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産業医の先生に聞きたい!生活習慣の整え方のコツ

健康診断の結果に一喜一憂したのもつかの間、仕事などが忙しくて、何もしないまま日常生活に戻ってしまっている……でも、これって大丈夫なのかな? 健康診断の結果を受け取ってからの生活習慣の見直し方法と、健康不安を抱えている時の産業医の頼り方を、ライフネット生命の産業医である諏訪内先生に伺いました。

*前編はこちら↓


健康診断後に考えたい、生活習慣見直しの心得


──では、健康診断の結果で、この項目に異常があったらこういうリスクがある、といった項目の意味についてお伺いできますか。

諏訪内:主な検査項目ですと、身長や体重、血圧、心電図などの共通項目が最初にあります。

身長や体重は測った通りの数値でメタボリックシンドロームの予兆を見られますが、血圧や心電図は、タイミングによって違いが出る項目です。心臓は1分間に60回前後のペースで毎日動いています。一方で血圧測定や心電図というのは、その瞬間だけの数値を測ります。ですから、測ったタイミングによっては病気があっても基準値内に収まること……その瞬間はギリギリB判定だったとしても、1日を通してみるともっと悪い状態の可能性もあります。

重大な病気が見つかることもありますので、C判定以上であれば受診したほうが良いですね。また、健康診断以外の機会に測定をして基準値を外れていた場合も、注意が必要です。

──その時点で数値に異常があるということは、悪い方の可能性も意識して受診したほうが良いということなのですね。現状に問題がないから健康診断の結果に関係なく、生活習慣を見直さずに今まで通りの生活を続けようとする人も多そうです。健康診断後に生活習慣を見直す場合の心得を教えてください。

諏訪内:まず産業医が必ず確認するのが、その人がたばこを吸うかどうかです。それによって、リスクががらっと変わってくるので、禁煙はまず行ってほしい習慣見直しの一つです。

その次が、食事習慣・運動習慣・睡眠習慣ですね。「よく食べ・よく寝て・よく遊ぶ」なんて言いますけれど、「よく食べ」というのは三食バランスよく食べることです。特に朝食などは抜かないことですね。また、極端にローカーボ、つまり炭水化物を抜く食事をとる方も最近は聞きますが、それも避けたいです。
「よく寝て」は、6〜8時間程度の睡眠をとることで、寝ている途中で目が覚めてしまうとか、いびきが大きいとか、睡眠の質が悪い場合は睡眠の質を上げることが必要です。
「よく遊ぶ」は運動習慣として見ていきます。1日5,000歩から10,000歩の歩行をできれば毎日継続してほしいですね。

これらはいわゆるメタボリックシンドロームの予防と、メンタルの状態の改善にも関連があります。メタボリックシンドロームとメンタル状態の悪化は同時に進行していくことも多いので、食事や運動、睡眠を整えてバランスよく生活をするのが大切です。

──不摂生しがちな人に多いと思うのですが、「健康診断前だからお酒を控えよう」など、健康診断前だけ健康に意識を向けて過ごすのは、意味があるのでしょうか? それとも、正しい結果を見るためにはやらない方が良いことなのでしょうか。

東京医科大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科医師 諏訪内浩紹(すわない・ひろつぐ)さんの写真
諏訪内浩紹さん(東京医科大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科医師)

諏訪内:健康診断直前の中性脂肪やγGTP、血糖値といった一部の値を下げることは可能です。しかし、ヘモグロビンA1cや脂質異常症など、数日の生活習慣見直しでは改善しないものもありますね。積み重ねてきた期間が10年など長ければ長いほど、異常は目立つものです。健診は積み重ねてきたものの結果が出る、ということですね。

──先ほど朝食の話がありましたが、「自分は朝食をとらなくても調子が良いんだ」と言って朝食を抜いているという人は多いと思います。なぜ、朝食は抜いてはいけないのでしょうか?

諏訪内:人間の脳は体重の2~2.5%ほどの割合を占めます。そして体に取り込んだブドウ糖の約20%を脳が使っているんです。ざっくり、脳の体積に対して10倍くらいのエネルギー量を必要とする計算ですね。

朝にでんぷん質の食事をとると、インシュリンというホルモンとブドウ糖が生成されて、頭に栄養が行きます。大体14~16時間後、朝8時に食べたとすると夜22時くらいにその栄養が消費しきり、眠くなってきます。しかし、朝食を抜くと、その周期がずれ、入眠障害の原因にもなります。朝食を食べない人が不眠症になるリスクは、食べる人と比べて約2倍に上がってしまうんです。

最近、朝食はナッツなどで済ませる、低糖質な食生活をしている人もいますが、糖質が不足していると眠れなくなってしまう人もいるので、食べるものにも注意してみてください。

朝食をとらなくても、健康診断の結果も問題なく、夜もきちんと寝られるのであればそれで良いかもしれません。しかし、食べなかった分、空腹で昼に代理摂取、つまり必要以上に食べ過ぎてしまうこともあるでしょう。そうなると、それが肥満の原因になることもありますので、朝食をとることをおすすめしたいですね。

──疲労感や朝起きられないなど、体の不調を感じていても健康診断で異常がない、という人もいると聞きます。そういう場合、どうするのが良いでしょうか?

諏訪内:肩がこる、目の奥や頭が痛い、よく眠れない、不安感を日常的に感じている場合などは、高ストレス者に該当する可能性もあります。高ストレス者は、一般的に企業内で13~15%と、高い確率でいるものです。生活習慣に問題はないか、健康診断の結果に異常はないか、ストレスチェックで抑うつ症や適応障害などの疑いがないか、この3つをチェックすることが重要です。

肥満ぎみの方の中で顎が小さかったり、鼻が詰まったりする人は、睡眠時無呼吸症候群であることも考えられます。そういう方は健康診断の結果上は血圧がやや高く出ることもありますが、まったく正常の範囲のこともあります。健康診断の結果で異常はないけれど、朝起きぬけから疲れを感じるので受診をしたら実は、なんてことがあります。

他にも、強い疲労感などの症状が常に継続する慢性疲労症候群というものが、最近増えていると言われています。


健康診断と産業医を活用して、健康不安のない日常を過ごそう


東京医科大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科医師 諏訪内浩紹(すわない・ひろつぐ)さんの写真

──自分では気づけない異常や症状が隠れていることも考えられるのですね。そういう場合も、産業医の先生に相談しても良いのでしょうか?

諏訪内:もちろんです。結果と問診をもとに、アドバイスをしています。それも産業医の大切な仕事の一つです。色々と自分で調べてみたけれど何も分からなかったという人もいます。自覚症状がある場合には、健康診断の結果に関係なく、産業医に相談をするか、かかりつけ医での受診をしたほうが良いと思います。

一般的には、会社の人事総務担当者を通じて、産業医との面談をセッティングできますので、気になることがある人はぜひ相談してくださいね。

──多くの人は、心身ともに健康な状態でいたいと望んでいると思いますが、一方でそれはどういう状態なのか難しいなとも思っています。ちょっと気分が落ち込んでいたり、ちょっと頭が痛かったり、たまたま調子が悪いんだろうと見過ごしていたものが、大きな病気の自覚症状の可能性もあるのかなと思うと、少し怖いですね。

諏訪内:難しい問題ですよね。「幸せに生きて働いていくためには」という、幸福論のような話にもなってくると思います。仕事が安定していたり、不調を持っていても生活上支障を感じない状態だったりするならば、ご本人にとっては問題がないですよね。そんな中で、年に1回健康診断を受けることで、健康上の不安を取り除くことができるでしょう。健康診断であれ人間ドックであれ、受けた人の不安を取り除くのも重要な役割だと思います。

──健康状態に不安がなく日常生活を過ごせる、というのはとても大切ですね。しっかりと健康診断の結果と向き合って、いつも通りの毎日を長く続けられるようにしたいと思います。

<クレジット>
取材/ライフネット生命公式note編集部
文/年永亜美(ライフネット生命公式note編集部)
撮影/村上悦子

<プロフィール>
諏訪内浩紹(すわない・ひろつぐ)
医師、医学博士。2002年慶應義塾大学医学部卒業。大学院を経て、2004年よりハーバード大学ジョスリン糖尿病センター留学。2009年東京大学医学部附属病院 専門研修医、2011年国立健康栄養研究所 特別研究員、2012年東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教。2017年より東京医科大学病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 講師。総合内科専門医、労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、糖尿病専門医、腎臓専門医。

※こちらの記事は、ライフネット生命のオウンドメディアに過去掲載されていたものの再掲です。


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