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「数学が得意な人って、世の中がどう見えているのだろう?」高校数学、いや、正直に言えば「タカシくんは徒歩で10分前に公園へ、リョウスケくんは自転車で15分後に…」というフレーズを聞くだけで隠れたくなる、算数ですら苦手だった身としては、数学が大好きな人の頭の中を覗いてみたくなるものです。たびたび社員ブログにも数学の話を寄せている、数理部・成川の頭の中の一部をご覧ください。

※本記事は、ライフネット生命の社員の人柄やその側面を紹介することを目的としており、内容は個人の見解です。また保険の申込を勧めるものではありません。
※文中で使用しているデータは、推計のため加工したものです。


動画投稿サイトを見ていると、「●●を歌ってみた」や「●●を弾いてみた」というものがよくあります。私にはそんな特技はないのですが、個人的にどうしても気になって「●●を計算してみた」ということが時々あります。最近は、自分の業務とは関係なく以前から気になっていた、病気の罹りやすさ(かかりやすさ)と大変さについて、土日に引き籠って計算してみました。この社員ブログを「計算結果投稿サイト」にしてしまうのもどうかと思いましたが、せっかくですので紹介させてください。かなりの長文となります。

がんや脳梗塞等、この病気に罹(かか)ると大変なので注意、という話を聞くことがあります。しかし、「あれ? 他にも大変な病気はあるはずだよね? 注意するとなると、罹りやすさも同時に考えるべきだよね?」と思うことが私にはありました。考えていくうちに、私は「よく聞く病気について『罹りやすさ』と『罹った場合の大変さ』を2つの軸として分けて考えたうえで、それらを散布図にして比べられないか」という疑問に行き着いたようです。そんなことは無理ではあるのですが、簡易的に少しであれば見ることができますので、計算から試してみたのが今回の内容です。なお、末尾の説明はご参考です。文中の誤りは、すべて私個人に属します。新型コロナウイルス感染症については触れていません。 最初に準備が3つ続きますので、お時間がある方は読み進めていただければと思います。

1つ目の準備は、傷病(病気やケガ)ごとの「罹った場合の大変さ」をどのような指標で見るかについてです。「大変さ」として連想されるのは、治療行為自体による肉体的・精神的な負担の大きさ(副作用やリハビリの大変さを含みます)や、治療に係る金銭的な負担の大きさ、治療による生活や仕事への制約の大きさ(収入の減少を含みます)、亡くなる割合の多さ等、さまざまな観点があるかと思います。

しかし、数値化しやすい指標が限られるため、今回は観点を限定しつつ簡略化して、入院や外来(入院外の通院等)に係る診療費や、入院や外来の期間の長さのみを見ていきます。ここで、診療費については、患者側の金銭的な負担の大きさを表す指標としてではなく、治療行為自体の大きさを表す指標として、自己負担分以外も含む医療機関側の診療費で見ていきます(なお、実際の金銭的な負担を考える場合、公的医療保険制度における自己負担割合や高額療養費制度を含め、各種の社会保障も視野に入れる必要があります)。期間の長さについては、入院に関する平均在院日数のデータは入手できるのですが、外来に関する平均通院日数・期間といったデータは入手しづらいため、代わりに「初診外来患者数に対する外来総患者数の比率」で見ていきます。

2つ目の準備は、傷病ごとの「罹りやすさ」をどのような指標を見るかについてです。本当は「罹患率」を見られると良いのですが、全傷病に対する一貫的なデータを入手しづらいため、代わりに「入院発生率」や「初診外来発生率」で見ていきます(なお、「受療率」というデータもありますが、これは、ある1日における患者数の人口に占める割合であり、発生率ではありません)。

これらを見ていくため、勝手ながら、以下の言葉を用意します。それぞれの基礎データや推計方法は、末尾の「ご参考」で紹介しています。一部は粗い方法での推計となります。

言葉 意味・内容
診療費 「国内のすべての医療施設における国民全員の1年間での診療費を推計したもの」を指します。薬局調剤医療費等は含まれません。
平均在院日数 「退院患者の在院日数の平均を推計したもの」を指します。
新規入院患者数 「新たに入院を始めるものについて、国内のすべての医療施設における国民全員の1年間での合計回数を推計したもの」と定義します。転院や再入院も含まれます。
初診外来患者数 「外来のうち初めて受診するものについて、国内のすべての医療施設における国民全員の1年間での合計回数を推計したもの」と定義します。傷病の疑いがあり検査のため初めて受診するものも含まれます。継続的な治療が終わった後での再度の受診や、医療施設を変えての再度の受診も含まれます。ただし、ここでは、他の医療施設からの紹介を通じての初めて受診は除きます。
外来総患者数 「それぞれの日に外来により継続的に医療を受けている者(その日に受診していない者を含む)について、国内のすべての医療施設における国民全員の1年間での延べ人数を推計したもの」と定義します。
入院発生率(国民1人あたり年間入院回数) 「新規入院患者数を国民1人あたりにして推計したもの」と定義します。1人の人が1年の間に入院する確率を延べ回数で考えたものとも言えます。
初診外来発生率(国民1人あたり年間初診外来回数) 「初診外来患者数を国民1人あたりにして推計したもの」と定義します。1人の人が1年の間に初めて受診する確率を延べ回数で考えたものとも言えます。

最後の3つ目の準備は、傷病間で比べるにあたり、傷病をどのように分類したり選定したりするかについてです。細かく分類しないとそれぞれの傷病の特徴は捉えられないのですが、今回は見やすさのため、厚生労働省が使用している「傷病大分類」のうち、国民全体の診療費(医科での入院と外来の合計)が平成29年度に1.2兆円以上だった傷病を候補として、重複する部分がないよう対象を選びました。ただし、「呼吸器系の疾患」については、風邪や花粉症等を除いたうえで、残りを肺炎と他の呼吸器系の疾患に分けて対象とします。「消化器系の疾患」については、歯科関連を除いて対象とします。複数の傷病を持つ人については、一つの傷病のみを持つかのようにそれぞれの基礎データに含まれてきます(結果として、合併症が多い傷病では特に推計が粗くなります)。

さて、準備が終わりましたので推計結果を見ていきます。本当に見たい指標とは少し異なる指標を粗い方法で推計しているため、推計値そのものではなく、傷病間での大小関係を中心に見ていきます。推計値は、全年齢・男女全体での平均的な姿を表します。また、症状が軽い人も重い人も含む平均的な姿を現します。散布図の前に、今回のすべての推計結果をまとめたものが下の表1です。

表では見づらいため、これらから一部を抜粋して、外来受診を始める人について傷病別の散布図を見てみます。横軸に罹りやすさとして初診外来発生率(表1の②)を取り、縦軸に罹った場合の大変さとして初診外来患者1人あたりの入院・外来診療費(表1の④)を取ったものが下の図1です。ここでの「初診外来」は、実際には罹患していないものの、傷病の疑いがあり検査のため受診する場合も含んでいます。

※こちらは医療機関側の診療費の推計値であり、患者側の実際の自己負担額の推計値とは異なります。

診療費の大きさという面で特に大変なのは、この図の左上で特に目立つ腎不全等(腎不全・糸球体疾患・腎尿細管間質性疾患)です。発生率は低いのですが、診療費が飛び抜けて高いです。その診療費の入院・外来の内訳(表1の⑤~⑥)を見ると、外来の割合が大きいです。また、外来の期間の長さを表す「初診外来患者数に対する外来総患者数の比率」(表1の⑧)も大きいです。腎不全等では、外来での治療が長く必要で、悪化すると透析治療等によりさらに大変になることが数字に表れているように思います。

続いて診療費が大きいものは、この図の腎不全等の下の方にある悪性新生物(ガン)や脳血管疾患、肺炎、心疾患です。その診療費の入院・外来の内訳(表1の⑤~⑥)を見ると、いずれも入院の割合が大きいです。これらの傷病では、特に入院での手術や放射線治療、薬物療法等が大変であることが数字に表れているように思います。これらの傷病は、診療費という面では腎不全等の下に現れていますが、日本人の死亡数を死因別に順位付けすると、腎不全より先に現れます。悪性新生物や脳血管疾患、心疾患のいずれも、今回の初診外来発生率は1~2%であり、実際の罹患率はおそらくその半分以下だろうと思いますが、年間での発生率ですので、長い生涯の中ではこれらの傷病は珍しくないものになってきます(なお、その場合、罹患者1人あたりの入院・外来診療費はこの図の2倍以上になります)。

一方、発生率の高さという面で注意すべきなのは、この図の右下にある他の呼吸器系の疾患(肺炎・風邪等を除く)や筋骨格系・結合組織の疾患かと思います。これらは診療費の平均という意味ではさほど大きくはないかもしれません。

そして、この図では見られないのですが、外来期間の長さという面で特に大変なのは、「初診外来患者数に対する外来総患者数の比率」(表1の⑧)が大きい高血圧性疾患や糖尿病のようです。入院を要することが相対的に少ないとはいえ、外来での生活習慣の改善や薬物治療等が長く続くとなると、やはり大変だと思います。

続いて、外来受診を始める人ではなく入院するほどの症状の人に限定して、傷病別の散布図を見てみます。横軸に罹りやすさとして入院発生率(表1の①)を取り、縦軸に罹った場合の大変さとして新規入院患者1人あたりの入院診療費(表1の③)を取ったものが下の図2です。ここでの「入院」は、転院や再入院をする場合も含んでいます。

※こちらは医療機関側の診療費の推計値であり、患者側の実際の自己負担額の推計値とは異なります。

 

先ほどの図1と見比べると、傷病の配置がかなり異なります。診療費の大きさという面で特に大変なのは、この図の左上で特に目立つ精神・行動の障害や、その下の方にある脳血管疾患です。これらは、平均在院日数(表1の⑦)も長く、結果として入院診療費も高くなっているようです。入院期間の長さという面で特に大変なのも、これらの傷病かと思います。これらの傷病は、入院するほどの症状の人だけに限定すると、外来分を除く入院分だけで治療がここまで大変ということかと思います。

一方、発生率の高さという面で注意すべきなのは、この図の右下にある悪性新生物や消化器系の疾患かと思います。ただし、悪性新生物については、一連の治療の中で再入院する例(計画的なものを含む)も多いため、延べ回数で見た入院発生率が他の傷病より高くなっています。一連の治療の中で2回程度の入院をすると仮定しそれらをまとめて考えると、入院発生率は図の半分程度になりますが、それでも発生率は相対的に高い方です(なお、その場合、新規入院患者1人あたりの入院診療費は2倍程度になります)。

以上、私の自己満足で終わってしまったかもしれませんが、さまざまな限界がある中で、傷病ごとの「罹りやすさ」と「罹った場合の大変さ」を粗くではありますが、比べられたように思います。また、傷病ごとの大変さが入院と外来で違うことも少し見られたように思います。どんなケガや病気にもならないことが理想ではありますが、傷病に向き合う際の心の準備として、今回の比較が皆さまの参考に少しでもなれば幸いです。

リスク管理部/数理部
成川


<ご参考> 推計方法の詳細
以下、一部の方への補足として、今回の推計方法の詳細を説明させていただきます。

まず、基礎データには大きく分けて以下の3つを使っています。

基礎データ 概要
患者調査
平成29年度
厚生労働省
全国の医療施設の利用者を特定の時期(9月または10月)にサンプル調査し日本全体の状況を推計したものです。
医療給付実態調査
平成29年
厚生労働省
公的医療保険制度に係る当該年度内のすべての診療報酬明細書を調査対象としたものです。実際、国民の約9割の人の情報が集計されています。
国民医療費
平成29年
厚生労働省
医療機関等における保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した当該年度内の費用を推計したものです。

そして、今回は、それぞれの指標を傷病別に以下のように入手または推計しています。

指標 入手または推計の方法
診療費 国民医療費の医科診療医療費(入院・入院外)
平均在院日数 患者調査の平均在院日数
新規入院患者数 医療給付実態調査の医科・入院の診療日数
÷(患者調査の平均在院日数[泊数]+1)
×国民医療費の入院の医科診療医療費
÷(医療給付実態調査の医科・入院の診療報酬点数×10[金額換算])
初診外来患者数 医療給付実態調査の医科・入院外の診療日数
×国民医療費の入院外の医科診療医療費
÷(医療給付実態調査の医科・入院外の診療報酬点数×10[金額換算])
×患者調査の外来患者数のうち初診
÷患者調査の外来患者数
×患者調査の外来患者数(歯科診療所は対象外)のうち紹介なし
÷患者調査の外来患者数(歯科診療所は対象外)
外来総患者数 {医療給付実態調査の医科・入院外の診療日数
×国民医療費の入院外の医科診療医療費
÷(医療給付実態調査の医科・入院外の診療報酬点数×10[金額換算])
-上記で推計した初診外来患者数}
×患者調査の再来外来患者平均診療間隔
+上記で推計した初診外来患者数
入院発生率
(国民1人あたり年間入院回数)
上記で推計した新規入院患者数÷総人口(患者調査の受療率に使われたもの)
初診外来発生率
(国民1人あたり年間初診外来回数)
上記で推計した初診外来患者数÷総人口(患者調査の受療率に使われたもの)

今回、「呼吸器系の疾患」からは風邪や花粉症等として急性上気道感染症とアレルギー性鼻炎を除外し、「消化器系の疾患」からは歯科関連として歯および歯の支持組織の障害を除外しています。これらを除外するため、元の計数から減算等により計数を調整しています。除外する部分の計数が上記の基礎データで表示されていない項目(国民医療費の医科診療医療費等)については、別の近い項目(医療給付実態調査の診療報酬点数等)の計数や別の近い傷病分類等の計数から、比を通じて簡易的に補完しています。