「アクロストン」の性教育ワークショップで使われている手づくりの教材

子どもから大人まで、人間の体の仕組みを正しく学ぶ性教育の大切さを、ワークショップを通じて発信している医師の夫婦「アクロストン」。前編では、子どもたちがワークショップから得る知識や学びについて伺いました。

国際的には、幼少期から、成長に合わせて長いスパンで学んでいくことが理想とされている性教育。後編では、家庭内で『性』に関して、どのようなコミュニケーションを取ることが理想なのかを掘り下げていきます。(前編はこちら)

■親や周囲の大人、友人との「対話」が不可欠

──前編ではワークショップの内容について伺いました。男性と女性の体の仕組みから、受精、赤ちゃんができるまで、段階を追って学んでいくわけなんですね。

みさと:そうです。あと、これは紹介した両方のワークショップで説明するのですが、最後に必ず「子宮と卵巣があるのが女の人の体、おちんちんと精巣があると男の人の体、と話したけれど、自分が男だと思うか、女だと思うかは自分で決めていいんだよ」ということも伝えています。

──生物学的な仕組みだけではなく、ジェンダーの話もされるんですね。

たかお:子どもたちは「自分の家族」という身近なモデルケースしか知らないので、いろいろな家族の形がある、ということはちゃんと伝えたいな、と思っているんです。お父さんだけの場合もあれば、お母さんだけの場合もあり、同性のカップルもいる。結婚しない人もいるし、子どもがいない人もいます。

「男と女は対になっていて、子どもをつくる。それが家庭」といったひとつだけの考え方を刷り込んでしまうと、今後子どもたちの選択肢が狭まってしまう。人生は人それぞれなので、「自由だよ」というのは伝えたいんです。

──ワークショップをしている中で、子どもたちや、親の反応で印象的だったものはありますか?

たかお:受精卵ができる仕組みについて、一通り説明し終わった後、一人の子がとっても驚いて、「私もそれで生まれてきたの!?」と、後ろにいたお母さんに向かって聞いたんです。なかなか手強い質問ですよね。しかも、参加者がみんな見ている状況で。そんな中でも、そのお母さんはちゃんと真正面から受け止めて、「だから、あなたはここにいるのよ」と優しく答えました。

「アクロストン夫」たかおさん

みさと:子どもが、科学的な事実からきちんと仕組みを理解して、自分ごととして落とし込み、それを親に質問することができた、という過程も大切だし、しっかり向き合うことができたお母さんの姿勢も素晴らしいものだと思いました。

ユネスコのガイドラインにもあるように、性教育は広い範囲をカバーするので、年齢や発達に合わせて長く学んでいくべきものなんです。だから、学校の授業の1時間、ワークショップの1時間でカバーしきれるものではなく、その後も親子や、周囲の大人、友達と性に関してコミュニケーションを続けていくことが大切なんです。その入り口となるような親子の対話を見ることができて、とてもうれしかったです。

たかお:なので、「アクロストン」のワークショップは、何か特別な事情があるとき以外は、基本的に保護者の方にも来ていただいています。子どもに話しながらも、実は親に向かって伝えているということもかなりあるので。

みさと:生理に特化したワークショップのプログラムもあるのですが、そこではお父さんたちの参加もあります。ナプキンだけでなく、タンポンや月経カップなどのさまざまな生理用品についても伝えていて、中にはお母さんでも知らないこともあるんです。そんな中でも、お父さんがとても真剣に聞いてくださっています。

──親に向けてのアプローチはとても大切ですよね。ただ、性のことについて「どんなふうに伝えたらいいのか」と悩んでいる親も多いと思います。実際に教えている立場から、親へのアドバイスをお願いします。

みさと:確かに、「教えよう」と思って大人から持ちかけるのはとても難しいですよね。だから、逆に子どもからの質問をうまく拾っていくのがいいと思います。一番よくあるのが、「赤ちゃんって、どうやってできるの?」という質問です。その時に、適当なことを言ったりはぐらかしたりせず、きちんと伝えることが大事。

「アクロストン妻」みさとさん

みさと:間違っていてもいいんです。ちょっと逃げたり、ごまかしたりすると、一回だけならまだしもそれが何度も続けば、子どもは「これってお母さんとお父さんにしちゃいけない話なんだ」と敏感に感じ取ります。一度、家庭にそんな空気ができ上がってしまうと、その後、何かトラブルが起きた時にも発覚しづらくなってしまいます。

■正しい知識があれば、適切に対処できる

──なるほど、しっかり質問に向き合って、その後も長期的に性について話しやすくする、という環境をつくってあげることが大切なんですね。

たかお:そうです。これは性のトピックに限る話ではなく、子どもの質問って、「なんで虹って見えるの?」みたいなものと一緒で、純粋な好奇心からきているんですよね。「赤ちゃんって、どうやってできるの?」もそう。だから、子どもの「なんで?」を無下にしない、ということを日頃から心がければ大丈夫だと思います。僕たちも自分の子どもにいつもできているかと問われると、ちょっと自信がないのですが(笑)。

ライフネット生命社員:うちの場合なのですが、息子が小学4年生くらいのときに、「赤ちゃんってどうやってできるの?」と聞いてきまして。とっさに出てきたのが「鮭の受精って理科の授業でやったよね?」という切り返しでした。オスとメスの鮭が川で横並びになって産卵しているあの写真を思い出してごらん、と。イクラとして食べるあの卵に精子をかけて受精するわけだよね、人間も一緒だよ! と、我ながら「これで大丈夫か……」と不安になる回答でしたが、息子は「そうなんだ、なるほどね」と素直に受け止めていました。それ以来理科的アプローチに徹しています。そして、6年生になったので本棚に「はたらく細胞BLACK」(講談社・原作:原田重光 漫画:初嘉屋一生 監修:清水茜)を置いておきました。こじらせますかね……。

たかお&みさと:いえいえ、すごく良いと思いますよ~。非常にユニーク!(笑)そうやってオープンに会話することが一番ですから。鮭の受精はたとえとして面白い!

ライフネット生命社員:本当ですか! それを聞いて安心しました。まあそれ以来は、溺愛しているペットの猫と結婚するとか、猫と僕の赤ちゃんならかわいいよね、とかは言わなくなりました。種を超えて子どもを作ることはできない、もしそれが可能なら、猫と人間から産まれた子がいるはずでしょう? いないのには理由があるんだよ、とはっきり伝えたのもよかったのかもしれません……(笑)。


──ワークショップの活動を始めてみて、新たに気づいたことや、意外な発見などはありましたか?

みさと:予想していたよりも、ニーズがあることに驚きました。思ったより、世の中に受け入れられたな、と。細々とやっていければいいや、くらいの感覚だったんですけれど。

たかお:こんなインタビューを受けるとも思いませんでしたし(笑)。活動を始めた初期の頃に、京都の「梟(ふくろう)文庫」という私設図書館の方がブログを見て、「ぜひワークショップをやって欲しい」とメッセージをくださったんです。対象者は小学校1年生から大人までで、1日4回のワークショップで年齢ごとに分けたのですが、大人の参加希望者が予想以上に多かったので、大人だけの回をつくったくらいでした。

中には高校の養護教諭の方も参加されていて、子どもたちに性の話をどういうふうに伝えたらいいだろう、と真剣に考えていらっしゃったんですよね。そんな大人たちがいる、ということは、活動を始めるまでは絶対に知ることができませんでした。

■家庭に、そして社会に、性に関するトピックを

──大人は、アクロストンさんのワークショップのような性教育を学校で受ける機会がなかったと思います。子どもたちに教えるにも試行錯誤ですよね。

みさと:自分が学んでこなかったことを、子どもには伝えなければならないわけですからね。でも、子どもたちが新しい知識や感覚を身につけて大人になるということは、社会が変わることに直結すると思います。これは、私自身に子どもができたり、ワークショップで子どもたちに教えたりするようになってから実感したことです。それまでは、自分のしていることが社会に影響を与える、なんて思ってもみなかったのですが。


──今後のお二人の活動が楽しみです。新しく挑戦してみたいことはありますか?

みさと:ボードゲームと絵本をつくりたいんです。家の中で、他のおもちゃと並んで置けるような。自由に想像を膨らませることができるようなものを考えたいですね。

たかお:あとは、お台場の日本科学未来館で展示をすることです。企画展じゃなくて常設展がいいな、と。宣言するのが恥ずかしいくらい大きな夢ですが(笑)。

みさと:自然科学の、例えば宇宙についての展示の隣にあるような感じで、性に関するトピックがパブリックな場にあってもいいと思うんですよね。わたしたちのこれからの活動も、性について日常の中で自然と語り合えるような、そんな場所づくりを引き続き目指していきたいです。(了)

(前編はこちら)
「体の仕組みって面白い!」から始まる楽しい性教育──アクロストンさん

<プロフィール>
医師であり、小学生の子どもが2人いる夫婦。妻・みさとは産業医、夫・たかおは病理医として働くかたわら、2018年に「アクロストン」として活動をスタート。公立学校の保健の授業で性教育を行ったり、各地でワークショップを開催したりしている。noteでは性の知識や日々の活動、自らの子育てなどについて発信中。
●アクロストン ウェブサイト
●アクロストンnote「子ども向け+家庭でできる性教育@アクロストン」

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/清藤千秋
撮影/横田達也