚生年金と国民年金の合計額。
※配偶者や子の加算は収入により付加されない場合があります。

■受け取れるかどうかは「状態」をベースに判断される

では、どういった状態なら障害年金を受け取れるのでしょうか。
実はケースバイケースで「○○がんなら受け取れる」というように、病名とは必ずしもリンクしていません。

人工肛門を造設したり、人工膀胱・尿路変向術を受けたり、咽頭を全摘出したといった明確な身体的な状態の変化で「ほぼ○級」と絞れる場合もありますが、【表2】の日常生活や仕事の「状態」をはじめとしたさまざまな指標や検査結果を元に総合的に判断されます。

【表2】を見ると、がんのせいで体全体が非常に弱ってしまった場合や、抗がん剤など、治療による衰弱でも請求できる可能性があることがわかります。たとえば倦怠感や嘔吐、貧血による全体的な衰弱といったケースです。

また、仕事をしていると受給できないわけでもありません。一概にダメなわけではなく、以前できていた事ができないとか、出社していてもかなりの時間を休息に充てる必要があるなど、仕事をするのに非常に大きな支障がある(会社や周囲のサポートがあるから出社できている)場合も該当する可能性があります。

【表2】障害状態に該当するかどうかの「状態」による区分例

障害等級 状態
1級 ほぼ寝たきりで、活動の範囲はベット周辺に限られ、常に介助が必要。
2級 日中も半日程度は寝たきりで、屋外への外出は一人ではほぼ不可能。
身の回りのことはある程度できるが、しばしば介助が必要。
3級 日中、半日程度は起きている。歩行や身の回りのことはできる。
時々少し介助が必要。労働はできないか、軽労働程度。

※あくまでも例であり、要件の抜粋です。この状態だけを要件に等級が決まるわけではないため、上記の状態でも等級に該当しない場合や、想定した等級ではない場合もあります。

■要件は3つ。該当しそうなら相談してみる価値はある

本来は老後に受け取る予定の年金を前倒しで受け取るわけですから、障害年金受給可能と認定されるには高いハードル(要件)がいくつかあります。

【要件1】初診日に公的年金制度に加入していること
初診日とは、その病気で初めて病院へ行った日のことです。
「胃がムカムカする」と病院Aへ行き、結果として胃がんとわかったのが別の病院Bだったとしても、最初の病院Aへ行った日が初診日になります。

会社員なら、初診日に厚生年金に加入していることになりますから、第一要件クリアです。
自営業者やフリーター、学生、退職後・転職前の方、そしてその配偶者などが加入するのは国民年金ですから、自分で加入手続きをしているかどうかが非常に重要です。

20歳~60歳までのケースを想定した要件です。

【要件2】保険料をきちんと払っていること
基本要件は20歳から初診日の2か月前までの間のうち、2/3以上の期間会社員でいたか、国民年金保険料を払っていることが要件です(これを「2/3要件」と言います)。

もしも国民年金保険料の支払いが難しい場合や学生などは「免除」や「納付猶予制度」を利用しましょう。実際には保険料を払っていなくても、この「要件2」に関しては保険料納付済期間と同様に当該要件の対象期間になります。 

また、「実は昔保険料支払いができていなくて2/3要件ではアウト」な場合でも、救済措置があるので安心してください。
初診日の2か月前から過去1年間に未納がなければギリギリセーフ(これを「直近1年要件」と言います)。

転職のスキマなどで国民年金を払っていない期間がある人は、直近1年の間に未納があると障害年金をもらえない可能性があるので要注意です。
その場合は「初診日」より前に納付すればセーフなので、今のうちに過去の保険料を払って、もしものときの障害年金の権利を確保しておくことをおすすめします。

(直近一年要件の例)
もし2019年11月5日が初診日なら、2019年11月4日までに2018年10月から2019年9月までの1年間を払ってあればセーフです。

【要件3】認定日に所定の障害の状態にある
認定日は原則、初診日から1年6ヶ月後です。その時の障害状態が障害等級に該当するかどうかがポイントになります。

なお、障害者「手帳の等級」と障害「年金の等級」はリンクしていないため、手帳が2級でも障害年金の等級では3級といった具合に、結果が異なることがあります。逆に手帳の等級が軽い場合や、手帳を持っていない場合でも障害年金を受け取れるケースもあります。

障害年金は長期的に見れば、先の【表1】のケースなら5年で600万円、10年で1200万円の価値があります(その後も存命で、所定の障害状態が継続していればずっと受け取れます)。

納付要件でアウトになり、みすみす権利を取りこぼすことのないよう気をつけるとともに、がんによる全身の衰弱や抗がん剤による副作用などでも受給できる可能性がある点を覚えておくと良いでしょう。

そして、いつかもしも自分や身近な人が該当するか気になるケースに遭遇したときは、障害年金を扱っている社会保険労務士や年金事務所等へ相談してみてください。

※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。金額などもわかりやすくするために単純化しています。また、詳細な説明を省略しているため、例外など一概に言えない部分まで触れていません。

<クレジット>
●なごみFP・社労士事務所 中村 薫

<プロフィール>
1990年より都内の信用金庫に勤務。退職後数ヶ月間米国に留学し、航空機操縦士(パイロット)ライセンスを取得。訓練中に腰を痛め米国で病院へ行き、帰国後日本の保険会社から保険金を受け取る。この経験から保険の有用性を感じ1993年に大手生命保険会社の営業職員となり、1995年より損害保険の代理店業務を開始。1996年にAFP、翌年にCFP®を取得し、1997年にFPとして独立開業。2015年に社会保険労務士業務開始。キャリア・コンサルタント、終活カウンセラー、宅地建物取引士の有資格者でもある。