社会保険労務士(社労士)でもあるファイナンシャル・プランナーの中村薫先生が教えてくれる「だれも教えてくれなかった社会保障」シリーズ第9弾。20歳から65歳前までの間に使える権利がある「障害年金」について、薫先生に教えてもらいましょう! 今回は、こころの病気が原因で障害が生じた場合についてです。

【今回のポイント】

  • 若くても心配なこころの病気も障害年金の対象です
  • どんなこころの病気だと受け取れる?
  • 障害年金の対象となる「精神の障害」の判断ポイント
  • もしものときに備えて用意しておきたいもの・残しておいたほうが良いもの
  • 障害年金を受け取るための3要件

■若くても心配なこころの病気も障害年金の対象です

障害年金は老後の年金と違って20歳から対象になるのが特徴です。
65歳になると通常は障害年金を請求できませんから、むしろ若い人のための年金制度といっても良いくらいです。

手足など身体の障害と違って、こころの病気は、そもそも病気と思われにくかったこともあり、障害年金の対象となっていることもあまり知られていないようです。
今回はその「こころの病気」で障害年金を受け取れる可能性について紹介します。
もしものときに備えて、知っておくと少し気持ちが楽になるかもしれません。
(公的年金制度では「障害」と漢字を使って表現しています)

※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、詳細な説明を省略しているため、例外など一概に言えない部分には触れていません。

■どんなこころの病気だと受け取れる?

こころの病気(以下、公的年金制度の表現に合わせて「精神の障害」とします)は、うつ病や統合失調症、知的障害、発達障害などさまざまなものがあります。どの病気なら受け取れるの? と考えがちですが、「どの病気でも受け取れる人と受け取れない人がいる」のです。

なぜなら障害年金を受け取れるかどうかの認定は病名ではなく、症状の重さが判断の基準になるからです。

身体の障害は手足の動く範囲などを数値で測れるため、わかりやすい面がありますが、精神の障害は「日常生活や仕事をするのが非常に難しい」といった状態で測るのが特徴です。とはいえその「難しさ」を計測するのは困難なので、精神の障害で年金を受け取れるかどうかは一概に言えないのです。

■障害年金の対象となる「精神の障害」の判断ポイント

これはほんの一部ですが、厚生労働省が公開している資料から、どのようなことが年金支給の判断ポイントになっているのか紹介しますね。
精神の障害に対して支給される障害年金は、障害により日常生活に継続的に制限が生じているかがひとつの判断の基準となります。
実際に判断に使われる項目について、専門用語をわかりやすい用語に直して抜粋し表にまとめてみました。

【表】精神の障害状態の重さを判断する項目の例

項目 内容のイメージ
食事 栄養バランス良く食事を作って、毎食食べられるか
清潔さなど 入浴、洗面、洗顔等ができ、季節に合った服を選べるか
お金の管理 お金のやりくり、計画的な買い物をほぼ一人でできるか
通院や服薬 定期的に病院へ通い、薬を適切に飲めているか
コミュニケーション 相手の話を聞く、自分の意思を伝える、団体行動ができるか
危機管理 危険を避けたり、必要な時に誰かに助けを求めたりできるか
日常の手続き 銀行でお金をおろしたり、きっぷを買って電車に乗ったりすることができるか

※あくまでも例であり、要件の抜粋です。この基準だけを要件に年金の受給が決まるわけではありません。各項目さまざまな切り口があります。

これらの判断のポイントは「単身で他人からのフォローを必要とせずに、きちんとできるかどうか」です。

たとえば一人暮らしの場合、家族などのフォローなしで毎日、以下のような非常に細かい日常の確認が必要になります。

【食事】
1日3食、栄養バランスの良い食事を自分で作って適量食べる

【清潔さ】
定期的にお風呂に入ったり、歯磨きしたりできる。洗濯をして清潔な衣類をTPOに合わせて選べる

【お金の管理】
必要なものを適量購入する(逆に言えば、不要なものを大量に購入していないか)。

【コミュニケーション】
相手の話を適切に理解し、自分の意志を適切に伝えられるかどうか(必要なことを伝えられずに黙ってしまうとか、逆に強い表現を使い相手を傷つけてしまうといったことがないか)。

精神の障害を理由に障害年金を請求するときは、これらについて医師の客観的な判断が必要です。

注意してほしいのは、これは判断基準の一部ということです。
他にもかなり幅広い要件がありますから、上記を見て自己判断で「該当しそう」と思えたとしても、受給要件を満たさないとされることもあります。

気になる場合は主治医に「障害年金が受給できるかについてはどのように思われますか?」など、医師の意見を確認してみたり、年金事務所等や障害年金を扱っている社会保険労務士に相談したりすることをおすすめします。

■もしものときに備えて用意しておきたいもの・残しておいたほうが良いもの

最後に、病状のことではなく、手続き上のポイントにも触れておきますね。
ここがうまく行かずに手続きを進められないこともあるくらい、実は重要なことなんです。ただ普段意識しないことなので、知らなかったために年金を請求できないといった残念な結果になることもあります。

【最重要】初診日が特定できること!

精神の障害の場合、初診日がいつだったか確定するのが少し難しい場合があります。
悩みがあって眠れず、かかりつけの内科で相談して睡眠薬を処方してもらったら、それが初診日と判断され、診察時の書類の提出を求められた……ということもあります。

あるいは5年、10年などだいぶ昔に受診して、初診の病院がわからなくなってしまうこともあるでしょう。
病院がわからないと、原則、年金請求ができないのです。まったくできないわけではないのですが、請求が非常に困難になります。この場合は障害年金専門の社会保険労務士に依頼してアドバイスをもらいながら、手続きを進められるか模索していくのが妥当かと思います。

というわけで、まだそれほど大きな病気ではないとしても、病院へ行ったときはその証拠になるものを残しておくようにしましょう。
領収書や診察券、お薬手帳などが、初診日を特定する助けになることがあります。

【重要】その後の病院の移り変わり

初診日のほかに、転院歴も大切です。
手続きにあたっては、基本的には初診日から1年半経過したときに障害の状態に該当し、病院で診断書をもらう必要があります。特に転院が多い場合などは病院名が記憶から抜けてしまって、受診の記録を示すのが難しいこともあるかもしれませんね。

軽い病気や症状が、その後の大きな病気のきっかけになることもあります。
障害年金請求では治療の経過といった請求までの経緯もたどっていきますので、何気なく受診したつもりでも、その際の受診の記録の提出を求められる場合もあります。
念のため記録は捨てずにとっておいてくださいね。

■障害年金を受け取るための3要件

公的年金の障害年金を受け取るには病状以外にも要件が3つあります。

【要件1】 初診日に公的年金制度に加入していること
【要件2】 保険料をきちんと払っていること
【要件3】 認定日に所定の障害の状態にあること

この3要件については前々回の記事の最後にまとめてありますので合わせてご覧ください。

※専門的な用語をできるだけわかりやすい用語に置き換えています。また、詳細な説明を省略しているため、すべての要件などには触れていません。
該当するかどうか気になったときは、年金事務所等や障害年金を取り扱っている社会保険労務士に相談されることをおすすめします。

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<クレジット>
●なごみFP・社労士事務所 中村 薫

<プロフィール>
1990年より都内の信用金庫に勤務。退職後数ヶ月間米国に留学し、航空機操縦士(パイロット)ライセンスを取得。訓練中に腰を痛め米国で病院へ行き、帰国後日本の保険会社から保険金を受け取る。この経験から保険の有用性を感じ1993年に大手生命保険会社の営業職員となり、1995年より損害保険の代理店業務を開始。1996年にAFP、翌年にCFP®を取得し、1997年にFPとして独立開業。2015年に社会保険労務士業務開始。キャリア・コンサルタント、終活カウンセラー、宅地建物取引士の有資格者でもある。