佐倉由枝さん(株式会社マークス クリエイティブセンター部長、手帳・ノートブランド「EDiT」ブランドマネジャー)

日本文具大賞デザイン部門グランプリを受賞した「1日1ページ手帳」や、クリエイティブ思考や情報分析を助ける「アイデア用ノート」などで人気を博している手帳・ノートのブランド「EDiT」。

そのブランドから2017年に登場したのが、“40代からはじめるエンディングノート”をうたった「大人のライフログ用ノート」。これは、40代という人生の折り返し地点に立った人が、その後の人生をどう生きたいかを見つめ直すためのツールです。

過去を振り返りつつ長期的な未来を考えるライフログ用ノートの構成は、生命保険を検討するお客さまの体験するプロセスと通じるものがあります。その体験にさらに寄り添うためには何が必要か、日々試行錯誤するライフネット生命のスタッフが、「大人のライフログ用ノート」を企画・製作した、株式会社マークスのクリエイティブセンター部長、佐倉由枝さんにお話を伺いました。

■「40代からはじめるエンディングノート」に込めた思い

──最初に、「大人のライフログ用ノート」を企画したきっかけを教えてください。

佐倉:「大人のライフログ用ノート」は、EDiTというブランドで扱うシリーズの一つです。来年、10周年を迎えるEDiTのブランドコンセプトは「人生を編集する」。会社自体が編集会社としてのバックグラウンドを持っており、私自身もEDiTを開発した当時は出版部門の書籍編集者としても働いていて、「編集者が作っている手帳」という意味も持っています。

スケジュール手帳は1年単位のものがほとんどですが、もっと長いスパンで人生を考えるのに適したノートを出せればと常々思っていました。自分が40代になったときに、生き方や考え方が今までとは違ってくることを実感するようになり、それをきっかけに企画しました。

ちょうどその頃に「人生100年時代」というキーワードも出てきて、雑誌やウェブマガジンでも40代女性の新しい生き方を考えるものが増えてきていました。自分にとってだけでなく、社会の流れとしても、こうしたノートの必要性を感じましたね。

──40代は、親世代が亡くなるなどの場面に遭遇して、はたと自分の人生を考える時期ですよね。

「EDiT 大人のライフログ用ノート」の自分年表ページ「私の半生年表・未来年表」記入例

佐倉:人って、死を意識したり、終わりが見えたりすると、より深く人生や自分自身について考えるようになると思うんですよね。

従来のエンディングノートは、自分が亡くなった後の家族のために残すものですが、このライフログ用ノートは自分の未来のためにつけるものなんです。ですがやはり「終わり」も意識してもらいたいと思い、この「40代からはじめるエンディングノート」というキャッチコピーをつけました。

今の時代って、生き方も働き方も、住む場所も働く場所も、昔に比べて選択肢が増えているんですよね。その分、悩むことも、考えなくてはいけないことも多くなっている。なので、40代に入ってからもう一度人生を考えなおしてほしい、というメッセージも込めて作っています。

過去を振り返らないと未来が見えてこないので、過去があって、現在があって、未来がある、という時間軸がこのノートのポイントになっています。

──このノートにはいろいろな項目があって、見ているだけでも日常から離れていく感じがあって良いですね。書く際におすすめの順番はありますか?

佐倉:やはり「過去」の記録から始めた方が書きやすいと思います。「未来」のページは後回しにしてもよいので、これまで果たせなかったことや好きなことなど、書きやすいものから書くのがおすすめです。付箋に書いたものを貼って、後で整理しながら清書するのも良いかもしれません。

■ノートを書くことで、自分の人生が愛おしくなる体験を

──実際に使っている方からの反響はありましたか?

佐倉:以前からEDiTシリーズの手帳をご愛用いただいているキャリアコンサルタントの女性がいらっしゃって、いろんな人のキャリアカウンセリングをしているうちに、「大人のライフログ用ノート」のようなツールの必要性を実感していたそうです。このノートが出た時にもとても喜んでいただきました。

実は彼女が、7月に大腸がんになったんです。ステージⅢで大変な手術を受けられましたが、「大人のライフログ用ノート」を書くことで、自分の人生が充実していることを再認識されたとおっしゃっていただきました。

──<佐倉さんに届いたユーザーからのメール>──
もともと30代からエンディングノートは書いていたので、
死んだ後や意識がなくなった後に、周りに迷惑をかけないようにと
思って書いていました。

40代になってこのノートの存在を知り、
今後の人生を考えるのに使っていましたが、
病気になって改めてこのノートを見直したときに、
周りに迷惑をかけるかかけないかではなく、
周りの人たちや今までの出会い、経験にとても感謝できました。
過去を振り返ってもどんな経験も今につながっていると思うと
とても幸せに感じられています。自分の人生がとても愛おしいです。

何より後悔していることがなく、これからやりたいことが
たくさんあふれてきたことも、生きる希望となっています。

死ぬことへの怖さからも救われています。
余命が50年でも1週間でも、今日やりたいことって
変わらないなと思ったら、怖れから解放された気がします。

病気をしてから、お葬式や介護のことなど、
どんなものを希望するのかなどを書いています。
お葬式のところなんて、書いているとワクワクします。
やはり感謝が溢れてくるんですよ。
なので家族や友人たちに最後の恩返しができるお葬式を企画しました^^。


 

佐倉:このメッセージをいただいたときは、私も胸が熱くなって少し涙ぐみました。普通のエンディングノートは残された人への情報が中心ですけれど、自分の人生を愛おしく思えたり、周りの人への感謝が出てきたり……それが、このノートを書くことの効果なのかもしれません。

■未来に向けて何を軸にしたいかが見えてくる

──他のエンディングノートをいくつか見てみると、その多くは、自分の死後、実務的に周囲を困らせないことを重視して作られています。けれど、EDiTの「大人のライフログ用ノート」は全然性格の違うものですよね。過去を振り返りつつ、未来を設計していく、まさにライフシフトを考える作りになっていると感じました。

佐倉:私は団塊ジュニア世代なのですが、同世代にも同じようにライフシフトについて考えている人は多いはずです。ただ日々に流されて考える機会がないままの人も多いと思うので、ライフシフトに関するツールは開発しましたが、それだけではなく、啓もう活動もしたいな、と考えています。

──実は、「大人のライフログ用ノート」を実際につけ始めてみたんですが……。

佐倉:重いでしょう(笑)?

──はい、ずっしり(笑)。ちゃんと考えないと書けないですよね。でも、改めて自分の人生を見つめ直すのにすごく良いなと思いました。

佐倉:私、よく「自分年表」を書くんですよ。20代から、1年に1回は書いてます。過去のことだけではなく、ざっくりとした未来も書いてみることで、自分の考えがまとまってきて、これからの人生についての意識が高まっていくんです。

日々色々なことに流されて、考えがブレてしまうこともあると思いますが、そういうときに自分年表を書いて、過去を振り返って未来を思い描いてみると、自分の人生をどう生きていきたいか、自分らしく生きるにはどうしたらいいかが見えてくるように思います。

──自分年表は、何を軸に書いていますか?

佐倉:基本は過去の棚卸しですね。自分が迷った時に、自分の過去を一度整理すると、「これまでがんばってきたな、今まで過ごしてきた日々は幸せだったんだな(笑)」ということが可視化されて、今の自分自身に自信が持てて、現在の立ち位置がわかってきます。

──キャリア教育などでも、これからの人生を考えるときに、まずは自身の過去の棚卸をしますね。

佐倉:このノートの最初にも、自分のプロフィールや、ライフバランスの軸について書くエリアがあります。それを書くと、キャリアか暮らしか自己表現か、何が自分にとって優先順位が高いのか、未来に向けて何を軸にしたいのかが見えてくると思います。

EDiT 「大人のライフログ用ノート」
佐倉さんが開発に携わった、EDiTのノートシリーズのひとつ。キャッチコピーは「40代からはじめるエンディングノート」。「私の、過去・現在・未来」、「私の、記憶・記録」、「今、伝えたいこと」の3つのチャプターで、これまでの半生とこれからの半生について記録できるノートとなっている。また、一般的なエンディングノートと同じく「もしものとき」に備える、保険や資産に関する記録用の別冊データノートも付属。

後編では、デジタル時代に「書く」ことを始める・続けるコツや、ライフネット生命でのアナログメディアの活用のアイデアなどについて伺います。
(つづく)

<プロフィール>
佐倉由枝
株式会社マークス クリエイティブセンター部長、手帳・ノートブランド「EDiT」ブランドマネジャー。同社にて、手帳の商品企画や出版部門「エディシォン・ドゥ・パリ」の書籍編集などを担当し、「EDiT」は2010年の立ち上げより企画開発に従事。2016年より現職。

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/年永亜美(ライフネットジャーナル オンライン 編集部)
撮影/村上悦子