社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ第8弾。20歳から65歳前までの間に使える権利がある「障害年金」について、薫先生に教えてもらいましょう! 今回は、事故が原因で障害が生じた場合についてです。

※障害基礎年金については、20歳前や、60歳以上65歳未満(年金制度に加入していない期間)で、日本国内に住んでいる間に初診日があるときも対象に含みます。

【今回のポイント】

  • 事故が原因で障害が生じたときも障害年金を受け取れる
  • 「障害状態」の基準は?
  • 事故で脳に影響が生じた場合
  • 事故独特の注意点
  • 障害年金を受け取るための3要件

若くても対象になった場合に受け取れる「障害年金」について、前回からお伝えをしています。今回は事故で障害が残ってしまった場合についてご紹介します。
(公的年金制度では「障害」と漢字を使って表現しています)

※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、詳細な説明を省略しているため、例外など一概に言えない部分まで触れていません。

■事故が原因で障害が生じたときも障害年金を受け取れる

障害年金は日常生活を送るのが非常に困難だったり、仕事をするのがかなり難しい状態のときに受け取れます。
原因は限定されていません。レジャー中や日常生活、仕事中に起きた事故が原因で生じた障害によって、生活や仕事が制限されたときも、障害年金の対象となることがあります。
公的年金は「保険」制度ですから、きちんと手続きをして、保険料を納付している人が対象となります。反対に手続きをしていなければ、イザというときに助けてもらえません。受給のための要件をしっかり確認しておきましょう。

会社員の方は、ほとんどの場合は会社が保険料の納付等の手続きをしてくれますから、大丈夫でしょう。
学生や自営業の世帯、失業中の方などで、もしも収入が少なくて国民年金を払うのが難しいときは、役所や年金事務所に相談して、免除などの手続きをしておくことが重要です。

■「障害状態」に該当するかの基準は?

どのくらい身体が不自由な状態だと障害年金を受け取れるのか、気になるところですよね。
実際にはかなり細かく規定されていて、専門用語でカチカチなので、抜粋してわかりやすい用語に直して【表1】にまとめました。

【表1】障害状態に該当するかどうかの例(手・体幹・足について)

等級 状態
1級 両腕を失った、もしくは全く使えない状態
両手の指をすべて失った場合
体幹の障害のため座っていることができない、もしくは立ち上がれない
両足が全く使えない状態
両足の足首より下を失った場合
2級 両手のおや指+ひとさし指または中指を失った場合、もしくは全く使えない状態
片腕が全く使えない状態
体幹の障害のため歩けない状態
両足のすべての指を失った場合
足首より上の位置で片足を失った場合
3級 片手の親指とひとさし指に加えて他の2本が使えない状態
両足のすべての指が使えない状態

※あくまでも例であり、要件の抜粋です。この状態だけを要件に等級が決まるわけではないため、上記の状態と同じでも等級に該当しなかったり、想定した等級ではない場合もあります。
(参考)上肢 体幹・脊柱 下肢

パッと見てわかりやすい基準を表にしましたが、事故による影響は手・体幹・足以外にも、内蔵や目、耳などさまざまな部分に現れる可能性があります。それぞれに基準があり、該当すれば障害年金を受けられます。

■事故で脳に影響が生じた場合(主に高次脳機能障害のこと)

脳の障害で体に影響がある場合は、【表1】のような具体的な身体の機能の面で障害状態に該当するかどうかが判断されます。

ただ、身体の機能ではなく、行動に影響が生じることもあります。
たとえば記憶や言語、計算の能力など、病気やケガの後に、以前はできたことができなくなったり、怒りっぽく(抑えられなく)なったり、意欲低下が激しいといった場合です。

この影響で業務に多大な支障が出たり、同僚との関係が悪化したりして仕事ができなくなったり、日常生活が非常に困難な状況となると、障害状態に認定される場合もあるのです。

とはいえ行動の変化は確認が難しく、障害状態に該当するかの判断が難しくなります。日頃から、家族や職場の同僚などが、行動の変化やどのようなサポートを行っているかなどをきめ細かく記録するといった準備が大切になります。申請する場合は、障害年金を扱っている社会保険労務士に手助けを依頼したほうがスムーズかもしれません。

■事故特有の注意点

事故で障害が生じた場合のうち、交通事故のように第三者の過失で障害状態になる場合もあります。
その場合には、相手から受け取る損害賠償額が障害年金の受給に影響します。
この場合、相手から受け取る賠償額には、「生活補償」のための金額も含まれているはずなので、生活補償部分の金額は公的年金の役割と重複します。

ちょっと話がずれますが、家屋の損害を補償する火災保険は、たくさん保険を契約していても補償の範囲は元の家と同レベルまでとなっています。「火事に遭ったら保険金をたくさんもらえて前より豪華な家が建った」のような不適切な事例が起きないようにするためです。

公的年金も最低補償のためのセーフティネットの保険という位置づけですから、相手から賠償金などを受け取れる場合は一定の範囲(事故から3年分)で年金が停止されることがあります。請求手続きの際、相手やその保険会社との交渉状況も確認されるので、資料はしっかり保存しておくようにしましょう。

そのほかにも、事故後しばらく経ってから後遺症が分かった場合。本来受け取れたはずの年金を、受け取れていなかったということも起きかねません。
そういった場合は、障害年金の手続きを昔にさかのぼって行えます(年金を受けられるのは最長で過去5年まで)。自分や身近な人が該当するか気になるときは、障害年金を扱っている社会保険労務士や年金事務所等へ相談してみてください。

■障害年金を受け取るための3要件

最後にもう一度、障害年金を受け取るために大切なことをおさらいしましょう。
公的年金の障害年金を受け取るにはハードル(要件)が3つあります。

【要件1】初診日に公的年金制度に加入していること
【要件2】保険料をきちんと払っていること
【要件3】認定日に所定の障害の状態にあること

この3要件については前回の記事の最後にまとめてありますので合わせてご覧ください。

※本記事では、専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、詳細な説明を省略しているため、例外など一概に言えない部分まで触れていません。

<クレジット>
●なごみFP・社労士事務所 中村薫

<プロフィール>
1990年より都内の信用金庫に勤務。退職後数ヶ月間米国に留学し、航空機操縦士(パイロット)ライセンスを取得。訓練中に腰を痛め米国で病院へ行き、帰国後日本の保険会社から保険金を受け取る。この経験から保険の有用性を感じ1993年に大手生命保険会社の営業職員となり、1995年より損害保険の代理店業務を開始。1996年にAFP、翌年にCFP®を取得し、1997年にFPとして独立開業。2015年に社会保険労務士業務開始。キャリア・コンサルタント、終活カウンセラー、宅地建物取引士の有資格者でもある。