2022年11月15日、ライフネット生命本社で若手社員を対象にした「お金に関する勉強会」が開催されました。登壇したのは、【FP黒田の人生相談】でおなじみのファイナンシャルプランナー・黒田尚子さんと、金融審議会 市場ワーキング・グループの委員も務めたフィナンシャルジャーナリスト・竹川美奈子さん。前回の黒田先生に続き、資産形成に関する竹川先生の講義の内容をご紹介しましょう。
※本記事は、お金に関する知識の提供を目的としています。特定の商品の売買の勧誘を目的としたものではありません。金融商品を購入する際は、商品の特性等を十分理解したうえで、ご自身の責任と判断で行ってください。
※本記事の投資に関する情報は、公開情報などから引用したものであり、情報の正確性などについて保証するものではありません。
<当日のプログラム> (1) FP黒田さんによる講演「20代前半の若手社会人が知っておきたいお金のこと~50代になったときに後悔しないために~」←前回 (2) 竹川さんによる講演「今日から資産形成を始めよう!」←今回 (3)参加社員からの質疑応答←今回 |
■資産形成をすることで将来の選択肢が増える
今回、竹川先生が資産形成のモデルとして想定したのは、20代半ばで未婚の女性・Aさん。
【ケース:Aさん】 ・年収450万円 ・結婚や出産の予定は5年以内 ・家賃6万の賃貸マンションに暮らす ・いずれは転職も考えている |
資産形成の手段として現在AさんがやっているのはつみたてNISAのみ。それ以外の方法はまだノータッチです。興味はあるけれど、転職も考えているから経済状況をあまり圧迫したくないし、リスクも負いたくない──そんな慎重派のAさんを想定し、竹川先生の講義がスタートしました。
「まず、なぜ資産形成が必要なのでしょう。私は、将来の選択肢をふやすためだと思います。『いまは余裕がないから……』とか、『お金がないから……』という気持ちも分かりますが、資産形成のためには先延ばしは禁物。お給料の一部でいいですから貯蓄や投資に回していってほしいですね。今は少額から始められる金融商品もありますから」
続いて竹川先生は、お金について考える時に必ず頭に思い浮かべてほしいという三角形を示しました。三角形の一番下が ①国から受けられる公的保障、真ん中が ②勤務先の企業内保障、そして、一番上が ③自分で準備する部分です。例えば、死亡保障や老後資金づくりも、③だけをイメージして自分ですべて準備しなくてはと考えている人が多いものの、この3つを総合的に考えることが大切だと竹川先生は強調します。

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「これを資産形成に当てはめると、①は国から受け取る国民年金と厚生年金保険です。前者の受取額が加入期間の長さのみで決まるのに対して、後者は加入期間の長さとその間の平均報酬で決まりますから、長く働くこと、稼ぎ力を上げることが大事。将来の見込額については「ねんきんネット」で確認しましょう。いまはマイナポータルからも入れますよ。例えば、独立して国民年金だけになったら将来受け取る年金額がどのくらい減るのかといったことも試算できます。
②は、一般的には退職一時金や企業年金(確定給付型・確定拠出型)が該当します。会社によって異なるので、自社がどんな制度を用意しているのかを正しく把握することが大切です。御社の場合、会社が一部奨励金を出している従業員持株会は②+③。企業型確定拠出年金は選択制(給与切り出し型の確定拠出年金)なので、③に近いです。」
③自分で準備する部分については、給料が余ったら貯蓄に回す、余裕があったら投資に充てるやり方ではなく、「貯めながら増やす」仕組みが重要だと指摘します。
「貯蓄用(目的のために貯めていく)、プール用(万一に備えるお金や、帰省代や固定資産税などを一時的においておく)、投資用(長期的にお金を育てる)の3つのポケットをつくり、給与振込口座から自動的に貯まる仕組みをつくってしまいましょう。それぞれの口座に割り振る月額を決めて、自動積立預金や積み立て投資の設定をします(一部ボーナス時でもよい)。一度設定してしまえば、後は自動化できるので、お金の管理が楽になり、お金を貯めるストレスや悩みからも解放されます。
Aさんの場合、結婚はこれからですから、いま貯蓄をしているなら基本的に継続する方針で、その金額の半分を投資に回してはどうでしょう。今AさんはすでにつみたてNISA口座で投資信託の積み立てをしているので、その金額を少し増やす方向で考えてみてはどうでしょう。投資信託は少額から自動的に積み立てていけますし、必要なときに一部だけ解約することもできるので使い勝手がよいです」

竹川美奈子さん
■長期・分散・低コストが資産形成のポイント
投資のポケットをつくるとき、ぜひとも押さえておきたい基本的なポイントがある、と竹川さん。それは、「長期・分散・低コスト」の3つ。投資信託のように分散されたパッケージをもって、長期で運用していく方法を詳しく解説しました。
「投資信託の積み立てを行う場合、税優遇のある制度を優先したいもの。代表的なのがつみたてNISAや職場つみたてNISAです。つみたてNISAは一定の条件に合致した投資信託を一定金額ずつ積み立てていく制度です。非課税期間は最長20年、1年間に投資できるお金の上限は40万円で、解約したときの利益や普通分配金に税金はかかりません(*1)。
つみたてNISA対象商品は株式に投資する商品や、株式と債券にまとめて投資するような商品、つまり株式が入っているものが対象で、債券やREIT(上場不動産投信)だけに投資する商品は対象外という決まりがあります。また、投資信託は保有中に手数料(信託報酬)が差し引かれますが、つみたてNISA対象商品には上限が設定されていて、手数料の高い商品は除外されています。購入時の手数料も全て無料です」
講演を行った2022年11月時点でのつみたてNISAの対象商品の数は215本(*)。そのうち、指定インデックスファンド(指定された株価指数などに連動した運用成果を目指す投資信託)が185本と大部分を占めています。そのほか、指定インデックスファンド以外の投信が23本、ETF(証券取引所に上場している投資信託)が7本。かなり多いように思えますが、実はこれでも十分に絞り込まれているといいます。
「日本で買える投資信託が何本あるかご存知ですか? 実は、6,000本近くもあるんです。つみたてNISAはそのうちの約3.5%ですから、かなり絞り込まれています。だから選びやすいと思います。でも、せっかく口座を開設しても、そのままつみたてNISAを始められずにいる人もいます。商品の品ぞろえがよいなら、本数が絞られていて、給与天引きで投資信託を購入していける職場つみたてNISAを利用してもよいかもしれませんね」
*1:2024年から新しいNISAとなり、つみたて投資枠(120万円)・成長投資枠(240万円)を合算した360万円まで投資が可能となる
*2:2023年2月9日現在、つみたてNISA対象商品は221本に
■分散投資は長期間続けてこそ効果を発揮
投資のポイントの一つである「分散」については、竹川先生は次の点を強調します。
「これから投資を始める人はまずは世界地図や地球儀を思い浮かべてください。今日参加している皆さんは若い人が多いので、世界の会社の株をまとめて持つことから始めてみましょう。今は1本で日本を含む世界の株にまとめて投資できるインデックスファンドもあります。日本については個別の会社の株に投資している、という人は海外の株式に投資する投資信託を積み立てていく選択肢もありますね」
そうはいっても、つみたてNISAでどんな商品を選んだらいいのかわからない、迷ってしまうという人も多そうです。竹川先生は投資信託の評価会社のサイトを使ったスクリーニング方法をアドバイスします。
「例えば、投信評価会社のモーニングスターのウェブサイトには「つみたてNISAの総合ガイド」という特設ページがあります。対象ファンドが一覧で出ていて、例えば、インデックスファンドか、アクティブファンドか、インデックスファンドなら株式型かバランス型か、どの地域に投資したいか(国内、海外、両方)、そして、その指数に連動する商品がよいかなどをチェックすると絞り込みができます。また保有中にかかる手数料(信託報酬)の安い順に並び替えることもできます。こうした機能を活用してみてはいかがでしょうか」
投資のリスクについてはどのように考えればいいのでしょう。竹川先生は国内債券、外国債券、国内株式、外国株式それぞれの期待リターンと実質リターン、そしてリスクを紹介しながら解説します。
「慎重派のAさんが注目すべきはリスクです。リスクというのは、資産運用の世界では「リターン(収益)の変動」、つまりリターンのブレの大きさを指すのが一般的です。将来のリターンは確定しませんが、それぞれの資産のリターンが毎年どのように推移してきたかを見ることでリスクが分かります。表はそれぞれの資産のブレ幅を示していて、数値が大きいほどブレ幅が大きくなります。通常リターンを起点にリスクの数値の2倍程度は上下に変動するといわれます。
長期的に考えると株式に投資する投信の方がふえる可能性は高まりますが、その分、価格の変動が大きくなります。皆さんのように、運用期間を十分に取れる場合には株式に投資する投信を積み立てていけばよいと思いますが、運用も終盤になり、リスクを抑えたいという場合には投資する金額を減らすか、株式だけでなく債券などを組み合わせること(バランス型投信などを活用する方法も)。
例えば、国内外の株式や債券に仮に4分の1ずつ積み立て投資をした場合、過去のデータでは5年だと元本割れすることもありますが、20年続けると運用成果は2〜8%に収れんしていますね。投資は分散投資に『長期』を組み合わせることが大事なんです。金融庁のウェブサイトには「つみたてNISA早わかりガイドブック」がありますから、一度読んでみてくださいね」
■持ち運びが可能な企業型確定拠出年金
続いて竹川先生が解説したのは、企業型確定拠出年金。これは原則60歳まで引き出せないので、退職金・老後資金をつくっていく制度。自分で商品を選んで運用していく方法です。株式を含む投信・ETF(上場投信)に限定されているつみたてNISAとは違い、定期預金や保険など元本確保型の商品も含まれているのが特徴です。
「御社で導入される選択制DC(給与切り出し型の確定拠出年金)は、生涯設計手当の分を従来通り給料として受け取るのか、企業型の確定拠出年金に割り当てるのかを選ぶ必要がありますが、一度確定拠出年金に加入すると、全額給与受取りは選択できなくなるので最初に注意が必要です。
また、確定拠出年金に加入するとその分お給料が減るので、厚生年金保険料や健康保険料といった社会保険料の負担も減りますが、Aさんのようにこれからお子さんを生みたいという方であれば、出産手当金や育児休業給付金の金額にも関わってきます。社会保険料が減ると、将来の給付も減る可能性があるということも知っておく必要がありますね」
最後に、竹川先生は忘れてはならない重要な点を指南します。それは、企業型確定拠出年金は持ち運び(移換)が可能だということです。
「もし転職しても、企業型確定拠出年金は転職先の会社に持ち運びできるんですよ。もし転職先に企業型確定拠出年金がなければ、自分でiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入をすれば資産を移せます。ただし、6ヶ月以内に手続きをしないと自動的に国民年金基金連合会に移換されてしまい、運用されずにひたすら手数料を取られることになります。そうした方が100万人以上もいるのが現状です。必ず6ヶ月以内に移換の手続きを行いましょう」
■老後資金はいくらあったら安心できる?
竹川先生と黒田先生のお話が終わった後、質問タイムが設けられました。以下、主な質問と先生方のお答えを紹介しましょう。
【ライフネット生命社員】 「老後に必要な資金は2,000万円という話もありますが、実際に老後はどのくらいお金があればいいのでしょうか。目安を教えてください」 |
黒田先生は金額にとらわれてはいけないとアドバイスします。
「最近は70歳すぎまで働いている人も多いですよね。極論を言えば、生涯現役で収入がずっとあればお金は貯めなくてもいい。お金がたくさんあると、確かに豊かに暮らせる可能性は高まりますが、心地よく生活するのに必要な金額は人によって違います。将来何歳ぐらいまで働けるのか、働きたいのか。それを考えて、足りないと思われる金額分を、リタイアするまでに貯めておくとよいと思います」
全体設計の重要性について指摘するのは竹川先生です。
「老後に備えて資金をつくることは大事ですが、全体設計を考える視点がより大事です。例えば、公的年金は1ヶ月繰り下げることに0.7%ずつ受け取り額が増えます。自分は公的年金をいくらぐらい受け取れるのか、繰り下げたらいくらぐらい増えるのかを50代半ばくらいに整理してみるとよいでしょう。併せて、誰とどこに住み、どのような暮らしをするのか、どのくらいの生活費がかかりそうかをイメージしてみてください。そして、公的年金を受け取るまでの中継ぎとして、つみたてNISAや企業型DCやiDeCoを利用して積み立てた投資信託や預金などの金融資産でカバーできれば、長寿時代に備えられると思います」
黒田先生がお話の中で取り上げた「消費・浪費・投資」の見極めについては、次のようなリアルな質問があがりました。
【ライフネット生命社員】 「私はラテ・マネーが多く、ちょっとストレスがたまるとつい、コンビニでケーキを買ってしまいます。自制がきかないときはどうしたらいいでしょうか」 |
黒田先生のアドバイスはズバリ「見ないこと」。世の中のマーケティング戦略は、消費者の奥に潜む欲望を刺激するようにできています。目に入れば、つい欲しくなるような商品から自分を遠ざける方法です。
「ダイエットと節約は同じ。無理をするとリバウンドするんですね。大事なのは続けることです。ストレスを我慢すると継続が難しくなるので、浪費をいきなりゼロにするのではなく、少しずつ減らしてみてはいかがでしょうか。週に5回ご褒美をあげていたら3回に減らすとか、少しずつ条件を下げるといいですよ。ただ、一番いいのは見ないようにすることです(笑)」
一方、竹川先生は毎月ある程度の金額を貯蓄や投資に回す仕組みをつくったら、あとはある程度自由に使ってもよいのではと語ります。
「好きなものは買ってもいいと思いますが、予算は立てたほうがとよいと思います。以前、洋服をたくさん買っていた人が、年間予算を決めて別の預金口座で管理してみたところ、半年でなくなり、秋以降は洋服を買えなくなったという話を聞いたことがあります。自分が思った以上に使っていたんですね(笑)。スイーツ好きの方なら、『今月はこれくらいなら使ってもいい』と決めて、予算が尽きたら諦める。そんな方法もいいと思いますよ」
具体的な話や事例、わかりやすい情報をもとに、お金に関する考え方や資産の形成方法について黒田先生と竹川先生にお話いただいた勉強会。参加した社員たちは深くうなずきながら両氏のお話に聞き入っていました。誰もがお金との付き合い方や資産形成について考え直し、一歩踏み出したことは間違いありません。
<プロフィール>
竹川美奈子(たけかわ・みなこ)。
大学卒業後、出版社や新聞社勤務などを経て独立。2000年フィナンシャル・プランナー資格を取得。取材・執筆活動を行うほか、投資信託やiDeCo(個人型確定拠出年金)、マネープランセミナーの講師などを務める。個人投資家の立場から金融商品・サービスの研究・分析を行うとともに、自らもiDeCoやNISAを活用、投信積み立てを実践中。近著『一番やさしい! 一番くわしい! 個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)活用入門』(ダイヤモンド社)のほか、『50歳から始める!老後のお金の不安がなくなる本』、『改訂版 一番やさしい! 一番くわしい! はじめての「投資信託」入門』など著書多数。
黒田尚子(くろだ・なおこ)。
1969年富山生まれ。立命館大学卒業後、1992年(株)日本総合研究所に入社。SEとしておもに公共関係のシステム開発に携わる。1998年、独立系FPに転身。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・ウェブサイトへの執筆、個人相談等で幅広く活躍。2009年12月に乳がんに罹患し、以来「メディカルファイナンス」を大テーマとし、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動も行っている。CFP® 1級ファイナンシャルプランニング技能士、CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。
●黒田尚子FPオフィス
<クレジット>
取材/ライフネットジャーナル オンライン 編集部
文/三田村蕗子
撮影/村上悦子