黒田尚子さん(黒田尚子FPオフィス代表)

世の中、副業(複業)という言葉をよく聞くようになりました。副業を解禁する会社が増え、副業に関する書籍も多数発刊され、ネット上でも人気の副業ランキングといった情報が氾濫しています。そんなトレンドに乗り切れないというのが、今回の相談者さんの悩みです。本業に専念して、キャリアアップをしていきたいという自分の考え方は古いのか、はたして時代に逆行しているのか。さて、黒田先生はどのように回答するのでしょうか?

【相談】
30代の会社員です。がんばって副業をしないと収入が増えないと言われていますが、私は本業を一生懸命やって、少しずつでもいいからお給料を上げていきたいタイプ。やれ、副業の時代だとか働き方も多様性が必要だという世の中の流れにイマイチ乗り切れません。副業をやるのが当然という考えは私には重く感じられるし、なんだかもやもやします。そんな私って時代に乗り遅れているのでしょうか。考え方が古いのでしょうか?(30代・女性)

■自分は何のために働いているのか

いまは、人生における働き方が転換点を迎え、大きく見直されている時代です。リンダ・グラットン氏の著書『ワーク・シフト』(プレジデント社)にもあるように、いま多くの人が働き方の多様性について考え始めています。副業に関する情報が氾濫し、副業を始める人が急増している。そんな印象もありますよね。

副業には興味がない相談者さんからすれば、そうした流れが重く感じてしまうというのはよくわかります。相談者さんは、きっと一生懸命に真面目にていねいにお仕事をされている方ではないでしょうか。

結論からいえば、本業をがんばりたい、この道を進みたいと考えていて、時間的にも精神的にも余裕がないのであれば、無理して副業に手を出す必要はありません。副業に関するトレンドに流されず、自分がやりたいことに専念するのが一番だと思います。

副業も投資と同じ。みながやっているから自分も、などと考えずに我が道を行きましょう。副業と言っても、平日の夜や土日の休日のバイトや、在宅ワーク、趣味を活かしてハンドメイドの販売、ブログや動画配信などなど。インターネット環境の普及によって、一昔前では想像もつかなかった副業が登場しています。

でも、実際には、それにまつわる労力やコストを考えるとけっこう面倒なものなんですよ。本業以外でお金を稼いだら、税金が発生する可能性もありますからね。決してパラダイスではない。本業とバランスを取るのもそう簡単ではないし、何がなんでもやった方がいい、なんてことはありません。

でもね。これだけ働き方の多様性が叫ばれている時代ですから、頭ごなしに副業を否定するのではなく、いま自分が何のために働いているのか、見つめ直してみてはいかがでしょう。良い機会ですよ。

■仕事には4つの種類がある

仕事に費やしている時間は1日8時間。これだけで1日の1/3です。もっと長いという人も大勢いるでしょう。私たちは1日の大半を仕事に使っています。それだけ時間が長いのですから、「仕事=お金を稼ぐ手段」という図式からいったん離れて、仕事や働くことについて考えてみませんか。

仕事には4つのRまたはLがあります。

1つ目はライスワーク(RICE WORK)。ライスというのは生活の糧ですね。食べるため、お金を稼ぐために仕事をすることです。2つ目はライクワーク(LIKE WORK)。「好き」なことを仕事にする。仕事を好きになるということです。

3つ目はライフワーク(LIFE WORK)。生涯をかけてやっていきたいと思える。そんなお仕事です。4つ目がライトワーク、この「ライト」には2つの意味があって、一つは「RIGHT」(正しい)。もう一つは「LIGHT」。人を照らすという意味の「ライト」です。
自分が正しいと思える仕事をする。人に夢や希望を与える仕事をするという意味でしょうか。

この4つは別に、順番を示したものではありません。ライスワーク(RICE)からライクワーク(LIKE)、ライフワーク(LIFE)に移行し、定年退職をしてからボランティアに従事して、ライトワーク(RIGHT,LIGHT)をがんばるのもいいし、もちろん若いうちからライトワーク(RIGHT,LIGHT)をやってもいい。早い段階でライクワーク(LIKE)を見つけ、それがライスワーク(RICE)になり、ライフワーク(LIFE)にもなっているという幸運な人もいるでしょう。

さあ、相談者さんの本業はこれらのどれに該当しますか。

■仕事を「自分の視野を広めていくため」と考えてみては

おそらく多くの人にとって、仕事はお金を稼ぐためのものです。でも、生活のためだけに働くライスワーク(RICE)だけではしんどいと思いませんか?

お金を稼ぐために働かないといけない。そういった「HAVE TO」の発想で仕事をしているとどうしてもつらくなると思うのです。

人生100年。相談者さんは30代、まだまだ先は長い。これからずっと働いていくのだから、働く意味について考えてみましょうよ。その際、仕事=ライスワーク(RICE)だという発想からはちょっと離れてみてくださいね。

いま自分がやっている仕事を一生懸命やるのも素敵なことですが、仕事を「自分の視野を広めていくための手段」であると考えると、副業についても気持ちが楽になるはずです。

誰も相談者さんに強制はできません。副業をするもしないも、決めるのは相談者さん。だからこそ、自分のいまの仕事や仕事観について見つめ直してみてはいかがでしょう。思わぬ選択肢が登場するかもしれませんよ。

■先輩たちの歩みを参考にしてみて

副業に関するニュースを聞いてもやもやするという相談者さんは、いまもしかしたら、仕事に関して、あれこれ思い惑う時期に来ているのかもしれませんね。

本業や副業について迷ったり、しんどいなと思ったりしたときに効果的なのは、ちょっと先を走っている先輩社員の姿を観察してみることです。こういう風になりたいな、こういう考え方は素敵だなと思える人。近くに心当たりはありませんか?

身近にいなくても、例えば雑誌やWebの記事、テレビ番組などにも参考になるケースが出ていると思います。人生いろいろ。50代を過ぎてからライフワーク(LIFE)を見つける人もいるし、ライトワーク(RIGHT,LIGHT)をしっかりとビジネスにしている人、社会的貢献とライスワーク(RICE)を両立させているという方もいます。副業が本業に発展したという人もいるでしょう。

まずは、仕事はお金を稼ぐために必死になってやっていくもの、というフィルターをはずしてみる。そして、先輩たちの歩みを参考に、「自分はいったいなんのために働いているのか」を今一度、自分に問い直してみましょう。

この先、いまの仕事を続けてキャリアアップしていくにしても、転職あるいは副業を始めるにしても、大切なステップです。もやもやしているということはちょうどその時期だと考えて、仕事についての自分の考えを客観的に見つめてみてください。相談者さんにとって、納得のいく答えがみつかることを祈っています。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FP オフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子