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もしものがんへの準備、何から始めるべき? どこに相談できる?【FP黒田の人生相談】

住んでいる自治体からがん検診の通知が届いた──自分の年齢を感じる瞬間です。今回の相談者さんも通知が届いていたのをきっかけに、がんについていろいろ調べてみたそうです。

しかし、調べれば調べるほど保険や制度に関するたくさんの情報に翻弄されて、何から準備していいのかわからなくなってしまいました。さて、どこから手をつけるべきなのか。いざというとき、どこに相談すればいいのでしょう。黒田先生がお答えします。

【相談】
40歳の男性です。先日、がん検診の通知が届き、「自分もがんについて心配をしなくてはならない年齢か」と実感しました。がんについて、すぐに自分でいろいろ調べてみたのですが、情報があまりに多すぎてちょっと困惑しています。いまの自分はまず何から準備するべきでしょうか。また、このような相談は本来、どこにしたら良いのでしょう。黒田先生、教えてください!(40歳・男性)


まずは知っておきたい、がんにかかったときに備える7つの情報


まず、以下の7項目をチェックしてみてください。

【1】 がんにかかったとき、どれくらい医療費がかかるか?
【2】 がんにかかったとき、医療費以外にどのような費用がかかるか?
【3】 がんにかかったときの自分の備え(貯蓄、民間保険)
【4】 自分が加入している公的保険(医療保険・年金保険)の種類
【5】 現在の年収で、高額療養費の自己負担額がいくらか?(付加給付の有無)
【6】 公的医療保険の対象になる医療(保険診療)と対象外の医療(自由診療)の違い
【7】 がんにかかったときの相談先(病院内の相談センター、自治体、相談支援センター、患者会、保険付帯サービスなど)

いかがでしょう? 知っているようで知らない項目、わかっているようでわかっていない項目はありませんか? まずはこれらの項目を抑えておきましょう。

ファイナンシャルプランナー・黒田尚子さんの写真
黒田尚子さん

【1】のがんにかかったときの医療費は、検査や診察、治療、入院など、病院に支払うお金で、「がんの部位」「進行度」で大きく変わってきます。その上、相談者さんが、がんに罹患したときに、どこまで治療を受けたいかの「価値観」にも左右されます。

例えば、公的医療保険が適用になる標準治療だけでなく、全額自己負担の自由診療や技術料部分の負担がある先進医療なども受けたい場合、かなり高額になるでしょう。ただし、厳密にはこれは治療費であって、実際に負担する金額のトータルではありません。でも、保険診療であれば、医療費の窓口自己負担額は最高でも3割ですし、高額療養費制度※も利用できます。

※高額療養費制度…医療費が上限額を超えた場合、その超えた金額が払い戻しされる制度。上限額は年齢や収入により変わる。

そもそも、医療技術の進歩等によって、がんといえども、入院期間は20日未満がほとんどです。別途発生する費用としては差額ベッド代と食事代がある程度でしょうか。

病院のベッドに横たわる男性と、そばで腕にそっと触れる看護師のイメージ画像
(画像はイメージです)

見逃せないのが【2】の医療費以外の出費です。がんにかかると、通院するためのタクシー代やガソリン代、かかりつけ病院が遠方であれば、宿泊費が必要になることも。

また、身体の状況によっては自宅のトイレに手すりを増やすなどの改装費、介護用品や医療用の抗がん剤治療の副作用で脱毛した際のウィッグや帽子など、さまざまな出費を覚悟しなければなりません。これらはいわば、人間らしい生活(QOL=クオリティ・オブ・ライフ)を維持するための費用。がんになった、病院にかかって治療を受けた、で終わりではないのです。
【1】と【2】を合計した治療費の目安は年間50万円〜100万円程度です。

だからこそ、【3】の貯蓄や民間保険で備えておくことが大切。貯蓄の額は、シングルかファミリーか、職業、住まいなどの状況によって異なりますが、生活費の3ヶ月〜半年分が一つの目安です。3ヶ月の根拠は、前述の高額療養費や傷病手当金、雇用保険の基本手当などが公的制度から支給されるまでに、2~3ヶ月ほどかかるからです。

【4】自分が加入している公的保険(医療保険・年金保険)の種類については把握されていると思いますが、【5】『現在の年収で、高額療養費の自己負担額がいくらか?』についてはどうでしょうか。高額療養費の自己負担限度額は70歳を境に分かれていて、さらに所得によっても変わります。ただし、国民健康保険が世帯全部の収入の合計が基準になるのに対して、健康保険では被保険者の年収が基準。ご自分がどこに区分されるのか確認しておいてくださいね。

あまり知られていないのが、【6】に挙げた保険診療と自由診療の違いかもしれません。

例……総医療費が100万円の場合

【先進医療の場合】
公的保険の給付対象となる医療費(10割)のうち、公的医療保険負担分が56万円(7〜9割)、窓口自己負担分が24万円(1〜3割)※
公的保険の対象外となるのは先進医療の技術料(先進医療を受ける場合)の20万円。自己負担分は44万円※

※高額療養費制度適用前の金額。適用される場合、さらに自己負担は軽減されます。

【自由診療の場合】
公的保険の対象外となるため、自由診療費用100万円が全額自己負担=100万円(全額)となる。

保険診療とは、公的医療保険が適用される診療です。健康保険の対象となる医療費のうち、1〜3割が窓口自己負担分、残りの7〜9割は公的医療保険が負担します。

対して自由診療とは、全額を患者自らが負担する診療のこと。その中間に位置するのが、公的保険との併用が可能な先進医療(厚生労働大臣が承認した高度な治療法)です。先進医療の技術料は全額自己負担になります。

がんにかかったとき、治療法を選ぶ必要がありますから、この点には注意して医師にも話を聞いてみてくださいね。


がん相談支援センターなどの相談先を活用しよう


【7】で挙げたがんになったときの相談先については、病院内には相談センターが設けられていますし、自治体では健康保険課などの窓口で助成などの相談ができるはずです。「がん診療連携拠点病院」にはがん相談支援センターが設置されていて、かかりつけでなくても利用できます。がん診療連携拠点病院は全国に400カ所ほどあるので、お近くに該当する病院があるのかチェックしておくと良いでしょう。

医師に相談する男性のイメージ画像
(画像はイメージです)

がんに罹患すると同じような立場にいるがん患者のリアルな声を聞きたいという思いが強くなりますが、そのようなときに役立つのが患者会。全国各地にさまざまな患者会があり、特定のがんに特化した患者会も多数あります。現在はオンラインでも開催されているので、遠方の患者会にもずいぶんと参加しやすくなりました。

それから、加入している民間保険の付帯サービスについても確認してみてくださいね。治療相談サービスやカウンセリングを受けられる保険もあります。どんなサービスが用意されているかのチェックもがんへの備えの一環です。

そして、がんへの備えで最も大切なのは、日頃から、がんにかからないように予防に努めることです。まず、喫煙・食事・運動等の生活習慣を見直し、がんにかかりにくい生活を心がける。これは、がんの1次予防と言われています。
2次予防として、定期的に適切ながん検診等を受けて、がんを早期発見することが大切です。

このほか、がんに関するエビデンス(科学的根拠)のある知識や情報を得たり、気軽に相談できる「かかりつけ医」「かかりつけ薬局」を持ったりすることも有効でしょう。

さあ、以上を踏まえて相談者さんの備えや準備は十分ですか。自分の貯蓄額や加入している保険の内容を今一度、確認してみてください。


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<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ) 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FPオフィス

※こちらの記事は、ライフネット生命のオウンドメディアに過去掲載されていたものの再掲です。

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