FP黒田の人生の悩みはお金の悩み

「もしがんにかかったら働きながら治療できるのだろうか」「治療費はいくらぐらいかかるのだろう」──そんな疑問や不安を持つ方は少なくありません。今回の相談者さんは、友人の「がん保険に入っておくといいよ」の一言をきっかけに、がん治療と仕事の両立について考え始めました。実際にがんにかかった人はどのようにやりくりをしているのか、具体的な事例が知りたい! という相談者さんに、がん経験者でもあるFPの黒田先生が回答します。

【相談】
先日、友人との何気ない会話の中で「がんが不安ならがん保険に入っておくといいよ」とアドバイスされました。その一言をきっかけに、がんにかかったときの治療費や仕事の続け方について知りたくなりました。正直、治療をしながら働けるのであれば、そんなに心配し過ぎなくてもいのかな……と思ってしまいますが、働きながらがんを治療するとなるとどのようなやりくりが必要になるのでしょう。実際の事例と一緒にお聞かせください、黒田先生!(35歳・女性)

■がんになっても仕事は続けられる?

がんと仕事の両立については、働き盛りの世代の方には気になる話題ですよね。

がんの治療を受けながら仕事を続けられるか否かについては、病状や治療内容次第ではあります。しかし、がんになっても年次有給休暇や積立休暇、傷病休暇など有給休暇の範囲内で復職できる、という方もいますし、最近はコロナ禍の影響でリモートワークが一般化しているので、通勤がない分、ずいぶんと続けやすくなったという声もあります。東京都福祉保健局の「東京都がん患者の治療と仕事の両立に関する調査報告書」(令和4年1月)によると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大後、職場において、テレワーク(在宅勤務制度)・時差出勤制度・フレックスタイム制度等の柔軟な働き方が導入・推進されたと回答した人が55.1%にのぼっています。福利厚生がしっかりしている会社勤務で、仕事内容も身体に負担をかけないものであれば「がんになっても仕事は続けられる可能性はある」と考えていいでしょう。

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これは統計からも明らかです。同局の「東京都がん医療等に係る実態調査結果(がん患者の就労等に関する実態調査)」(平成31年3月)によれば、「がん罹患が分かりすぐに辞めた人」「がんを治療しながらしばらく働いていたが辞めた人」「がん治療のために辞めたが別の会社に再就職した人」の合計は16.7%。これは同局の「『がん患者の就労等に関する実態調査』報告書」(平成26年5月)よりも減少しています。職場の理解が深まっているためだと思われます。

がんは高齢者だけがかかる病気ではありません。国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)によると、いまやがん患者の約3人に1人が20歳〜69歳の働く世代。仕事を続けながらがんを治療することは、一般的な光景になりつつあります。

仕事を辞めずに済むように、国の就労支援策も整備が進んでいます。例えば、2022年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されました。これはがんを含めて、治療と仕事の両立の観点からより柔軟な所得保障を可能にした改正です。改正により、同一のケガや病気に関する傷病手当金の支給期間が、支給開始日から通算して1年6ヶ月になりました。

改正により、支給期間中に途中で就労したなど傷病手当金が支給されない期間がある場合には、支給開始日から起算して1年6ヶ月を超えても繰り越して支給が可能になったのです。なお、経過措置として、改正前に受給中の方も、令和2年7月2日以降に受給開始であれば、2022年1月1日時点で1年6ヶ月を経過していないため、受給期間が通算して1年6ヶ月に達するまで受給できます。

■治療によって異なる入院や通院期間

がん治療の内容は、がんの種類や進行度、既往症などその方の身体状態によって変わってきます。就労支援策が整ってきたとはいえ、職種や業務内容によって、仕事にどれぐらいの影響が出るのかも異なります。

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がん治療の内容を大きく分類すると、手術、薬物療法(化学療法)、放射線治療、支持療法・緩和ケアなど。さきほどの東京都福祉保健局の平成31年3月の報告書を見ると、受けたことがある治療は全体では薬物療法(化学療法)がもっとも高く、手術、放射線治療と続きます。

しかし、ステージによってその順位は異なるんですね。がんのステージⅡ期までは手術の割合が82.6%ともっとも高く、ついで薬物療法(化学療法)が53.3%と続きます。ところが、ステージⅢ〜Ⅳ期になると、もっとも多いのは薬物療法(化学療法)で87.4%。手術は二番目で54.1%です。※東京都福祉保健局「東京都がん医療等に係る実態調査報告書(がん患者の就労等に関する実態調査)」(平成31年3月)

では、治療によって、どの程度の入院や通院期間が必要になるのか。ここでは乳がんを例に挙げてご紹介しましょう。

がんの疑いが出てから通院し、がんの診断が下りるまでは、1〜2週間ごとに3〜5回、半日かかる通院が約1〜2ヶ月続きます。診断の結果、手術をすることが決まった場合には、入院とその後の療養期間が発生します。期間としては入院1〜2週間に加えて、在宅等での2〜3週間の休養が必要です。

その後、再発を防ぐための化学療法は、点滴あるいは経口薬で行いますが、最近では入院せず、通院で対応できます。ただし、副作用の出方をみるために、最初だけ入院して行う場合もありますし、化学療法に副作用はつきもの。さまざまな副作用で身体的な不調が出た場合には、予定の調整が欠かせません。使用する薬剤によって変わりますが、化学療法を受けるのは3週ごとに半日×4〜6回。おおむね3ヶ月〜6ヶ月かかると考えてください。

術後に、再発防止目的で温存した乳房などに対する放射線治療を行うとなれば、平日の決まった時間を使って25〜30回の治療を受けることになります。期間としては5〜6週間でしょう。

この後、再発を防ぐためのホルモン療法を経口治療で受ける場合には、さらなる通院が必要です。治療時間は3〜4ヶ月ごとに半日。これが最低5年間、場合によっては10年続くこともあり、この間、さまざまな副作用と折り合いをつけなければなりません。

いかがでしょう。これでだいたいの入院期間や通院期間を把握していただけたでしょうか。

なお、病休開始から職場復帰までの必要日数について、時短勤務ができるまで要した日数の中央値が80日(約2ヶ月半)、フルタイム勤務ができるまで要した日数の中央値が201日(約6ヶ月半)というデータもあります。※遠藤源樹氏による「がん罹患社員の病休・復職実態追跡調査」(病休・復職コホート研究)

■全体像を俯瞰しよう

がんにかかったらどれぐらい治療費がかかるのか、それをどうやりくりすべきなのかは、知っておくと安心です。

がん治療の費用については先に説明した通り、告知を受けた1年目が一番かかるケースがほとんどです。診察や治療・検査・手術に伴う医療費ばかりではなく、医療費以外の差額ベッド代、食事代、通院に伴う交通費、場合によっては宿泊費、ウィッグ代などの費用も発生します。がんに罹患した場合には、これらの項目ごとに年間の費用の見通しを立てると良いでしょう。

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その上で、戻ってくる・受け取れるお金についても調べてみてください。例えば、

  • 高額療養費制度による払い戻し
  • 加入している健康保険組合が独自に行う付加給付
  • 確定申告による医療費控除の還付金
  • 住んでいる自治体の助成制度の有無
  • 民間保険の給付金

など。どのタイミングでどんな制度を使えるのかを知っておくことが重要です。早いうちから全体像を俯瞰しておきましょう。

全国のがん診療連携拠点病院や小児がん拠点病院、地域がん診療病院に設置されている、がんに関するご相談の窓口「がん相談支援センター」に行けば、通院や治療、治療後の療養に必要なお金、さらには利用できる制度や保険などについて適切な情報を得ることができます。こうした場所は積極的に活用してください。

私の体感として、相談の場があることを後から知った、という患者さんは意外に多いです。「この制度が使えたなんて知らなかった」と思ってもそれはもう後の祭り。早いうちから最新の情報をチェックしておいてくださいね。

さて、相談者さんはご友人から「がん保険に入っておいた方がいい」とアドバイスされたのですよね。これに対する私の答えは、「必要があれば入りましょう」。がん保険に限らず、保険は必要なときに必要な分だけ入るのが原則だと思います。

治療費はまず公的な制度を活用し、それで間に合わない分については預貯金でまかなうのが一番。前回にもお伝えしましたが、がんに備える場合、生活費×3ヶ月〜半年分程度の蓄えがあれば安心できると思います。毎月の生活費が30万円であれば90万円〜180万円ということです。それが難しい場合は、事前の自助努力として保険に入っておきましょう。

<プロフィール>
黒田尚子(くろだ・なおこ)。 1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FPオフィス

<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子