(画像はイメージです)

2008年5月に日本で開業したオンラインの生命保険会社である、ライフネット生命。2021年8月に、「海外市場における募集による新株式発行に関するお知らせ」を発表しました。社内の担当チームが、そのいきさつなどについて、リレー形式でお送りしていきます。
第5回は、経理部の嶋村が担当します。
>>第4回はこちら


こんにちは。ライフネット生命経理部の嶋村です。
当社の公募増資は上場以来、2020年7月に続いて2回目ですが、プロジェクトメンバーの大部分は1回目と2回目で入れ替わっております。私はその中で数少ない2回とも関与したメンバーの一人となりました。

今回の海外公募増資では、主に英文目論見書の英文財務諸表を担当したほか、計表関係の一部なども担当いたしました。しかし、昔から英語については得意といえるレベルではなく、資金調達に関する経験もこの2回以外はありませんでした。そんな中で、2回目の英文財務諸表の作成に当たっては、1回目の経験を活かして工夫してみたこともありました。それらの経験をいくつかご紹介しながら、英文財務諸表を作成する際に「ここを押さえるとうまくいく!」と思うことをお伝えします。

英文財務諸表のフォーマット

増資フォーマットが決まり、英文財務諸表の作成が必要となったら、まずは目論見書の他社事例を確認することをおすすめします。
一言で英文財務諸表といっても、各社細かい部分で作成方法に違いがあります。どの方法を採用するか事前に主幹事証券会社などと相談しておくとスムーズです。

2期+2期 or 3期併記
当社が採用したReg.S (Regulation S)フォーマットによる目論見書では、通年3期の英文財務諸表を記載します。当社では、3期併記した財務諸表を作成しましたが、「直近会計期間n年度の財務諸表(比較情報としてのn-1年度の情報を含む)」と「n-1年度の財務諸表(比較情報としてのn-2年度の情報を含む)」を記載する方法も一般的です(この2期+2期の方法を社外関係者の方はよく「にきにき」と称していました)。

端数処理
和文財務諸表では証券取引所のルールにそって、百万円未満の端数については切捨てとするのが一般的です。一方で、英文財務諸表は日本企業であっても海外の慣行に合わせて四捨五入にするケースもあります。さらに細かい話になりますが、四捨五入にも2種類あり、端数処理後の細目の数値を四捨五入した合計数値と一致させるように調整する方法と、調整しない方法があります。

当社の場合、1回目の増資の際は「四捨五入(合計数値を一致させる)」を採用しましたが、和文財務諸表との整合性や数値チェック作業の手間などを考慮して、2回目では「切捨て」を採用しました。当たり前のことですが、最初にこれを決めておかないと、後に相当の手戻りが発生して大変な手間がかかります(経験談です)。

米ドル換算
英文財務諸表では、直近会計期間の財務数値を米ドル換算したものを併記するケースがあります。当社でも1回目の増資では米ドル換算した財務数値を記載していましたが、数値チェック作業の手間を減らすために、2回目では削除しました。

社外関係者への仕事の依頼とスケジュール調整

私は英文財務諸表の作成をメインで担当していたため、その作成に関わる社外関係者とのやり取りも行っていました。プロジェクトが始まったら、何よりもすぐ手をつけなければならないのは、翻訳会社と監査法人への依頼とスケジュール調整です。

依頼の際には、上記の細かい作成方法についても要望を伝えておきます。今回のプロジェクトでは翻訳会社からの提案で、当社の経理担当者と翻訳会社の実務責任者と監査法人の現場責任者の三者で、スケジュールに関する打ち合わせを実施しました。お互いの繁忙期を共有し、重い論点から早めに手をつけられるようにしたことで、効率化を図ることができました。また、翻訳会社との原稿のやり取りはメールで行っていましたが、CCに監査法人と主幹事証券会社を含めるように了解を得ておくことも、連絡の省力化に有効でした。

和文入稿→英文原稿納品→コメントバック→直し原稿納品→コメントバック……

スケジュールが決まれば実際の作業開始です。和文財務諸表を翻訳会社に提出し、その後は翻訳会社によるドラフトの作成と、経理担当者・監査法人によるチェック、経理担当者・翻訳会社による直し作業の繰り返しとなります。

翻訳会社による直し作業は依頼から納品までタイムラグがあるため、全部丸投げにするのではなく、可能な範囲で経理担当者が直接原稿を直しておきます。自力での対応が難しい部分のみを残して翻訳会社に直し依頼をすると、結果として効率的にドラフトが仕上がっていきます。私の場合英語が苦手で、翻訳会社や監査法人にもその旨を伝えておりました。そのおかげで翻訳会社や監査法人の原稿に対するコメントは英語がわからない私でもわかりやすいものにしてもらえたと感じております。翻訳会社のみなさま、監査法人のみなさま、本当にありがとうございました。

そのほか英文財務諸表作成の留意点

英文財務諸表の作成は、和文の財務諸表を単純に機械的に直訳すればよいというものではありません。海外の投資家向けに、必要に応じて日本企業の会計の特徴について注記しなければなりません。それまで注記付きの英文財務諸表を作成していない場合は、追加説明の内容もゼロから考える必要があります。経験豊富な翻訳会社が初稿の段階でたたき台を作成してくれましたが、一般的な日本の事業会社には当てはまることでも、保険会社の会計では当てはまらないこともあったため、その確認でもいろいろと苦労しました。

最後に

以上、英文財務諸表作成を担当したことを通じて、私の振り返り内容を共有させていただきました。ここまで書いてみて、増資のプロジェクト全体からしてみればかなり枝葉でニッチな内容のような気がして、「この話も誰かの参考になるのだろうか」という不安があるのが正直な私の気持ちです。ウラ話としては、社員ブログの企画があがった際にも、「私は『端数処理には3種類ある』みたいな話しか書けませんよ」と話したのですが、なぜかその場では「そんなことあったよねえ!」と盛り上がってしまい、結局このネタで進めることになりました。

しかし、私も増資プロジェクトに情熱をかたむけたメンバーの一人であることはアピールしたいです。何もわからないところからスタートして、増資が実現した際には本当に報われた気持ちがしました。今回調達した資金を大いに活用できるように社員の一人としてこれからもがんばっていきたいと思います。

経理部
嶋村

<プロフィール>
IT系の上場企業にて経理業務に従事。その後、2017年11月ライフネット生命に経理部配属で入社。普段は決算・開示業務をはじめとする財務会計まわりを中心に、手広く経理業務を担当。今回の海外公募増資では英文財務諸表作成を担当。最近、実家マンションの売却に関わっているせいで動画配信サイトのおすすめ動画一覧が不動産動画だらけになる。

【その他の連載はこちら】
>>ライフネット生命の海外公募増資の出口①~海外公募増資の経緯を公開します
>>ライフネット生命の海外公募増資の出口②~海外公募増資の実行に当たって検討したこと 
>>ライフネット生命の海外公募増資の出口③~英文目論見書の作り方のコツ
>>ライフネット生命の海外公募増資の出口④~未経験の法務部員がみたもの